「あんたさ、やっぱり小物だよ。人の努力もわかんねぇ奴は特に」
人を小馬鹿にしたような声。これは間違いがない。
ミゼンの声が耳元ではっきりと聞こえてきた。
ガラガラと足元が崩れ去り、見せられていた映像がガラスでも割れたかのように崩れた。
何故かわからないが、いつの間にか体が浮いている。ぼんやりとした視界で辺りを見ると、最初に見つけたのは、ミゼンの顔だった。ほっと安心したのか力が抜けて体が言うことを聞かない。だけど、確かにミゼンに優しく抱きかかえられているのが徐々にわかってきた。
「貴様っ」
数メートルほど離れたところにスポロス先生が苦々しげにこちらを見ていた。これだけ距離をとっていれば簡単に精神操作はされない。
「やっぱりな。精神操作をしている間ってのは、他が疎かになりやすいんだな」
いつも通りの軽薄な言い方が今は心地よい。
ミゼンを見ていると、彼のこめかみからうっすら汗が流れているのがわかった。
「ちょいと時間がかかったが、解析するのは難しくはなかったよ。解析できさえすれば、なんてことはない」
いつもかけていたサングラスはどこにいったのか。澄み渡った青い瞳がスポロス先生を捉えていた。ミゼンの言葉を聞いた憤怒の表情でスポロス先生はミゼンを睨みつけている。
「何をした」
低く静かに言ったスポロス先生の声には、怒りが満ちているのがアピロにもわかった。
「いつものことだ。解析だよ、解析」
「私の術を解除できる奴なんぞ、この世にはそうそう」
「いるんだよ、ここに。僕の目は特別でね、もちろん本物の邪眼って知ってますよね、先生?」
首をかしげてミゼンは問う。言われていることの重大さに気づいたのか、スポロス先生の表情に動揺の色が混ざった。
「ありえない。それはただ解析するだけの、ただの突然変異だ。解析しかできないその目で貴様が簡単に解除できるはずは」
「これだから大人は嫌だね。いい加減認めなよ、僕があんたの術式を解析・解除したことを」
パキパキパキ。
ひび割れる音がどこからか聞こえてくる。一体、この音はどこから。
アピロはあたりを見回すと、スポロス先生の手元がひび割れしてきているのを見つけた。
「貴様、私に何をしたっ」
スポロス先生も自身の異変に気付いたようだ。分解されていく手を見ながらつんざくような声で叫んだ。嘆息しながら、ミゼンはスポロス先生を見て言う。
「頭悪いな。ていうか知らないのか。僕のこの眼はどうやら本物の邪眼みたいでね。魔術を解析した傍から複製することができる術式があらかじめ組まれている」
「ふ、複製。そんなことありえない。第一、貴様は魔力をほとんど持たないじゃないか」
「確かに。ただし、それを可能にするのがこの邪眼だ。少ない魔力でも、効率よく変換・再構築ができる」
「ありえない。ありえない。ありえないっ。そんなの、魔術理論に反するっ」
「ははっ。せいぜい泣きわめきな。あんたはそれだけのことをしたんだ」
ミゼンはアピロを抱えながら、スポロス先生に背を向けた。何が起こっているのかわからない。それでもこれはしてはいけないこと。アピロはぎゅっとミゼンの服を掴む。
「なに?」
「せ、先生はどうなるの?」
「……大したことじゃない」
「大したことだよっ。このままじゃ、先生はっ」
先ほどスポロス先生にイメージをさせられたせいか、今のアピロなら、はっきりわかる。
魔術師を分解、いや、人間を分解させる、その結果を。
「どこまでもお人好しだね、あんたは。あんなことされたのに」
「これはやって良いことじゃない」
「……まあ、見てなよ」
うめき声をあげながら、スポロス先生が蹲る。体の端から分解されていき、ミゼンの体越しに消滅していく様子を見ながら、アピロは自分の考えのなさを思い知った。
力を使えるようになって、試験に合格したいだけだったのに。
これだったら、枷がかかっていたあの時までの方が幸せだった。
「やめてよ」
「こうなったら、止められない」
「やめてってばっ」
人を小馬鹿にしたような声。これは間違いがない。
ミゼンの声が耳元ではっきりと聞こえてきた。
ガラガラと足元が崩れ去り、見せられていた映像がガラスでも割れたかのように崩れた。
何故かわからないが、いつの間にか体が浮いている。ぼんやりとした視界で辺りを見ると、最初に見つけたのは、ミゼンの顔だった。ほっと安心したのか力が抜けて体が言うことを聞かない。だけど、確かにミゼンに優しく抱きかかえられているのが徐々にわかってきた。
「貴様っ」
数メートルほど離れたところにスポロス先生が苦々しげにこちらを見ていた。これだけ距離をとっていれば簡単に精神操作はされない。
「やっぱりな。精神操作をしている間ってのは、他が疎かになりやすいんだな」
いつも通りの軽薄な言い方が今は心地よい。
ミゼンを見ていると、彼のこめかみからうっすら汗が流れているのがわかった。
「ちょいと時間がかかったが、解析するのは難しくはなかったよ。解析できさえすれば、なんてことはない」
いつもかけていたサングラスはどこにいったのか。澄み渡った青い瞳がスポロス先生を捉えていた。ミゼンの言葉を聞いた憤怒の表情でスポロス先生はミゼンを睨みつけている。
「何をした」
低く静かに言ったスポロス先生の声には、怒りが満ちているのがアピロにもわかった。
「いつものことだ。解析だよ、解析」
「私の術を解除できる奴なんぞ、この世にはそうそう」
「いるんだよ、ここに。僕の目は特別でね、もちろん本物の邪眼って知ってますよね、先生?」
首をかしげてミゼンは問う。言われていることの重大さに気づいたのか、スポロス先生の表情に動揺の色が混ざった。
「ありえない。それはただ解析するだけの、ただの突然変異だ。解析しかできないその目で貴様が簡単に解除できるはずは」
「これだから大人は嫌だね。いい加減認めなよ、僕があんたの術式を解析・解除したことを」
パキパキパキ。
ひび割れる音がどこからか聞こえてくる。一体、この音はどこから。
アピロはあたりを見回すと、スポロス先生の手元がひび割れしてきているのを見つけた。
「貴様、私に何をしたっ」
スポロス先生も自身の異変に気付いたようだ。分解されていく手を見ながらつんざくような声で叫んだ。嘆息しながら、ミゼンはスポロス先生を見て言う。
「頭悪いな。ていうか知らないのか。僕のこの眼はどうやら本物の邪眼みたいでね。魔術を解析した傍から複製することができる術式があらかじめ組まれている」
「ふ、複製。そんなことありえない。第一、貴様は魔力をほとんど持たないじゃないか」
「確かに。ただし、それを可能にするのがこの邪眼だ。少ない魔力でも、効率よく変換・再構築ができる」
「ありえない。ありえない。ありえないっ。そんなの、魔術理論に反するっ」
「ははっ。せいぜい泣きわめきな。あんたはそれだけのことをしたんだ」
ミゼンはアピロを抱えながら、スポロス先生に背を向けた。何が起こっているのかわからない。それでもこれはしてはいけないこと。アピロはぎゅっとミゼンの服を掴む。
「なに?」
「せ、先生はどうなるの?」
「……大したことじゃない」
「大したことだよっ。このままじゃ、先生はっ」
先ほどスポロス先生にイメージをさせられたせいか、今のアピロなら、はっきりわかる。
魔術師を分解、いや、人間を分解させる、その結果を。
「どこまでもお人好しだね、あんたは。あんなことされたのに」
「これはやって良いことじゃない」
「……まあ、見てなよ」
うめき声をあげながら、スポロス先生が蹲る。体の端から分解されていき、ミゼンの体越しに消滅していく様子を見ながら、アピロは自分の考えのなさを思い知った。
力を使えるようになって、試験に合格したいだけだったのに。
これだったら、枷がかかっていたあの時までの方が幸せだった。
「やめてよ」
「こうなったら、止められない」
「やめてってばっ」



