スポロス先生の言葉が理解できなかった。何を言っているんだ、この人は。
いつもの穏やかなスポロス先生はそこにはいなく、何かの欲望にまみれた男がいつの間にかアピロの前に立っていた。気持ちが高揚しているのか、頬が朱に染まり、期待に満ちた目でアピロを見ている。呼吸も少しだけ荒く、震えた手でスポロス先生はアピロの肩を掴んできた。
「いいですか。君みたいな才能の塊は存分に磨かねばなりません。その使命を負っているのが、我々教師。君の力は、この世の誰よりも優れています。だから、その力を証明するために、ミゼンを殺すのです」
「あ、あの、先生?」
言っていることがわからない。力を証明するのにミゼンを殺すことは必要ないはず。
「さあ、力を存分に発揮させるのです。今の攻撃術式の感覚は覚えてますね?」
アピロの様子を気にすることなく嬉々としてスポロス先生はアピロの肩を力強く掴み、無理やりミゼンの方に体を向かせる。肩が痛い。爪が食い込んでいるのかもしれない。
「そーいうことね」
大げさなため息を吐いて、ミゼンが呆れたように言った。
「あくまでも僕を殺すことが目的だったんだ?」
「それ以外に貴様に価値はない。ただの突然変異種は黙ってろ」
「おーこわっ。この眼に何か恨みでもあるのか?」
「その眼は災いの素。魔術がこれまで作り上げてきたものを一目で看破する。そんな目はこの世に不要だ」
「なるほどね。道理であんた、日ごろから僕を疎んでいたんだ。純血思想の塊かよ」
ミゼンの問いに答えることなく、アピロに微笑むスポロス先生。いつもの先生と変わらない様子なのに、どこか殺気立った雰囲気がある。体をねじって逃げ出したいが、スポロス先生に掴まれているせいか、体を動かすことができない。
「お前みたいな突然変異種はこの世に不要だ。彼女のような才能ある術師がこれからを支えてくれます。それに彼女の子の才能は、今後の軍事力において、多大なる影響をもたらすことができます。まあ、最初は躊躇うこともあるかもしれませんが、その力を使いこなせるようになればそれさえも快感になるはずです。さあ、アピロ、怖がらず、手をまっすぐ伸ばして」
スポロス先生はアピロの肩から手を離していないにも関わらず、アピロは自分の意志とは反対に右腕がギシギシと動き、アピロに向かって伸ばされる。
これが、精神操作か。
ぎりっとアピロは歯ぎしりをする。スポロス先生の得意領域を使われては、アピロは抵抗ができない。
「そう、良い子ですね。次は人差し指だけ伸ばして、そのままで。そう、良い子ですよ」
攻撃姿勢を取りたくないのに、アピロの抵抗むなしく、自分の右手が人差し指でミゼンを指す。
「今のあなたに、呪文を唱える、なんていう行為は必要ありませんね。ただ、イメージするのです。ミゼンを木っ端みじんにすることを」
「で、できません、そんなこと」
「おや? 困りましたね。あなたにはしっかり自分がしたことを見てもらわねばなりません。それが最強の魔術師になる方法なんですから。仕方ありません。イメージさせてあげましょう」
左肩を掴んでいたスポロス先生の手が、アピロの頭にそっと置かれる。
次の瞬間、脳がぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚が、アピロの脳に貫かれた。
脳にはアピロが攻撃したあと、下半身だけが残ったミゼンが立ったままの映像が映し出された。周りの森は焼け野原になったかのように何もなくなっている。辺りを見回しても、ミゼンの、あの、軽薄そうな笑みを浮かべた顔はどこにもない。そこには、ただ上半身を無くした身体だけが立っていたのだ。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
吐きそうになるのを堪えていると、今度は自分のモノとはとても思えない感情が芽生えてきた。
ああ、なんていう快感。これが、自分の力だとは。あとは、ミゼンの下半身も消し去れば誰もあたしがやったとは思わない。
高揚する気持ちが自分の感情の大部分を占めてきてしまっている。抵抗なく右手を再度かざして、目線をミゼンだったものに定める。
これから起こることが容易に想像できる。あたしはその才能があるんだから。
ギリッと唇を噛み、何とかイメージを拭い去るように頭を振る。口の中に少しだけ鉄の味が広がった。
「あなたは、やはり優しすぎる。泣く必要なんてないんですよ」
スポロス先生に言われて、初めて自分が泣いていることにアピロは気づいた。
「あなたのおじい様は正解でした。こんな才能を持つ者をそのままにさせなかったのは、あなたが優しすぎるが故だったんですね。……ですが」
ぎゅっと強く頭を掴まれる。抵抗できずにいると、次々にミゼンを殺すための技が頭の中でイメージさせられては、殺した後の映像が浮かんできた。映像の世界の中ではどれが自分の本当の気持ちかさえわからなくなる。それでも映像の中から抜け出せず、もがくこともなく、快を感じるまま攻撃術式を展開し続ける。
――誰か
叫びだしたくなった瞬間、ふとアピロの名を呼ぶ声が聞こえた。
いつもの穏やかなスポロス先生はそこにはいなく、何かの欲望にまみれた男がいつの間にかアピロの前に立っていた。気持ちが高揚しているのか、頬が朱に染まり、期待に満ちた目でアピロを見ている。呼吸も少しだけ荒く、震えた手でスポロス先生はアピロの肩を掴んできた。
「いいですか。君みたいな才能の塊は存分に磨かねばなりません。その使命を負っているのが、我々教師。君の力は、この世の誰よりも優れています。だから、その力を証明するために、ミゼンを殺すのです」
「あ、あの、先生?」
言っていることがわからない。力を証明するのにミゼンを殺すことは必要ないはず。
「さあ、力を存分に発揮させるのです。今の攻撃術式の感覚は覚えてますね?」
アピロの様子を気にすることなく嬉々としてスポロス先生はアピロの肩を力強く掴み、無理やりミゼンの方に体を向かせる。肩が痛い。爪が食い込んでいるのかもしれない。
「そーいうことね」
大げさなため息を吐いて、ミゼンが呆れたように言った。
「あくまでも僕を殺すことが目的だったんだ?」
「それ以外に貴様に価値はない。ただの突然変異種は黙ってろ」
「おーこわっ。この眼に何か恨みでもあるのか?」
「その眼は災いの素。魔術がこれまで作り上げてきたものを一目で看破する。そんな目はこの世に不要だ」
「なるほどね。道理であんた、日ごろから僕を疎んでいたんだ。純血思想の塊かよ」
ミゼンの問いに答えることなく、アピロに微笑むスポロス先生。いつもの先生と変わらない様子なのに、どこか殺気立った雰囲気がある。体をねじって逃げ出したいが、スポロス先生に掴まれているせいか、体を動かすことができない。
「お前みたいな突然変異種はこの世に不要だ。彼女のような才能ある術師がこれからを支えてくれます。それに彼女の子の才能は、今後の軍事力において、多大なる影響をもたらすことができます。まあ、最初は躊躇うこともあるかもしれませんが、その力を使いこなせるようになればそれさえも快感になるはずです。さあ、アピロ、怖がらず、手をまっすぐ伸ばして」
スポロス先生はアピロの肩から手を離していないにも関わらず、アピロは自分の意志とは反対に右腕がギシギシと動き、アピロに向かって伸ばされる。
これが、精神操作か。
ぎりっとアピロは歯ぎしりをする。スポロス先生の得意領域を使われては、アピロは抵抗ができない。
「そう、良い子ですね。次は人差し指だけ伸ばして、そのままで。そう、良い子ですよ」
攻撃姿勢を取りたくないのに、アピロの抵抗むなしく、自分の右手が人差し指でミゼンを指す。
「今のあなたに、呪文を唱える、なんていう行為は必要ありませんね。ただ、イメージするのです。ミゼンを木っ端みじんにすることを」
「で、できません、そんなこと」
「おや? 困りましたね。あなたにはしっかり自分がしたことを見てもらわねばなりません。それが最強の魔術師になる方法なんですから。仕方ありません。イメージさせてあげましょう」
左肩を掴んでいたスポロス先生の手が、アピロの頭にそっと置かれる。
次の瞬間、脳がぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚が、アピロの脳に貫かれた。
脳にはアピロが攻撃したあと、下半身だけが残ったミゼンが立ったままの映像が映し出された。周りの森は焼け野原になったかのように何もなくなっている。辺りを見回しても、ミゼンの、あの、軽薄そうな笑みを浮かべた顔はどこにもない。そこには、ただ上半身を無くした身体だけが立っていたのだ。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
吐きそうになるのを堪えていると、今度は自分のモノとはとても思えない感情が芽生えてきた。
ああ、なんていう快感。これが、自分の力だとは。あとは、ミゼンの下半身も消し去れば誰もあたしがやったとは思わない。
高揚する気持ちが自分の感情の大部分を占めてきてしまっている。抵抗なく右手を再度かざして、目線をミゼンだったものに定める。
これから起こることが容易に想像できる。あたしはその才能があるんだから。
ギリッと唇を噛み、何とかイメージを拭い去るように頭を振る。口の中に少しだけ鉄の味が広がった。
「あなたは、やはり優しすぎる。泣く必要なんてないんですよ」
スポロス先生に言われて、初めて自分が泣いていることにアピロは気づいた。
「あなたのおじい様は正解でした。こんな才能を持つ者をそのままにさせなかったのは、あなたが優しすぎるが故だったんですね。……ですが」
ぎゅっと強く頭を掴まれる。抵抗できずにいると、次々にミゼンを殺すための技が頭の中でイメージさせられては、殺した後の映像が浮かんできた。映像の世界の中ではどれが自分の本当の気持ちかさえわからなくなる。それでも映像の中から抜け出せず、もがくこともなく、快を感じるまま攻撃術式を展開し続ける。
――誰か
叫びだしたくなった瞬間、ふとアピロの名を呼ぶ声が聞こえた。



