「へぇ。僕の名前を知っていたか」
独白のような、呆れているようなそんな声で、目の前の男――ミゼンはそっとサングラスを元に戻して、青い眼を漆黒のサングラスで隠す。
「僕のこの眼は存外便利でね。利用してみる価値はあると思うんだけど」
確かにこいつに協力してもらうことができれば試験をクリアできる可能性が出て来る。藁にもすがりたいが、ミゼンを信じて良いかもわからない。唇をギュッと結び、ちらりとミゼンを見る。
「……枷って何?」
「もしかして、気づいていないの? これは驚いた」
小馬鹿にした声に、アピロは深いため息を吐く。
「好き好んで自分で魔力の制限をしないでしょ。それにそうする意味がわからない」
「なるほど、なるほど。これは益々興味深い。そうだねぇ僕は君を退学にならないように手伝うことができそうだけど、どうだい?」
「……なんで、あたしが退学になるって」
確かにリストに名前が書かれている。けど、顔写真までは載っていない。それに、あの時ミゼンは近くにいなかったはず。だから、ミゼンがアピロが退学者候補であると知っているはずはない。
鼻で笑ったミゼンはアピロのローブを指す。
「ボタン。学年によって色が決まってるからね。それに今日はテストの結果発表日。そんな日に学術棟に用があるのは退学候補者くらい。三年から四年への進級率は五十パーセントと少し。見たところローブもボロボロだし、実技で不合格だったんだろ?」
肩をすくめてミゼンはそう答えた。いちいち言い方に腹が立つ。アピロは口をとがらせて目を反らす。
「当たり、みたいだな。いやはや、ここまで自分の頭脳が明晰だとは思わなかったな」
「……失礼するね」
こんなめんどくさい奴と関わる方が時間の無駄なように感じてきた。とっととこの場を離れてしまいたい。自主練するなら、学術棟で訓練場の予約をしなくてはならないし、今はあまり時間がない。アピロはミゼンに背を向けて歩き出そうとすると、ミゼンに腕を掴まれた。
「そんなに怒んないでよ。その枷を外すことができれば、君はもっと強くなれるよ」
嘘とも本当ともいえないその言葉に、アピロは振り返ってじっとミゼンを見た。薄笑いは変わらずだが、どこか真剣みを帯びた雰囲気が漂っている。この男を本当に信用して良いかわからない。ギュッと拳を握ってから、アピロは問う。
「……枷って何?」
サングラスの奥が少しだけ見えた気がした。目が興味津々といった様子で、ミゼンはしばらくアピロを上から下までじっと観察している。
この感じなんだろうか。何かを見定められているような、気恥ずかしいような、むず痒いような、憐みの目で見られる以外にこんなにじっと見られることはない。こういう時、どういう顔をすれば良いかわからずアピロはミゼンから目を背けた。
じっくり数十秒は見られたのだろうか。やっぱり面白い。とミゼンに言われてからアピロは彼にゆっくり視線を戻す。腕を組みながらミゼンは結果をアピロに静かに伝える。
「力の流出を止めるような、そんなものだね」
人差し指を顎を沿うように撫でて、ミゼンは片頬をあげる。
「……流出……?」
「魔力の流れを止めることにより、術式操作を困難にさせているみたいだ。しかも強力な術式を複数組まれている。ややこしい術式にしてくれて、どんな奴が仕組んでんだよ」
くっと喉の奥を鳴らして、何か面白い物でも見つけたかのようにミゼンは笑った。笑われても、こちらは困る。しかめつらでミゼンに問う。
「どうしたら外せるの?」
独白のような、呆れているようなそんな声で、目の前の男――ミゼンはそっとサングラスを元に戻して、青い眼を漆黒のサングラスで隠す。
「僕のこの眼は存外便利でね。利用してみる価値はあると思うんだけど」
確かにこいつに協力してもらうことができれば試験をクリアできる可能性が出て来る。藁にもすがりたいが、ミゼンを信じて良いかもわからない。唇をギュッと結び、ちらりとミゼンを見る。
「……枷って何?」
「もしかして、気づいていないの? これは驚いた」
小馬鹿にした声に、アピロは深いため息を吐く。
「好き好んで自分で魔力の制限をしないでしょ。それにそうする意味がわからない」
「なるほど、なるほど。これは益々興味深い。そうだねぇ僕は君を退学にならないように手伝うことができそうだけど、どうだい?」
「……なんで、あたしが退学になるって」
確かにリストに名前が書かれている。けど、顔写真までは載っていない。それに、あの時ミゼンは近くにいなかったはず。だから、ミゼンがアピロが退学者候補であると知っているはずはない。
鼻で笑ったミゼンはアピロのローブを指す。
「ボタン。学年によって色が決まってるからね。それに今日はテストの結果発表日。そんな日に学術棟に用があるのは退学候補者くらい。三年から四年への進級率は五十パーセントと少し。見たところローブもボロボロだし、実技で不合格だったんだろ?」
肩をすくめてミゼンはそう答えた。いちいち言い方に腹が立つ。アピロは口をとがらせて目を反らす。
「当たり、みたいだな。いやはや、ここまで自分の頭脳が明晰だとは思わなかったな」
「……失礼するね」
こんなめんどくさい奴と関わる方が時間の無駄なように感じてきた。とっととこの場を離れてしまいたい。自主練するなら、学術棟で訓練場の予約をしなくてはならないし、今はあまり時間がない。アピロはミゼンに背を向けて歩き出そうとすると、ミゼンに腕を掴まれた。
「そんなに怒んないでよ。その枷を外すことができれば、君はもっと強くなれるよ」
嘘とも本当ともいえないその言葉に、アピロは振り返ってじっとミゼンを見た。薄笑いは変わらずだが、どこか真剣みを帯びた雰囲気が漂っている。この男を本当に信用して良いかわからない。ギュッと拳を握ってから、アピロは問う。
「……枷って何?」
サングラスの奥が少しだけ見えた気がした。目が興味津々といった様子で、ミゼンはしばらくアピロを上から下までじっと観察している。
この感じなんだろうか。何かを見定められているような、気恥ずかしいような、むず痒いような、憐みの目で見られる以外にこんなにじっと見られることはない。こういう時、どういう顔をすれば良いかわからずアピロはミゼンから目を背けた。
じっくり数十秒は見られたのだろうか。やっぱり面白い。とミゼンに言われてからアピロは彼にゆっくり視線を戻す。腕を組みながらミゼンは結果をアピロに静かに伝える。
「力の流出を止めるような、そんなものだね」
人差し指を顎を沿うように撫でて、ミゼンは片頬をあげる。
「……流出……?」
「魔力の流れを止めることにより、術式操作を困難にさせているみたいだ。しかも強力な術式を複数組まれている。ややこしい術式にしてくれて、どんな奴が仕組んでんだよ」
くっと喉の奥を鳴らして、何か面白い物でも見つけたかのようにミゼンは笑った。笑われても、こちらは困る。しかめつらでミゼンに問う。
「どうしたら外せるの?」



