☆ ☆ ☆
「……人のものに、触らないでよ」
ブラッドが寝息を立てるのを確認し、そっと頬を撫でてから、私は横に佇む影に冷たい視線を向けた。
「ブラッドに無茶をさせないでください」
私の碧眼に怒りが宿る。影はくすりと笑い、ふわりと音もなく目の前まで来た。
「無茶じゃないわ。これは、彼が望んだことよ」
「いいえ、そんなはずありません」
私は影を睨みつける。影は楽しげにくすくすと笑い、嫌らしく赤い瞳を細めた。
「そんなこと言って、彼がこんなふうになったのは、ぜ〜んぶあなたのせいじゃない」
その言葉に、私の瞳は大きく見開かれた。震えを必死で抑え込み、大きく息を吐き出す。
「あなたの言う通り……ブラッドがこうなってしまったのは、すべて私のせいです。私は……彼にこんな道を歩んでほしくなかった」
目尻に涙を浮かべ、再びブラッドの頬を優しく撫でる。愛しい人を求めるように。
「そんなことしたって無駄よ。あなたは、私と違って彼に存在を認知されていない。どんなに呼びかけたって、無駄なんだから」
影は嘲笑うようにくすくすと笑い、音もなく闇に溶けて姿を消した。
一人残された私は、ブラッドが首から下げている守護石に触れる。
彼が今も大切にしてくれているそれは、私が渡した時よりも、少し形が変わってしまっている。
きっと、たくさん彼のことを守ってくれたのね。
「ブラッド……」
透き通る自分の掌を見下ろす。
何度も彼の名を呼んだ。気づいてほしくて、いろんなことを試した。
でも、そのどれも届かなかった。
「私は……ここにいます」
だから、もうやめて。
私のために、あなたを犠牲にしないで。
ブラッドは、私の声に気づかないまま、穏やかな寝顔を見せている。
その頬を撫でる私の手は、すり抜けるように何も感じない。彼の首元で、守護石が微かに光を放っている。
「……気づいてくれないんですね」
私の言葉は、音もなく静かな部屋に溶けていく。
ブラッドは、夢の中で何かと戦っているようだった。時折、眉間に深いしわを寄せ、苦しげな表情を浮かべる。私のために、知らない誰かと戦っている。
そのことが、私には耐えられなかった。
彼は、私という存在を認知できないまま、私のために生き続けている。その姿を見るたびに、私の胸は締め付けられた。
もう、やめてよ。
私はブラッドの胸元に顔を埋めた。
私の体は彼に触れることができない。
ただ、私は彼の温かさを求めて、その場に留まることしかできない。
「あなたのせいじゃない」
そう言ってくれる声が聞こえた気がした。でも、それは影の言葉だったかもしれない。
彼をこんなふうにしてしまったのは、私だ。
ブラッドを愛してしまったから。
「……ごめんなさい……ブラッド」
そう言って、私はブラッドの髪をそっと撫でた。
「……人のものに、触らないでよ」
ブラッドが寝息を立てるのを確認し、そっと頬を撫でてから、私は横に佇む影に冷たい視線を向けた。
「ブラッドに無茶をさせないでください」
私の碧眼に怒りが宿る。影はくすりと笑い、ふわりと音もなく目の前まで来た。
「無茶じゃないわ。これは、彼が望んだことよ」
「いいえ、そんなはずありません」
私は影を睨みつける。影は楽しげにくすくすと笑い、嫌らしく赤い瞳を細めた。
「そんなこと言って、彼がこんなふうになったのは、ぜ〜んぶあなたのせいじゃない」
その言葉に、私の瞳は大きく見開かれた。震えを必死で抑え込み、大きく息を吐き出す。
「あなたの言う通り……ブラッドがこうなってしまったのは、すべて私のせいです。私は……彼にこんな道を歩んでほしくなかった」
目尻に涙を浮かべ、再びブラッドの頬を優しく撫でる。愛しい人を求めるように。
「そんなことしたって無駄よ。あなたは、私と違って彼に存在を認知されていない。どんなに呼びかけたって、無駄なんだから」
影は嘲笑うようにくすくすと笑い、音もなく闇に溶けて姿を消した。
一人残された私は、ブラッドが首から下げている守護石に触れる。
彼が今も大切にしてくれているそれは、私が渡した時よりも、少し形が変わってしまっている。
きっと、たくさん彼のことを守ってくれたのね。
「ブラッド……」
透き通る自分の掌を見下ろす。
何度も彼の名を呼んだ。気づいてほしくて、いろんなことを試した。
でも、そのどれも届かなかった。
「私は……ここにいます」
だから、もうやめて。
私のために、あなたを犠牲にしないで。
ブラッドは、私の声に気づかないまま、穏やかな寝顔を見せている。
その頬を撫でる私の手は、すり抜けるように何も感じない。彼の首元で、守護石が微かに光を放っている。
「……気づいてくれないんですね」
私の言葉は、音もなく静かな部屋に溶けていく。
ブラッドは、夢の中で何かと戦っているようだった。時折、眉間に深いしわを寄せ、苦しげな表情を浮かべる。私のために、知らない誰かと戦っている。
そのことが、私には耐えられなかった。
彼は、私という存在を認知できないまま、私のために生き続けている。その姿を見るたびに、私の胸は締め付けられた。
もう、やめてよ。
私はブラッドの胸元に顔を埋めた。
私の体は彼に触れることができない。
ただ、私は彼の温かさを求めて、その場に留まることしかできない。
「あなたのせいじゃない」
そう言ってくれる声が聞こえた気がした。でも、それは影の言葉だったかもしれない。
彼をこんなふうにしてしまったのは、私だ。
ブラッドを愛してしまったから。
「……ごめんなさい……ブラッド」
そう言って、私はブラッドの髪をそっと撫でた。



