​ラスールの島での出来事から三ヶ月――

​季節は夏へと移り変わり、重い冬服のローブを脱いで、ようやく軽やかな夏制服に袖を通す。鏡に映る自分の姿を見つめながら、私はそっと腕をなでた。

​窓から差し込む陽光を受けて、新緑のように輝く翡翠色の髪。若葉のように淡い緑色の瞳。

​「……魔人族、か」

​ラスールでザハラに告げられた言葉を思い出し、指先で髪をくるくると遊ばせる。

​自分が人間ではないと知った時は、確かにショックだった。

普通の人たちとは違う。

どうして私が、と何度も自問した。

​でも、あれから三ヶ月が経ち、ようやく日常が落ち着きを取り戻し始めた頃、私はエクレールさんから魔人族と魔人王の話を聞くことができた。

​「彼の名はリヴァイバル。あなたの母君であるエレノアちゃんの兄君であり、魔人族を束ねた王でもありました」

​エクレールさんは遠い昔を懐かしむように窓の外へ目を向け、優しく微笑む。

​「口数が少なく、無表情で、何を考えているのか分かりにくい人でした。ですが、彼は誰よりも仲間を大切にし、愛する人々のために自らの命を懸けて力を振るえる人でした」

​「愛した人々のために、自らの命を懸けて力を振るえた人……」

​その人が、母の兄で、私の叔父。

​エクレールさんの話は、私が想像していた魔人王とは全く違っていた。

今まで読んできた魔法書には、魔人族は特別な力に傲り、他の種族を見下す存在だと書かれていた。

その中でも、魔人王は血も涙もない冷徹で無慈悲な王であったと。

​だけど、魔人族を誰よりも深く知るエクレールさんの口から、そんな言葉は出てこなかった。

​「彼は確かに、血も涙もない冷徹で無慈悲な王だったのかもしれません。ですが、それは仲間や愛する人々を守るため、そう振る舞う必要があったからです。あの時代、魔人族は『特別な力を持つ存在』というだけで狙われたのですから」

​そう言って、エクレールさんは悲しげに目を伏せた。

​「わたくしが彼と初めて出会った時、彼はひどい怪我を負っていました。全身が傷だらけで、ひどい出血をしていました」