▶第2話 シナリオ
〇庭/夜
音を喰らうことで静寂を広げる妖「しじま喰い」が愛梨に襲いかかろうとしていた
蓮が手にしていた拳銃から銃弾が放たれ、銃弾がしじま喰いの体を貫いた
蓮「怖いでしょう?」
しじま喰いが消滅すると同時に、しじま喰いの血飛沫が蓮へと降り注ぐ
蓮の腕の中にいた愛梨は事なきを得るが、愛梨の背中も血飛沫を浴びてみすぼらしい着物が汚れてしまう
蓮「さっさと月城の家へお帰りください」
蓮の腕の中から解放された愛梨は、そっと後ろを振り返る
背後を確認したところで、遺体のひとつも見つからない
それなのに、蓮が血だらけになっていることを疑問に思う愛梨
蓮「月城の人間なら、いつかは必ず歌えるようになる」
蓮「おとなしく待遇が良くなるのを待ち続けて……」
愛梨「何を、撃ったのですか……?」
蓮「なんの話でしょうか」
蓮は愛梨の言葉を否定することも肯定することもせずに、ただ余裕ある笑みを浮かべる
愛梨「何もなかったなんて言わないでください」
愛梨「だって、この血は、私を守ってくれた証拠……」
手を伸ばして、蓮の頬に付着した血に触れようとする愛梨
その手は蓮に阻まれ、蓮は愛梨の手を掴む
蓮「忘れてください」
愛梨「できません」
蓮「簡単な話です」
唇と唇が触れ合いそうなくらいの距離で顔を覗き込まれる愛梨
蓮「今日の日のことを忘れる」
蓮「ただそれだけのこと……」
愛梨「私は、礼を述べることすら許されないのですか」
愛梨から強い眼差しを向けられ、愛梨をからかうのをやめるために視線を逸らす蓮
愛梨「私は玩具ではありません」
愛梨「私は、私を守ってくれた蓮さんにお礼が言いたい」
愛梨「ただそれだけのことを、許してもらえませんか」
自分が愛梨の手を掴んでしまったため、愛梨の手にしじま喰いの血が付着してしまったのが視界に入る蓮
蓮「風呂、使ってください」
愛梨「え……」
蓮「月城の土地に、紫藤の音紡ぎが住む屋敷があるんです」
愛梨の純粋な眼差しを見ていられなくなった蓮は、愛梨を案内するために体の向きを変えようとする
愛梨は蓮の素っ気ない態度を気にすることなく、蓮の手を掴む
蓮「っ、汚れる……」
愛梨「汚くなんてありません」
愛梨「私を守ってくれた手、ですよ」
血で汚れることすら躊躇わず、掴んだ蓮の手を包み込む愛梨
恐怖でいっぱいの自分すらも隠して、蓮と触れ合うことを選ぶ愛梨
愛梨「私を守ってくださり、ありがとうございます」
愛梨「蓮さん」
蓮の警戒心を解くために、優しい笑みを浮かべる愛梨
〇紫藤の洋造りの屋敷(※月城の土地にある)/蓮の部屋/夜
風呂に入り、体を綺麗にした愛梨
たいして髪を乾かし切れていない状態で蓮が待つ部屋に戻る
愛梨「お風呂、ありがとうございました」
蓮「俺が迷惑をかけた詫びです」
蓮に手招かれ、愛梨は長椅子(ソファ)に腰かける
蓮が愛梨の長い髪を西洋手拭(綿タオル)で許可も得ずに髪を乾かし始める
愛梨「あ……」
蓮「ゆっくり湯船に浸かっても良かったんですよ」
愛梨に抵抗される前に、愛梨の髪に含まれた水分を拭きとっていく蓮
愛梨「価値なしにとって、お風呂は贅沢なものなので……」
蓮「じゃあせめて今は、ご令嬢の気分に浸ってください」
愛梨はおとなしく蓮に髪を乾かしてもらう
蓮「曲も書けない紫藤の人間が、こんな贅沢をしていることに驚きますよね」
愛梨「音紡ぎは、巫女姫に歌を捧ぐ」
愛梨「巫女姫は、神に歌を捧ぐ」
愛梨「音紡ぎの血を引く紫藤がいなければ、巫女姫は存在することができません」
蓮「でも、俺は音を視ることができません」
愛梨「私の歌も、神には届きません」
西洋手拭から顔を出し、蓮と見つめ合う愛梨
愛梨「でも、理由があるから、蓮さんは紫藤【ここ】にいる」
蓮「察しがいいですね」
蓮「今は殺し屋としての才を買われています」
外へと繋がる窓へと近づき、外の様子を窓から覗き込む蓮
蓮「湯冷めするので散歩とはいきませんが」
蓮「こちらのバルコニーへようこそ、愛梨様」
〇蓮の部屋/バルコニー/夜
バルコニーというものに縁のなかった愛梨だが、蓮を信用してバルコニーへと足を運ぶ
蓮「ほんの少しだけ、夜風を浴びてもらえますか」
背を押され、バルコニーに一人きりにされる愛梨
蓮「この世には」
愛梨に向けて、拳銃を構える蓮
蓮「世界を沈黙に包もうとする妖がいます」
愛梨を襲おうと近づいてきたしじま喰いに銃弾を放ち、しじま喰いを撃退する蓮
しじま喰いと愛梨は距離があったため、今度は愛梨が血に塗れることはなかった
蓮「名を、しじま喰い」
愛梨の手を優しく取り、再び愛梨を部屋へと招き入れる蓮
〇蓮の部屋/夜
蓮「人間の声が、好物の妖」
蓮「巫女姫の声は、もっと大好物らしいです」
自分を守ってくれる人がいることに驚きながらも、感謝の気持ちを伝えるために必死に口を動かす愛梨
愛梨「ずっと……蓮さんがお一人で……?」
蓮「殺し屋なんて、世界に一人で十分ですよ」
愛梨「幼い頃から、ずっと……」
蓮「……帰りましょう。送ります」
愛梨「ずっと、巫女姫を守ってくれたのですね」
柔らかな笑みを浮かべ続ける愛梨に戸惑う蓮
蓮「俺は、単なる殺し屋……」
愛梨「蓮さんのお力は、未来を守る力ですよ」
想像してもいなかった言葉を次から次に与えてくれる愛梨に、言葉を返すことができなくなってしまう蓮
蓮「俺を良い人みたいに装うのはやめてください」
やっとの思いで、愛梨と向き合う勇気を持つ蓮
蓮「俺は、愛梨様に恨みの気持ちしか抱いていません」
蓮「あなたが巫女姫だったら、俺は音紡ぎの才を発揮できたかもしれない」
蓮(最低だ)
蓮「俺は、愛梨様の音紡ぎ」
蓮「でも、その夢は叶わなかった」
蓮(最悪だ)
蓮「愛梨様の唄が、神に届かなかったから……!」
蓮「だから俺の未来は狂った……」
愛梨「償わせてください」
蓮「っ、いきなりなんですか!」
蓮「物語の主人公ぶりたいだけなら、役者にでもなって……」
愛梨「なんでもします」
そっと蓮に近づき、拳銃を持っていた蓮の手を取る愛梨
その手を自身の頬に運び、愛梨は蓮の熱を感じる
愛梨「巫女姫になれなかった償いを」
愛梨「どうぞ私を利用してください」
未来には希望しか待っていないような優しい笑みを浮かべる愛梨
そんな愛梨の真っすぐな視線から逃げたくなった蓮は、俯くことで視線を逸らそうとする
蓮「月城の人間が、自分を安く売るようなこと……やめてください」
愛梨「お気づきですか」
ゆっくりと顔を上げ、愛梨を見つめる蓮
愛梨「私は、蓮さんを利用しようとしている悪い女です」
愛梨「蓮さんなら、私を必要としてくれるのではないか」
愛梨「世界から必要とされなかった同士」
愛梨「優しくしてくれるんじゃないかと甘え……」
蓮に腕を引かれ、体を引き寄せられる愛梨
蓮の腕の中で、蓮の心臓の音を感じ取る愛梨
蓮「拒むって言葉、覚えてください」
愛梨「それは、命令ですか」
蓮「命令です」
愛梨「拒め、ではないのなら」
蓮の顔を見ることができなくなった愛梨だが、蓮の熱を求める愛梨は蓮の腰回りに手を回す
愛梨「私は蓮さんを抱きしめたい」
これ以上、近づくことはできないというくらい強く抱き締め合う二人
どちらからともなく離れ、互いの顔を見つめる二人
愛梨「私は蓮さんの命を忠実に受ける」
愛梨「それだけが私の存在理由です」
蓮「俺に、使い捨てられても知りませんよ」
愛梨「蓮さんの存在を知らずに生きてきた罰を、いま与えてください」
変わることない優しい笑みを浮かべて、蓮のことを受け入れようとする愛梨
蓮「調子が狂いますね」
愛梨「こんな出会い方しかできなくて、申し訳ございません」
歪な関係が始まろうとしているのに、嫌な気持ちひとつ芽生えてこないことに戸惑う二人
蓮「ひとつめの願い、聞き入れてもらえますか」
愛梨「命令してください」
蓮「……今日の日のこと、ずっと覚えていてください」
蓮「俺のことを忘れるなんて、絶対に許しません」
愛梨「拒否する理由はありません」
愛梨(ずっと守られていたことに気づかず生きてきた)
愛梨(今こそ、その礼を返すとき)
愛梨「私を必要としてください」
〇庭/夜
音を喰らうことで静寂を広げる妖「しじま喰い」が愛梨に襲いかかろうとしていた
蓮が手にしていた拳銃から銃弾が放たれ、銃弾がしじま喰いの体を貫いた
蓮「怖いでしょう?」
しじま喰いが消滅すると同時に、しじま喰いの血飛沫が蓮へと降り注ぐ
蓮の腕の中にいた愛梨は事なきを得るが、愛梨の背中も血飛沫を浴びてみすぼらしい着物が汚れてしまう
蓮「さっさと月城の家へお帰りください」
蓮の腕の中から解放された愛梨は、そっと後ろを振り返る
背後を確認したところで、遺体のひとつも見つからない
それなのに、蓮が血だらけになっていることを疑問に思う愛梨
蓮「月城の人間なら、いつかは必ず歌えるようになる」
蓮「おとなしく待遇が良くなるのを待ち続けて……」
愛梨「何を、撃ったのですか……?」
蓮「なんの話でしょうか」
蓮は愛梨の言葉を否定することも肯定することもせずに、ただ余裕ある笑みを浮かべる
愛梨「何もなかったなんて言わないでください」
愛梨「だって、この血は、私を守ってくれた証拠……」
手を伸ばして、蓮の頬に付着した血に触れようとする愛梨
その手は蓮に阻まれ、蓮は愛梨の手を掴む
蓮「忘れてください」
愛梨「できません」
蓮「簡単な話です」
唇と唇が触れ合いそうなくらいの距離で顔を覗き込まれる愛梨
蓮「今日の日のことを忘れる」
蓮「ただそれだけのこと……」
愛梨「私は、礼を述べることすら許されないのですか」
愛梨から強い眼差しを向けられ、愛梨をからかうのをやめるために視線を逸らす蓮
愛梨「私は玩具ではありません」
愛梨「私は、私を守ってくれた蓮さんにお礼が言いたい」
愛梨「ただそれだけのことを、許してもらえませんか」
自分が愛梨の手を掴んでしまったため、愛梨の手にしじま喰いの血が付着してしまったのが視界に入る蓮
蓮「風呂、使ってください」
愛梨「え……」
蓮「月城の土地に、紫藤の音紡ぎが住む屋敷があるんです」
愛梨の純粋な眼差しを見ていられなくなった蓮は、愛梨を案内するために体の向きを変えようとする
愛梨は蓮の素っ気ない態度を気にすることなく、蓮の手を掴む
蓮「っ、汚れる……」
愛梨「汚くなんてありません」
愛梨「私を守ってくれた手、ですよ」
血で汚れることすら躊躇わず、掴んだ蓮の手を包み込む愛梨
恐怖でいっぱいの自分すらも隠して、蓮と触れ合うことを選ぶ愛梨
愛梨「私を守ってくださり、ありがとうございます」
愛梨「蓮さん」
蓮の警戒心を解くために、優しい笑みを浮かべる愛梨
〇紫藤の洋造りの屋敷(※月城の土地にある)/蓮の部屋/夜
風呂に入り、体を綺麗にした愛梨
たいして髪を乾かし切れていない状態で蓮が待つ部屋に戻る
愛梨「お風呂、ありがとうございました」
蓮「俺が迷惑をかけた詫びです」
蓮に手招かれ、愛梨は長椅子(ソファ)に腰かける
蓮が愛梨の長い髪を西洋手拭(綿タオル)で許可も得ずに髪を乾かし始める
愛梨「あ……」
蓮「ゆっくり湯船に浸かっても良かったんですよ」
愛梨に抵抗される前に、愛梨の髪に含まれた水分を拭きとっていく蓮
愛梨「価値なしにとって、お風呂は贅沢なものなので……」
蓮「じゃあせめて今は、ご令嬢の気分に浸ってください」
愛梨はおとなしく蓮に髪を乾かしてもらう
蓮「曲も書けない紫藤の人間が、こんな贅沢をしていることに驚きますよね」
愛梨「音紡ぎは、巫女姫に歌を捧ぐ」
愛梨「巫女姫は、神に歌を捧ぐ」
愛梨「音紡ぎの血を引く紫藤がいなければ、巫女姫は存在することができません」
蓮「でも、俺は音を視ることができません」
愛梨「私の歌も、神には届きません」
西洋手拭から顔を出し、蓮と見つめ合う愛梨
愛梨「でも、理由があるから、蓮さんは紫藤【ここ】にいる」
蓮「察しがいいですね」
蓮「今は殺し屋としての才を買われています」
外へと繋がる窓へと近づき、外の様子を窓から覗き込む蓮
蓮「湯冷めするので散歩とはいきませんが」
蓮「こちらのバルコニーへようこそ、愛梨様」
〇蓮の部屋/バルコニー/夜
バルコニーというものに縁のなかった愛梨だが、蓮を信用してバルコニーへと足を運ぶ
蓮「ほんの少しだけ、夜風を浴びてもらえますか」
背を押され、バルコニーに一人きりにされる愛梨
蓮「この世には」
愛梨に向けて、拳銃を構える蓮
蓮「世界を沈黙に包もうとする妖がいます」
愛梨を襲おうと近づいてきたしじま喰いに銃弾を放ち、しじま喰いを撃退する蓮
しじま喰いと愛梨は距離があったため、今度は愛梨が血に塗れることはなかった
蓮「名を、しじま喰い」
愛梨の手を優しく取り、再び愛梨を部屋へと招き入れる蓮
〇蓮の部屋/夜
蓮「人間の声が、好物の妖」
蓮「巫女姫の声は、もっと大好物らしいです」
自分を守ってくれる人がいることに驚きながらも、感謝の気持ちを伝えるために必死に口を動かす愛梨
愛梨「ずっと……蓮さんがお一人で……?」
蓮「殺し屋なんて、世界に一人で十分ですよ」
愛梨「幼い頃から、ずっと……」
蓮「……帰りましょう。送ります」
愛梨「ずっと、巫女姫を守ってくれたのですね」
柔らかな笑みを浮かべ続ける愛梨に戸惑う蓮
蓮「俺は、単なる殺し屋……」
愛梨「蓮さんのお力は、未来を守る力ですよ」
想像してもいなかった言葉を次から次に与えてくれる愛梨に、言葉を返すことができなくなってしまう蓮
蓮「俺を良い人みたいに装うのはやめてください」
やっとの思いで、愛梨と向き合う勇気を持つ蓮
蓮「俺は、愛梨様に恨みの気持ちしか抱いていません」
蓮「あなたが巫女姫だったら、俺は音紡ぎの才を発揮できたかもしれない」
蓮(最低だ)
蓮「俺は、愛梨様の音紡ぎ」
蓮「でも、その夢は叶わなかった」
蓮(最悪だ)
蓮「愛梨様の唄が、神に届かなかったから……!」
蓮「だから俺の未来は狂った……」
愛梨「償わせてください」
蓮「っ、いきなりなんですか!」
蓮「物語の主人公ぶりたいだけなら、役者にでもなって……」
愛梨「なんでもします」
そっと蓮に近づき、拳銃を持っていた蓮の手を取る愛梨
その手を自身の頬に運び、愛梨は蓮の熱を感じる
愛梨「巫女姫になれなかった償いを」
愛梨「どうぞ私を利用してください」
未来には希望しか待っていないような優しい笑みを浮かべる愛梨
そんな愛梨の真っすぐな視線から逃げたくなった蓮は、俯くことで視線を逸らそうとする
蓮「月城の人間が、自分を安く売るようなこと……やめてください」
愛梨「お気づきですか」
ゆっくりと顔を上げ、愛梨を見つめる蓮
愛梨「私は、蓮さんを利用しようとしている悪い女です」
愛梨「蓮さんなら、私を必要としてくれるのではないか」
愛梨「世界から必要とされなかった同士」
愛梨「優しくしてくれるんじゃないかと甘え……」
蓮に腕を引かれ、体を引き寄せられる愛梨
蓮の腕の中で、蓮の心臓の音を感じ取る愛梨
蓮「拒むって言葉、覚えてください」
愛梨「それは、命令ですか」
蓮「命令です」
愛梨「拒め、ではないのなら」
蓮の顔を見ることができなくなった愛梨だが、蓮の熱を求める愛梨は蓮の腰回りに手を回す
愛梨「私は蓮さんを抱きしめたい」
これ以上、近づくことはできないというくらい強く抱き締め合う二人
どちらからともなく離れ、互いの顔を見つめる二人
愛梨「私は蓮さんの命を忠実に受ける」
愛梨「それだけが私の存在理由です」
蓮「俺に、使い捨てられても知りませんよ」
愛梨「蓮さんの存在を知らずに生きてきた罰を、いま与えてください」
変わることない優しい笑みを浮かべて、蓮のことを受け入れようとする愛梨
蓮「調子が狂いますね」
愛梨「こんな出会い方しかできなくて、申し訳ございません」
歪な関係が始まろうとしているのに、嫌な気持ちひとつ芽生えてこないことに戸惑う二人
蓮「ひとつめの願い、聞き入れてもらえますか」
愛梨「命令してください」
蓮「……今日の日のこと、ずっと覚えていてください」
蓮「俺のことを忘れるなんて、絶対に許しません」
愛梨「拒否する理由はありません」
愛梨(ずっと守られていたことに気づかず生きてきた)
愛梨(今こそ、その礼を返すとき)
愛梨「私を必要としてください」



