咲凜の家には、誰もいなくなっていました。
 おじさんもおばさんも、咲凜の妹も。
 きっと、ここにいることが耐えられなかったんだと思います。
 家の外壁は落書きされ、意思が投げ込まれたせいか、窓ガラスが容赦なく割れていました。
 あの事件を知った誰かが、歪んだ正義感でおじさんたちを追い込んだのだと思うと、怒りを覚えました。

 それから私は咲凜の部屋に行ったのですが、そこは驚くほどに別世界となっていました。
 清潔で整っていて、居心地がよかった部屋は、薄暗く、物が散らばっていて。
 警察の人が乱雑に咲凜の物を持っていったのだとわかりました。
 ここは本当に咲凜の部屋だっただろうか?と疑問に思うくらいでした。

 私との写真が床に落ちているのを見たときには、涙がこぼれそうになりました。
 私たちの大切で穏やかな日常は壊されたのだと、思い知らされた気分で。
 そっとそれを拾うと、咲凜が飾ってくれていたコルクボードに写真を戻しました。
 楽しそうに笑う私と、照れた様子で微笑んでいる咲凜。
 あの日見た、目に光のない不気味な笑みとは違う。
 そこにいる彼女こそ、本当の咲凜に違いない。
 私は、そう信じているのです。

 だから、様変わりした部屋で、私は咲凜が隠していた本音に繋がるものが見つからないだろうかと、私は捜索を始めました。

 なにかが見つかって欲しい。
 なにもないかもしれない。
 見つけたとしても、それは私が望むものではないかもしれない。
 それでも、私は咲凜のことが知りたい。
 親友として。
 無責任に決めつけてしまうのではなく、咲凜のことをちゃんと知らなければならない。
 たとえ、目を背けたくなるような事実が待っているとしても。

 そんな一心で探し回っていると、私は咲凜の日記を見つけることができました。
 それを読んだ感想ですか?
 怒りと悲しみと絶望と恐怖でいっぱいになりましたよ。
 他人の日記を勝手に記録に残すなんて気が引けますが、今回だけ。
 咲凜を知らない人に、認識を改めてもらうためとわかれば、きっと咲凜も許してくれると思うので。