ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

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「ふっ……逃げられたか」

俺はウリエルが身を投げた奈落の穴ではなく、彼女が生徒たちを転移させた先の空間の残滓を面白そうに見つめていた。

その表情には、苛立ちの代わりに確信に満ちた余裕が浮かんでいる。

​俺は地面に飛び散っていたウリエルの貴重な銀の血を、まるで宝石を拾うように丁寧に回収した。

​「この血液の状態……やはり、内部の悪魔の因子は未だ不安定、か。だが、これでいい。光と闇の激しい衝突こそが、七柱の力が定着するための土台を完璧に固める」

​黒幕は、空間の闇に向けて静かに語りかけた。

​「聞いているか、強欲(アヴァリティア)。お前の『瞳』を持つあの人間は、我々の計画の触媒として順調に機能しているのか?」

​すると闇の奥から、赤黒い影が現れるとクスリと笑った。

​「えぇ……順調よ。この三百年で、彼の中に宿っている強欲の因子は大きな種になったわ。開花するのも時間の問題かしらね」

​「しかし、嫉妬(インヴィディア)。お前の担当する監視網はどうなっている? ウリエルの排除を試みる勢力の動きは?」

と俺が問う。

​今度は、青白い影がわずかに揺らめいた。

​「心配ご無用だ。ウリエルを狙う別の貴族や、彼女の力を恐れる協会内の勢力の動きは全て把握しているわ。彼らのつまらない陰謀は、我々の計画の目眩ましに過ぎない」

​「ふん。役立たずの人間共め」

と、今度は黒い巨大な影が低く唸った。それは憤怒(イラ)の声だ。

「あの炎光神裁の娘ごとき、一思いに叩き潰してやれば済む話だ。回りくどい!」

​「待て、憤怒よ」と俺が静かに制する。

「焦りは禁物だ。彼女の器は、完全な絶望と屈辱の中でこそ開く」

​その言葉と同時に、遥か地下深部から不気味な脈動が響き、この広間の闇を揺らした。​黒幕は満足げに目を細める。

​「見よ。天剣『アズライヤ』が、お前たち憤怒と嫉妬の力によってさらに妖しく、不気味な黒曜石の輝きを放ち始めた。計画は最終段階だ」

​「しかし炎光神裁の総長様は、相変わらず冷酷だ。可愛い妹を堕天の瀬戸際に追い込み、我々の手元に送ってくるとはな。愚かな兄の愛か、あるいは自己保身か?」

​「でもまぁ、焦る必要なんてないわ。計画は全て計算通り、完璧に進んでいるんだから」

​そう言って強欲の悪魔はニヤリと笑みを浮かべる。

​俺は回収した銀の血をゆっくりと手の中で弄び、勝利を確信したような笑みを深めた。

​「あの娘を『器』にすることは、最初から運命として決まっていたことだ。三百年前に、我らが彼女の姿を見つけた時から、この計画を立て、入念に準備してきたのだからな」

​「我々から逃げられると思うなよ、炎光神裁の娘よ。お前自身の特異な血と、天剣『アズライヤ』が、必ずお前を我々の元へ連れてくるのだから」