バチンッ。
 
 何かのスイッチが入ったかのように、目の前に映し出されている現象が止まった。セピア色の風景の中に、アピロはミゼンに抱えられたままだ。フルカラーの状態でいられるのは、アピロとミゼンだけだった。

「力の使い方がなってねぇな。……だが、大したもんだ。強制的に止めたか。力技で何とかするとか、ガキかよ。まぁ、そのガキみたいな努力の成果か、これは」

 舌打ちをするミゼンから、暴れるようにして降りて睨みつける。そのまま彼のローブをギュッと握った。シワになろうが知ったことではない。ポタポタと涙がこぼれ落ちていく。なぜか、今は自分のこの力が怖い。それだけはわかる。涙が止まらない。

「やめて、ミゼン。こんなの」

 ミゼンの顔が見られない。どんな顔をしているのか知るのも怖い。顔も上げられず、嗚咽を漏らしていると、頭を掴まれ、ぐいっと無理やり顔を上げさせられた。軽薄さも、意地悪さもない、呆れた顔でミゼンはアピロを見ていた。

「あのな。さっきも言っただろ、あんなことされたのにって」
「へ?」
「間抜け面。僕のこれはコピーって言っただろ?」

 言っている意味が理解できない。アピロはただじっとミゼンを見ることしかできなかった。

「種明かしでもしますかね」

 大きなため息を吐いてから、指を軽く鳴らすと、再びガラスが割れたかのように、セピア色の景色が崩れた。アピロは慌ててスポロス先生の姿を探すと、そこには仰向けになって倒れているスポロス先生がいた。目を閉じているが、かすかに胸が上下している。どうやら生きているようだ。

「……なにが」
「あんまり無茶苦茶すんじゃねぇ。おかげでこっちも」

 最後まで言い切ることができずに、ミゼンがアピロにもたれかかってきた。身長差と体重差のせいで、重い。支えきれず、アピロは尻もちをついた。ミゼンはアピロに体を預けたまま動かない。頬を触ると冷たい。

「ミゼンっ?」
「……大丈夫だ。ちと、使いすぎただけだ」

 青白い顔をし、呼吸が荒い。ミゼンのこんな姿は見たことが無かった。

「ど、ど、どうしようっ」
「あんたのこれまでの努力であいつを倒せたんだから、ちっとは喜べよ。それか、落ち着け。……とりあえず、あんたんとこのルームメイトでも呼べ」
「努力って、どういう意味よ、ねぇ!」

 それだけ言うと、ミゼンは今度こそ意識を手離してしまった。ミゼンの肩をゆすりながらも、アピロはルームメイトに緊急連絡のための式神を飛ばした。ルームメイトが来るまでに、逃げられないようスポロス先生に拘束の術式をかけてから、ひたすらミゼンの頬を叩いていた。

 その結果、ミゼンの頬が真っ赤になったのは言うまでもない。