[残り64ℏ]
 もう、寝る間も惜しくなってきた。
 花火さんの余命まで残り2日。
 今日は午前中から会う約束をしている。
 玄関で靴ひもを結んでいる時、スマホに着信が来ていることに気が付いた。
 電話だなんて珍しい。
大塚(おおつか)
 そう書かれたホーム画面に一気にため息をつく。
 無視して「行ってきます」と義務的に小さく言い、「いってらっしゃーい」という母さんの言葉を背に家を出た。

 スマホは一度静かになり、すぐにまた震える。
 くそ。なんなんだ。
 4度目の着信で耐えられなくなり、電話に出た。
「なんだよ朝から。うるさいな」
「おい、氷室‼ お前マジで頼むって。俺が先輩に殺される」
 電話越しでそう言う大塚は今までにないほど焦りを含んでいた——————