右目に内側から抉られるような鋭い痛みが走り、俺は無意識に首から下げている翡翠の守護石を強く掴んだ。

ひんやりとした翡翠の感触が、高ぶる熱を少しだけ鎮めてくれる。

​しかし激痛に耐えきれず、俺はベッドから転がり落ち床にうずくまる。

「はぁ……あっぐぅ!!!」

全身から冷や汗が噴き出し、呼吸が乱れる。

体中の魔力が右目へと吸い込まれていくような感覚に襲われた。

その時、右目の奥で見えない一本の新しい魔力回路が形成されるのを感じた。

それは、まるで透明な糸が紡がれていくような感覚だ。その糸は、俺の右目から伸び、空間を越えて遠く離れた雫と繋がっていく。

​そうだ、この感覚はかつてこの右目を受け入れた時の感覚と同じだった。

あの時も、俺の右目は魔力の回路を通じて雫と繋がった。

​痛みは徐々に引いていったが、右目の奥にはいまだ熱い残滓が燻っていた。そして、雫と繋がった時と同じ、不思議な充足感が全身を巡っている。

​俺はゆっくりと立ち上がり、右目を擦った。世界の見え方が、変わっていた。

これまでただの部屋だった空間が、まるで複雑な回路図のように見える。

家具や壁、空気中に漂う埃、それら全てが魔力の流れを帯び、細い光の線となって網状に張り巡らされている。

そして、その網状の回路の中に、一際黒く、異質な光の筋が走っているのが見えた。

それはこの部屋の窓の外、遥か彼方の空に向かって伸びている。

​「ラスールを襲った、暴食の悪魔の魔力だ……」

​俺は確信した。あの黒い光の筋は、悪魔が残した魔力の痕跡だ。

そして、その先に必ずあいつらがいる。

​「やったじゃない。これで、あとはその道筋を辿ればいいだけよ」

​影が、満足げな声で言った。

​「……何が目的だ」

​俺は、窓の外から視線を戻さずに問う。

影は、俺の問いに答えず、ただ不気味に笑った。その笑い声は、俺の胸の奥深くに響き不安を掻き立てた。

​「その答えは、いずれ分かるわ。さあ、明日から忙しくなるわよ。悪魔たちの痕跡は時間が経つにつれて消えていく。寝ているひまなんてないわよ?」

​影の声に、俺は嫌そうな顔を浮かべた。

こいつ、俺のこと寝かせる気ねぇな。

俺は影の言葉を無視し、ベッドに入って寝に入った。

「あら、行かないの?」

「うるせぇよ……寝かせろ。お前のせいでこっちは体がだるいんだ!」

さっき無理やり右目と雫を繋げる新たな魔力回路を作ったせいで、頭痛は酷いわ、動悸はするし倦怠感がやばいときた。

この症状になるのは小さい頃以来だな。そう思いながら、俺はそっと目を閉じた。

そんな俺の頬を誰かが指先で優しく撫でると、指先から伝わる心地よい温かさを感じながら、俺の意識は睡魔の中に消えていった。