ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

俺はフラスコを握りしめ、冷たいガラスの感触を確かめた。手のひら越しに伝わってくるのは、暴食の悪魔の忌まわしい気配だった。

微細な黒い粒子が、フラスコの底で静かにうごめいている。

「ねえ、本当にやるの?」

影の声が、再び脳裏に響いた。

楽しげな響きの奥には、かすかな嘲笑が滲んでいる。

「当たり前だ。これしか方法がない」

そう言い返したものの、内心では迷いがあった。

この右目に、悪魔の力を取り込むこと。

それは、まるで猛毒を飲み込むようなものだ。これまで精霊の魔力を取り込んできた時とは、わけが違う。

精霊は大地や水、風といった自然の摂理に属する存在だ。しかし、悪魔は違う。

奴らはこの世の理から外れた、混沌と破壊の権化だ。

もし、右目がその力に耐えられなかったらどうなる?

最悪の場合、右目を失うだけでは済まないだろう。俺自身が暴食の悪魔の力に侵食され、やがてその力に飲み込まれてしまうかもしれない。

ラスールを襲った、あの黒い粒子のように。

ただ食らうことだけを求める怪物に成り果てる可能性だってある。

そこまで考えた俺は、フラスコをそっと胸のポケットにしまった。

「……やめるの?」

影の声が、意外そうに問いかける。

「ああ。今日はやめだ」

そう答え、俺は深く息を吐いた。

今、焦ってはいけない。この方法以外にも、きっと道はあるはずだ。

そう自分に言い聞かせる。

すると、影は満足したかのようにクスクスと笑った。

その笑い声は、まるで俺の臆病さを嘲笑っているかのようだった。

「ふうん。まあ、賢明な判断ね」

影は俺の頬に顔を近づけ、囁くように言った。

冷たい気配が、肌を這い上がってくる。

「あなたはいつもそう。大事なところで、いつも二の足を踏む」

「うるさい。俺は慎重になっているだけだ」

俺は影を睨みつけた。

「いいえ。あなたは臆病なだけよ」

影は俺の言葉をあっさりと否定し、さらに顔を近づけてきた。

赤黒い顔がわずかに歪み、その口元が弧を描く。

「でも、心配しないで。あなたは一人じゃない。あたしがいる」

そう言って、影は俺の胸に手を当てた。

その手から、温かくも禍々しい力が流れ込んでくる。

俺は思わず息をのんだ。

「あたしが、あなたの勇気になってあげる」

その言葉と同時に、右目と胸の奥が熱を帯びた。

まるで、身体の内側から焼かれているかのような、激しい熱だった。