以下の者は、担当教諭の試験に合格できない限り、退学とす。
燦々と輝いている太陽の下、学生たちが集まる掲示板に、退学候補者リストが張り出されている。身長ばかりは他の女子たちと比べて背が高いため、アピロは少し背伸びすると簡単にリストを確認することができた。
「やってしまった」
何度瞬きしても、何度目をこすってもそこにはアピロの名前が確かに書かれていた。はっきり書かれている自分の名前を見て、思わずアピロは自分の頭を抱えて、うずくまった。
予感、というよりも、ほぼ確信めいたものは期末試験終了後からあったのは否めない。
男子に負けないくらいの体力はあるくせに、魔術操作が絶望的。
他者評価と自己評価が一致してしまっているこの事実から何とか抜け出そうともがいたこの数か月。その努力むなしく、この度退学候補者となってしまった。
魔術は才能であり、努力してもその才能を超えることはできない。
これは周知の事実である。
ここ、アウレル王国は、世界でも有数な魔術国家。魔術師を志すものであれば、アウレル国立魔術学院での卒業が必須とされている。
アピロの両親・兄たち共に魔術師であり、またアピロの家系には偉大な魔術師として歴史にその名を遺した祖父オミフリを輩出した家柄である。アピロも幼少期からオミフリのようになるべく、学院に二年前に入学した。
入学して二年間は基礎課程であり、実技を伴う講義は一切なかった。二年時の進級テストを経て、今年度から始まった実技でアピロは散々な結果を叩きだし続けていた。そのため成績は常に下の順位をうろうろしていた。担任のスポロス先生からも救いようがないほどの魔力不足とまで評されてしまった。
だけど、どうにか学年末テストをクリアすれば、四年生以降は専門課程に進むことができるし、苦手な科目を勉強することは無い。この一年もがいていたものの、実力以上のことができずに退校寸前という状態になったのだ。
「アピロ、大丈夫?」
心配そうな顔でアピロの顔を覗き込んできたのはルームメイトだった。今日も艶やかな長い茶髪が風になびいている。同性のアピロから見ても美女である。彼女は、座学、実技ともに優秀なクラスに入っており、試験勉強期間中はクラスが違ってもお世話になっていた。
「あたし、もうだめかもしれない。今まで、ありがとう」
涙目で言うと、彼女は呆れた顔になった。
「何を言ってんの。まだ担当教諭試験が残っているじゃない」
「でも、あたしの担任はスポロス先生だよ……」
「……スポロス先生か。それはご愁傷さまです」
「見捨てないでよぉ」
ひしっと彼女の黒色ローブを掴むが、簡単に手で払われてしまう。
「いい、アピロ。世の中には諦めも肝心という言葉があってね」
やけに慈悲深い笑顔で肩を掴まれ、そして諭された。
「でも、あたしは絶対退学だけは……」
夢がある。祖父オミフリのような偉大な魔術師になりたい。そのためには退学だけは何としてでも回避しなければ。退学してしまうと、魔術師の資格は得られない。
「どうしたら良いかなぁ……」
「私に訊かれても困るんだけど。実技は私も得意な方じゃないし。基礎練するしかないんじゃない?」
至極まっとうな答えを聞いて、アピロはますます肩を落とす。
スポロス先生は実技の担当だ。一番苦手な科目の担当教諭に試験内容を聞きに行かなければいけないと言うのは、退学宣告を受けに行くのも同義ではないだろうか。
「そうだけど、そうだけどぉ」
「とりあえず、その汚い顔をきれいにしてから、スポロス先生のところに出頭したら? 意外と簡単な試験かもしれないし」
「……そうだね」
アピロは今一度大きなため息を吐いてから、渋々立ち上がる。
掲示板をもう一度恨めし気に見てから、アピロは肩を落として教師たちの執務室がある棟に向かって歩きだした。
学院の中は一つの街くらいの広さがある。学生寮、学術棟、訓練場、広場、図書館棟などが立ち並んでいる。訓練場やその周辺には森もあり、野営の訓練でもできるようになっている。今日も森の方から声がしている。誰かが何かを練習しているに違いない。ぼんやりと見ていたが、鳥の声に驚き、ハッと我に返る。学術棟前に貼られた学年末試験の成績をしり目に、目と鼻の先にある執務室を睨みつける。この近さは、今のアピロにとって良いのかどうか言わないでおく。
掲示板に群がる学生たちの隙間を縫うようにして、学術棟に向かう。歓喜、悲鳴、動揺。さまざまな声が入り混じっているが、多くが安堵の声に違いない。当たり前かもしれないが、アピロも退学者候補リストに入っていなければ、少なくとも安堵の声は上げていたはず。
羨ましい限りだ。自分もあそこに混ざって喜びの声をクラスメイトと一緒にあげたかった。
燦々と輝いている太陽の下、学生たちが集まる掲示板に、退学候補者リストが張り出されている。身長ばかりは他の女子たちと比べて背が高いため、アピロは少し背伸びすると簡単にリストを確認することができた。
「やってしまった」
何度瞬きしても、何度目をこすってもそこにはアピロの名前が確かに書かれていた。はっきり書かれている自分の名前を見て、思わずアピロは自分の頭を抱えて、うずくまった。
予感、というよりも、ほぼ確信めいたものは期末試験終了後からあったのは否めない。
男子に負けないくらいの体力はあるくせに、魔術操作が絶望的。
他者評価と自己評価が一致してしまっているこの事実から何とか抜け出そうともがいたこの数か月。その努力むなしく、この度退学候補者となってしまった。
魔術は才能であり、努力してもその才能を超えることはできない。
これは周知の事実である。
ここ、アウレル王国は、世界でも有数な魔術国家。魔術師を志すものであれば、アウレル国立魔術学院での卒業が必須とされている。
アピロの両親・兄たち共に魔術師であり、またアピロの家系には偉大な魔術師として歴史にその名を遺した祖父オミフリを輩出した家柄である。アピロも幼少期からオミフリのようになるべく、学院に二年前に入学した。
入学して二年間は基礎課程であり、実技を伴う講義は一切なかった。二年時の進級テストを経て、今年度から始まった実技でアピロは散々な結果を叩きだし続けていた。そのため成績は常に下の順位をうろうろしていた。担任のスポロス先生からも救いようがないほどの魔力不足とまで評されてしまった。
だけど、どうにか学年末テストをクリアすれば、四年生以降は専門課程に進むことができるし、苦手な科目を勉強することは無い。この一年もがいていたものの、実力以上のことができずに退校寸前という状態になったのだ。
「アピロ、大丈夫?」
心配そうな顔でアピロの顔を覗き込んできたのはルームメイトだった。今日も艶やかな長い茶髪が風になびいている。同性のアピロから見ても美女である。彼女は、座学、実技ともに優秀なクラスに入っており、試験勉強期間中はクラスが違ってもお世話になっていた。
「あたし、もうだめかもしれない。今まで、ありがとう」
涙目で言うと、彼女は呆れた顔になった。
「何を言ってんの。まだ担当教諭試験が残っているじゃない」
「でも、あたしの担任はスポロス先生だよ……」
「……スポロス先生か。それはご愁傷さまです」
「見捨てないでよぉ」
ひしっと彼女の黒色ローブを掴むが、簡単に手で払われてしまう。
「いい、アピロ。世の中には諦めも肝心という言葉があってね」
やけに慈悲深い笑顔で肩を掴まれ、そして諭された。
「でも、あたしは絶対退学だけは……」
夢がある。祖父オミフリのような偉大な魔術師になりたい。そのためには退学だけは何としてでも回避しなければ。退学してしまうと、魔術師の資格は得られない。
「どうしたら良いかなぁ……」
「私に訊かれても困るんだけど。実技は私も得意な方じゃないし。基礎練するしかないんじゃない?」
至極まっとうな答えを聞いて、アピロはますます肩を落とす。
スポロス先生は実技の担当だ。一番苦手な科目の担当教諭に試験内容を聞きに行かなければいけないと言うのは、退学宣告を受けに行くのも同義ではないだろうか。
「そうだけど、そうだけどぉ」
「とりあえず、その汚い顔をきれいにしてから、スポロス先生のところに出頭したら? 意外と簡単な試験かもしれないし」
「……そうだね」
アピロは今一度大きなため息を吐いてから、渋々立ち上がる。
掲示板をもう一度恨めし気に見てから、アピロは肩を落として教師たちの執務室がある棟に向かって歩きだした。
学院の中は一つの街くらいの広さがある。学生寮、学術棟、訓練場、広場、図書館棟などが立ち並んでいる。訓練場やその周辺には森もあり、野営の訓練でもできるようになっている。今日も森の方から声がしている。誰かが何かを練習しているに違いない。ぼんやりと見ていたが、鳥の声に驚き、ハッと我に返る。学術棟前に貼られた学年末試験の成績をしり目に、目と鼻の先にある執務室を睨みつける。この近さは、今のアピロにとって良いのかどうか言わないでおく。
掲示板に群がる学生たちの隙間を縫うようにして、学術棟に向かう。歓喜、悲鳴、動揺。さまざまな声が入り混じっているが、多くが安堵の声に違いない。当たり前かもしれないが、アピロも退学者候補リストに入っていなければ、少なくとも安堵の声は上げていたはず。
羨ましい限りだ。自分もあそこに混ざって喜びの声をクラスメイトと一緒にあげたかった。



