「おい」
「なんや、三善?」

 相変わらずの人の好さを前面に出した宮道の表情に、三善は眉間にきつく皺を寄せた。まだ修学旅行は終わっていない。この後は、宮道のツテを使って、いくつかの大学を見学させてもらうことになっている。それが終われば、帰宅の途につくことができるはずだが、三善には気になって仕方がないことがあった。

「お前、日下部に何をした?」

 トーストを頬張っている宮道に真正面から三善は訊いた。

「何の話や」

 とぼけたように言ってのけたが、こちらは陰陽寮時代からの同期だ。その程度で隠せるものだとは向こうも思っていないだろうに。

「知らねぇとは言わせない」
「素が出てんで、三善」

 周りの雑音に紛れる程度の小さな声で話す三善に同じくらいのボリュームの声で宮道は返してきた。

「……なんで、お前が日下部に術を施してんだ。しかも、記憶操作の」
「彼女が知りすぎただけや」

 いつも飄々としているくせに、こういう時だけ目がふっと寂しそうにする。公安という仕事柄のせいか、それとも、宮道自身に課せられている任務のせいなのかは、三善には判断がつかない。

「宮道、お前」
「それより、今日もたくさん歩くで。しっかり、食べんやで」

 そう言い残すなり、宮道は席を立って、お代わりに行ってしまった。ぽつんと残された、三善は頬杖をついて軽くため息を吐いてから、山盛りになっているおかずに箸を伸ばして食べ始めた。