「氷室ー久しぶり」
「おぉ、大塚。久しぶりだな」
 新学期、なんとなく全体的に日焼けしている教室は、1学期と変わらない賑わいを見せた。
「お前夏課題間に合ったのかよ」
「まじでギリギリな」
 あの後、僕はそれなりに忙しかった。

 まず、丸2日も家を無断であけていたことにより母親が捜索願を出し、なんやかんやあって、サッカー部事件の際に逃げ出した2人の内の1人が僕だとわかり、捜索開始。無事に地元に帰ってきた時と思ったら警察からの事情聴取が始まり、花火さんを拉致した疑いまでかけられ、花火さんの家族も巻き込んでの調査となった。

 花火さん一家の助けもあり、事なきを得たのは花火さんと線香花火をした日から1週間以上経った頃。
 でもそのおかげで昊野家と関係を持てたので、彼女の最期を伝え、ネコのぬいぐるみをお渡しすることが出来た。
「遺品として何よりも大切にします。雪君も辛かったでしょう。花火と最期までいてくれて本当にありがとう」
 そう言われて、花火さんの母親から背中をさすられた時、僕は初めて思いっきり泣くことが出来た。
 それからは、夏の課題と闘かったり、怪我の治療をしたりと、人生で1番忙しい夏休みを過ごした。

「大塚があの時、場所を教えてくれなかったら、僕は花火さんを助けることが出来なかった。本当にありがとう」
「元はと言えば俺のせいで巻き込んでしまったことだからな。本当にすまなかった」
 大塚とは変わらず友達でいれている。
 花火さんの事も知っているので夏休み中も色々な事を積極的にサポートしてくれた。

「氷室はこれからどうするの?」
 大塚の言う「これから」に僕は前を向いて答えることが出来る。

「花火さんの分まで精一杯生きるよ。次彼女に会った時、花火さんが退屈しないように沢山の景色を自分の目で見るんだ」

「氷室、変わったな。俺にも手伝わせてよ」
「もちろん!」

 花火さん、君と出会う前の僕は本当にどうしようもなくて、世界が敵だと思って生きていた。
 でも、今は違う。
 つまずいても、うまくいかなくても、また死にたくなっても、絶対にもう一度立ち上がってみせるよ。
 最初は小さな1歩かもしれないけど、確実な一歩を歩み続けるから。

 僕の心に宿る朽ちない線香花火を道しるべに。