▶第5話 シナリオ
〇月城の屋敷/庭/夜
雨は降り続け、とても会話している場合ではないのに見つめ合う愛梨と蓮
蓮「化け物が巣食う鳳条家ですが」
愛梨「さきほどの……」
蓮「ええ」
蓮「世界にしじまを生み出すために、しじま喰いは人間をも喰らい始め……っ」
愛梨「蓮さん……?」
蓮「すみません……」
蓮「鳳条を掌握するのに、時間がかかって……」
顔を下に向ける蓮
体調が悪いと察した愛梨は、蓮の体を支えるために動く
蓮「俺に触れないでくださ……」
愛梨「っ」
膝をついた蓮を支えようとした愛梨
蓮の腹部から温かい血が溢れ出していることに気づく蓮
蓮「少しはかっこつけさせてくださいよ」
愛梨「いま人を呼びます」
愛梨(誰が、私たちを助けてくれるの……?)
蓮「愛梨様には、愛様にしかできないことがあります」
愛梨「蓮さん! もう喋らないで……」
愛梨(月城に、私の味方はいない)
蓮が着ている膝下まで届く黒い詰襟のコートに触れ、蓮の体から溢れ出る血を押さえ込む愛梨
蓮「愛梨様を月城から解放したら」
蓮「俺の役目は終わり……」
愛梨「さきほどの言葉は、嘘ということですか」
絶望的な環境であることを理解しながらも、愛梨は強い眼差しを蓮に向ける
蓮「っ、気づいているでしょう?」
蓮「は、ぁ……俺たちを助けてくれる人間がいないことを」
蓮「治癒の力は、存在しない……」
顔色が悪くなっていく蓮を、しっかりと抱きとめる愛梨
蓮「愛梨様と、生きてみたかったなぁ……」
蓮「愛梨様の音紡ぎに……」
蓮の意識が遠ざかり、言葉を発しなくなる蓮
愛梨「蓮さん! 蓮さんっ!」
雨の恵みを受けて咲く、花の美しさと強さに気づく愛梨
愛梨(歌……)
愛梨(神に届く歌が唄えたら……)
愛梨(願いは叶う)
街で子どもの怪我を治すことができなかったことが頭を過る
愛梨(治癒の歌)
蓮を支える手に、ぎゅっと力を込める愛梨
覚悟を決め、雨が降り注ぐ空に向かって歌を唄う愛梨
愛梨(神様)
愛梨(助けて)
愛梨(救いたい)
愛梨(蓮さんの命を、救ってください)
蓮の体調が回復する気配はないが、愛梨の歌を受けて少しずつ雨がやみ始める。
愛梨(届いて……)
愛梨(届いて……!)
完全に雨がやみ、庭に咲き誇る花たちから雨粒が滴る
意識を失っていた蓮だが、手をぴくりと動かし、愛梨の手をぎゅっと握る
愛梨「蓮さんっ」
蓮「……この歌を、ずっと聞きたかった」
愛梨「蓮さんっ!」
蓮「俺はずっと、愛梨様に会いたかった」
蓮の腕に包み込まれる愛梨
蓮「やっと、再会できた……」
いつしか空には虹が浮かび上がり、雨雲はすっかり遠ざかっていた。
愛梨(神様に、願いが届いた)
瞳いっぱいに涙を浮かべる愛梨
蓮の腕の中で、人の温かさに自分の身を委ねる愛梨
朔也「歌姫様確保っと」
見知らぬ人物の声が聞こえ、思わず身を震わせてしまいそうになる愛梨
それに気づいた蓮は、愛梨をさらに強い力で抱きしめながら顔を上げる
蓮「愛梨様の保護をお願いできますか」
保護という言葉を強調する蓮
朔也「うん、うん」
朔也「蓮くんが約束を守ってくれるのなら喜んで」
蓮の腕の中で不安な気持ちを抱える愛梨
蓮「味方ではないですけど」
蓮「悪い人ではないです」
蓮の言葉を信じているという姿勢を見せるために、首を縦に振る愛梨
〇鳳条の屋敷/蓮の部屋/夜
日本の伝統的な木造建築に視えながらも、洋風の建築が混ざり込む擬洋風建築
足かせに繋がれることなく、自由に庭を動き回ることのできる愛梨
ベッドで休んでいる蓮が早く回復するように、世話係を率先して担う愛梨
蓮「愛梨様」
愛梨「蓮さん、口を開いてもらえますか」
蓮「あなたは歌姫であって……っ」
蓮の口の中に、冷ました粥を運ぶ愛梨
愛梨「まずは体力を回復させてください」
愛梨「私の歌が万全でなかったときのために」
お粥を咀嚼して、ゆっくりと飲み込む蓮
蓮「俺が死んだとしても……」
愛梨「死なせません」
愛梨「必ず私が、神に歌を捧げます」
口では強気な発言をしていても、胸の内が不安でいっぱいの愛梨
そんな愛梨の強がりに気づいた蓮は、愛梨の頭を優しく撫でる
愛梨「蓮さんは、ご自分の気持ちを隠しすぎです」
蓮「俺ですか?」
蓮に甘やかされてばかりの愛梨は、ほんの少しだけ不貞腐れたような表情を見せる
愛梨「蓮さんを助けてくれる人、いました」
蓮「あー……あれは、兄です」
蓮「鳳条朔也。兄ではありますが、紫藤の血筋ではありません」
蓮「しじま喰いを視ることはできません」
蓮の口にお粥を運ぶはずだった愛梨だが、その手が止まる
蓮「……歌姫様に託す願いではないのですが」
蓮「少し汗をかいたので、西洋手拭を濡らしてきてもらえませんか」
愛梨「あ、気が回らずに申し訳ございませんでした」
膝の上に置いていたお盆を机の上に乗せ、椅子から立ち上がる愛梨
愛梨が部屋から出て行く様子を見守る蓮
〇鳳条の屋敷/廊下/夜
西洋手拭(タオル)を濡らす場所を探す愛梨
誰もいない屋敷の中を不審に思っていると、窓を開けて外の景色を眺めている朔也と遭遇する
愛梨「すみません」
朔也「ん?」
朔也「やあ、歌姫様」
爽やかな笑みを浮かべて、愛梨と対峙する朔也
愛梨「西洋手拭を濡らしたいのですが」
朔也「ああ、蓮くんのお世話かな」
朔也「ありがとう、使用人を雇う余裕が鳳条にはなくてね」
朔也がネクタイを緩め、少し粗雑な印象を与えるほど服を着崩す
朔也「はぁ、堅苦しい」
窓の向こうには手入れの行き届いていない庭が広がっていて、愛梨と朔也は何もない窓の向こう側に視線を向ける
朔也「歌姫様を奉る意味はわかってても」
朔也「人間に優劣をつける月城が好きじゃないんだ」
朔也の視線が自分に向いたことに気づき、愛梨も視線を朔也に戻す
愛梨「蓮さんと血の繋がりはないとお聞きしましたが」
愛梨「話し方や雰囲気が似ていますね」
朔也「本当?」
朔也「でも、肝心の蓮くんは血の繋がりを拒んでてね」
朔也「今回の件で、初めて頼ってもらえたよ」
兄らしい優しい瞳を浮かべ、蓮に頼ってもらえることに喜びを抱く朔也
愛梨「蓮さんは、ずっと孤独なのでしょうか」
愛梨が発した孤独という言葉に、真摯に向き合う朔也
愛梨「月城にも、紫藤にも味方はいない……」
愛梨「しじま喰いを視えるのは、月城と紫藤しかいないのに……!」
朔也「しじま喰いを討伐するときは、血が噴き出るんだってね」
愛梨「はい……蓮さんは、返り血を浴びました」
朔也「愛梨様を襲った鳳条の人間はどうだったかな」
愛梨「私を……っ、あの方が見えるのですか」
朔也「見えるもなにも、鳳条渓は当主になる予定だった人物」
朔也「しじま喰いを視ることはできないけど」
朔也「しじま喰いが喰らった人間は、僕でも視ることができる」
愛梨「蓮さんの協力者を増やすことが可能……」
朔也「そういうこと」
愛梨の中に希望が生まれ、一気に表情が華やぎそうになる愛梨
朔也「ただ、蓮くんに頼ってもらえるかは別だけどね」
愛梨「必ずお伝えします」
愛梨「蓮さんを想っている方が、ここにいらっしゃることを」
朔也「ありがとね、愛梨様」
朔也に礼を述べて、蓮が待っている部屋へと戻る愛梨
濡らした西洋手拭を手に持って、蓮の部屋も扉を開ける
愛梨「蓮さん」
愛梨「ご報告が……」
ベッドに蓮の姿がない
愛梨「蓮さ……」
【回想】朔也「ただ、蓮くんに頼ってもらえるかは別だけどね」
愛梨(そんな単純な話じゃなかった)
部屋の出入り口へと振り向いて、蓮の部屋から飛び出す愛梨
愛梨(家族を説得する難しさは、私が一番よく知ってる)
屋敷を走り回る愛梨だが、朔也はもちろんのこと誰一人いない屋敷に不安を抱く愛梨
どこにも蓮がいないことに焦りを感じていると、蓮が屋敷の出入り口から出て行くところが視界に入る
愛梨「蓮さんっ!」
愛梨の声に気づいた蓮が、愛梨の方を振り向く
精いっぱい叫んだ愛梨は、急いで玄関ホールの大階段を下りる
蓮「っ、愛梨様」
愛梨が階段の上り下りに慣れていないと気づいた蓮は大階段へと駆け寄って、愛梨を受け止めるために腕を伸ばす
愛梨は躊躇うことなく、蓮の腕の中へと飛び込む
愛梨「私は、まだ傷ついていません」
愛梨を抱きしめる手に力を込める蓮
蓮「十分でしょう」
蓮「誘拐すると言っておきながら、愛梨様を放置しようとしたのですから」
蓮に抱きしめられていると実感した愛梨は、自分の腕に力を込めて蓮を逃がさないようにする
愛梨「蓮さんを忘れられなくなるくらい、傷をつけてください」
少しだけ背伸びをして、蓮の表情を覗き込もうとする愛梨
それに気づいた蓮は瞳を潤ませながら観念し、愛梨の瞳とまっすぐに向き合う
蓮「酷なことを強いますよ」
愛梨「それは、命令ですか」
蓮「価値のない俺に、愛されてください」
〇月城の屋敷/庭/夜
雨は降り続け、とても会話している場合ではないのに見つめ合う愛梨と蓮
蓮「化け物が巣食う鳳条家ですが」
愛梨「さきほどの……」
蓮「ええ」
蓮「世界にしじまを生み出すために、しじま喰いは人間をも喰らい始め……っ」
愛梨「蓮さん……?」
蓮「すみません……」
蓮「鳳条を掌握するのに、時間がかかって……」
顔を下に向ける蓮
体調が悪いと察した愛梨は、蓮の体を支えるために動く
蓮「俺に触れないでくださ……」
愛梨「っ」
膝をついた蓮を支えようとした愛梨
蓮の腹部から温かい血が溢れ出していることに気づく蓮
蓮「少しはかっこつけさせてくださいよ」
愛梨「いま人を呼びます」
愛梨(誰が、私たちを助けてくれるの……?)
蓮「愛梨様には、愛様にしかできないことがあります」
愛梨「蓮さん! もう喋らないで……」
愛梨(月城に、私の味方はいない)
蓮が着ている膝下まで届く黒い詰襟のコートに触れ、蓮の体から溢れ出る血を押さえ込む愛梨
蓮「愛梨様を月城から解放したら」
蓮「俺の役目は終わり……」
愛梨「さきほどの言葉は、嘘ということですか」
絶望的な環境であることを理解しながらも、愛梨は強い眼差しを蓮に向ける
蓮「っ、気づいているでしょう?」
蓮「は、ぁ……俺たちを助けてくれる人間がいないことを」
蓮「治癒の力は、存在しない……」
顔色が悪くなっていく蓮を、しっかりと抱きとめる愛梨
蓮「愛梨様と、生きてみたかったなぁ……」
蓮「愛梨様の音紡ぎに……」
蓮の意識が遠ざかり、言葉を発しなくなる蓮
愛梨「蓮さん! 蓮さんっ!」
雨の恵みを受けて咲く、花の美しさと強さに気づく愛梨
愛梨(歌……)
愛梨(神に届く歌が唄えたら……)
愛梨(願いは叶う)
街で子どもの怪我を治すことができなかったことが頭を過る
愛梨(治癒の歌)
蓮を支える手に、ぎゅっと力を込める愛梨
覚悟を決め、雨が降り注ぐ空に向かって歌を唄う愛梨
愛梨(神様)
愛梨(助けて)
愛梨(救いたい)
愛梨(蓮さんの命を、救ってください)
蓮の体調が回復する気配はないが、愛梨の歌を受けて少しずつ雨がやみ始める。
愛梨(届いて……)
愛梨(届いて……!)
完全に雨がやみ、庭に咲き誇る花たちから雨粒が滴る
意識を失っていた蓮だが、手をぴくりと動かし、愛梨の手をぎゅっと握る
愛梨「蓮さんっ」
蓮「……この歌を、ずっと聞きたかった」
愛梨「蓮さんっ!」
蓮「俺はずっと、愛梨様に会いたかった」
蓮の腕に包み込まれる愛梨
蓮「やっと、再会できた……」
いつしか空には虹が浮かび上がり、雨雲はすっかり遠ざかっていた。
愛梨(神様に、願いが届いた)
瞳いっぱいに涙を浮かべる愛梨
蓮の腕の中で、人の温かさに自分の身を委ねる愛梨
朔也「歌姫様確保っと」
見知らぬ人物の声が聞こえ、思わず身を震わせてしまいそうになる愛梨
それに気づいた蓮は、愛梨をさらに強い力で抱きしめながら顔を上げる
蓮「愛梨様の保護をお願いできますか」
保護という言葉を強調する蓮
朔也「うん、うん」
朔也「蓮くんが約束を守ってくれるのなら喜んで」
蓮の腕の中で不安な気持ちを抱える愛梨
蓮「味方ではないですけど」
蓮「悪い人ではないです」
蓮の言葉を信じているという姿勢を見せるために、首を縦に振る愛梨
〇鳳条の屋敷/蓮の部屋/夜
日本の伝統的な木造建築に視えながらも、洋風の建築が混ざり込む擬洋風建築
足かせに繋がれることなく、自由に庭を動き回ることのできる愛梨
ベッドで休んでいる蓮が早く回復するように、世話係を率先して担う愛梨
蓮「愛梨様」
愛梨「蓮さん、口を開いてもらえますか」
蓮「あなたは歌姫であって……っ」
蓮の口の中に、冷ました粥を運ぶ愛梨
愛梨「まずは体力を回復させてください」
愛梨「私の歌が万全でなかったときのために」
お粥を咀嚼して、ゆっくりと飲み込む蓮
蓮「俺が死んだとしても……」
愛梨「死なせません」
愛梨「必ず私が、神に歌を捧げます」
口では強気な発言をしていても、胸の内が不安でいっぱいの愛梨
そんな愛梨の強がりに気づいた蓮は、愛梨の頭を優しく撫でる
愛梨「蓮さんは、ご自分の気持ちを隠しすぎです」
蓮「俺ですか?」
蓮に甘やかされてばかりの愛梨は、ほんの少しだけ不貞腐れたような表情を見せる
愛梨「蓮さんを助けてくれる人、いました」
蓮「あー……あれは、兄です」
蓮「鳳条朔也。兄ではありますが、紫藤の血筋ではありません」
蓮「しじま喰いを視ることはできません」
蓮の口にお粥を運ぶはずだった愛梨だが、その手が止まる
蓮「……歌姫様に託す願いではないのですが」
蓮「少し汗をかいたので、西洋手拭を濡らしてきてもらえませんか」
愛梨「あ、気が回らずに申し訳ございませんでした」
膝の上に置いていたお盆を机の上に乗せ、椅子から立ち上がる愛梨
愛梨が部屋から出て行く様子を見守る蓮
〇鳳条の屋敷/廊下/夜
西洋手拭(タオル)を濡らす場所を探す愛梨
誰もいない屋敷の中を不審に思っていると、窓を開けて外の景色を眺めている朔也と遭遇する
愛梨「すみません」
朔也「ん?」
朔也「やあ、歌姫様」
爽やかな笑みを浮かべて、愛梨と対峙する朔也
愛梨「西洋手拭を濡らしたいのですが」
朔也「ああ、蓮くんのお世話かな」
朔也「ありがとう、使用人を雇う余裕が鳳条にはなくてね」
朔也がネクタイを緩め、少し粗雑な印象を与えるほど服を着崩す
朔也「はぁ、堅苦しい」
窓の向こうには手入れの行き届いていない庭が広がっていて、愛梨と朔也は何もない窓の向こう側に視線を向ける
朔也「歌姫様を奉る意味はわかってても」
朔也「人間に優劣をつける月城が好きじゃないんだ」
朔也の視線が自分に向いたことに気づき、愛梨も視線を朔也に戻す
愛梨「蓮さんと血の繋がりはないとお聞きしましたが」
愛梨「話し方や雰囲気が似ていますね」
朔也「本当?」
朔也「でも、肝心の蓮くんは血の繋がりを拒んでてね」
朔也「今回の件で、初めて頼ってもらえたよ」
兄らしい優しい瞳を浮かべ、蓮に頼ってもらえることに喜びを抱く朔也
愛梨「蓮さんは、ずっと孤独なのでしょうか」
愛梨が発した孤独という言葉に、真摯に向き合う朔也
愛梨「月城にも、紫藤にも味方はいない……」
愛梨「しじま喰いを視えるのは、月城と紫藤しかいないのに……!」
朔也「しじま喰いを討伐するときは、血が噴き出るんだってね」
愛梨「はい……蓮さんは、返り血を浴びました」
朔也「愛梨様を襲った鳳条の人間はどうだったかな」
愛梨「私を……っ、あの方が見えるのですか」
朔也「見えるもなにも、鳳条渓は当主になる予定だった人物」
朔也「しじま喰いを視ることはできないけど」
朔也「しじま喰いが喰らった人間は、僕でも視ることができる」
愛梨「蓮さんの協力者を増やすことが可能……」
朔也「そういうこと」
愛梨の中に希望が生まれ、一気に表情が華やぎそうになる愛梨
朔也「ただ、蓮くんに頼ってもらえるかは別だけどね」
愛梨「必ずお伝えします」
愛梨「蓮さんを想っている方が、ここにいらっしゃることを」
朔也「ありがとね、愛梨様」
朔也に礼を述べて、蓮が待っている部屋へと戻る愛梨
濡らした西洋手拭を手に持って、蓮の部屋も扉を開ける
愛梨「蓮さん」
愛梨「ご報告が……」
ベッドに蓮の姿がない
愛梨「蓮さ……」
【回想】朔也「ただ、蓮くんに頼ってもらえるかは別だけどね」
愛梨(そんな単純な話じゃなかった)
部屋の出入り口へと振り向いて、蓮の部屋から飛び出す愛梨
愛梨(家族を説得する難しさは、私が一番よく知ってる)
屋敷を走り回る愛梨だが、朔也はもちろんのこと誰一人いない屋敷に不安を抱く愛梨
どこにも蓮がいないことに焦りを感じていると、蓮が屋敷の出入り口から出て行くところが視界に入る
愛梨「蓮さんっ!」
愛梨の声に気づいた蓮が、愛梨の方を振り向く
精いっぱい叫んだ愛梨は、急いで玄関ホールの大階段を下りる
蓮「っ、愛梨様」
愛梨が階段の上り下りに慣れていないと気づいた蓮は大階段へと駆け寄って、愛梨を受け止めるために腕を伸ばす
愛梨は躊躇うことなく、蓮の腕の中へと飛び込む
愛梨「私は、まだ傷ついていません」
愛梨を抱きしめる手に力を込める蓮
蓮「十分でしょう」
蓮「誘拐すると言っておきながら、愛梨様を放置しようとしたのですから」
蓮に抱きしめられていると実感した愛梨は、自分の腕に力を込めて蓮を逃がさないようにする
愛梨「蓮さんを忘れられなくなるくらい、傷をつけてください」
少しだけ背伸びをして、蓮の表情を覗き込もうとする愛梨
それに気づいた蓮は瞳を潤ませながら観念し、愛梨の瞳とまっすぐに向き合う
蓮「酷なことを強いますよ」
愛梨「それは、命令ですか」
蓮「価値のない俺に、愛されてください」



