ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

僕の目の前には、広大な空間が広がっていた。

そこは、天然の洞窟とは思えないほど平坦に整地された、儀式のための広間だった。

空間の中央には、禍々しい黒い祭壇が鎮座している。その周囲には、意識を失った複数の若者たちが鎖で繋がれていた。

――セレスの教え子たちに間違いない。

そして、祭壇の中心には、一人の術者が立っていた。

全身を古びた黒いローブで覆い、顔は深いフードの影に隠されている。外見から、その正体を判断することはできなかった。

ただ、術者の身に纏わりつく悪魔の魔力は、異様なほど濃密だった。その波動はあまりにも重く、ローブの内側にいるものが人間なのか、それとも既に人ならざる何かへと変異しているのか、僕の瞳をもってしても即座には見極められなかった。

術者は、僕の突然の出現にも、その直前に起きた激しい魔法の爆発にも動じなかった。

祭壇に繋がれた若者たちを見下ろしていた顔を、ゆっくりと僕へ向ける。

やがて、ローブの奥から冷ややかな声が響いた。

「……随分と粗野な客だ。だが、その銀色の光……間違いない。貴方様の魔力は、我らが長の語られたものと同じ。そして、その血筋もまた――」

術者は、フードの奥で愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

「我らが長の求める『究極の器』。ようやく、お目にかかれた」

僕は一瞬、目を見開いた。

七つの悪魔は、僕の魔力を感知できる。そして、僕の血筋についても、既に何らかの情報を得ているらしい。

つまり、目の前の術者は、僕が何者であるかを知らずにここにいるわけではない。

だが、それがどうしたというのだろう。

敵が僕の正体を知っていようと、任務の遂行に支障がないのであれば問題はない。

教え子たちを救出し、目の前の障害を排除する。それが最優先事項だ。

「……君が何者かは知らない。だが、君の目的を聞くつもりもない。君の存在そのものが、僕の任務における最大の障害だ」

僕は銀剣を握り直し、広間に響き渡る低い声で告げた。

「殺す」

その宣告を受けても、術者は笑みを崩さなかった。フードの奥から、何かを嘲るような気配が滲み出る。

「面白い。効率の化身である貴方様が、慈悲もなく殺戮を選ぶとは。だが、生憎と神裔をここで逃すわけにはいかない」

次の瞬間、術者の足元から黒い魔力の波紋が広がった。

波紋は瞬く間に広間の床を覆い、祭壇に刻まれた邪悪な紋様が、血を思わせる赤い光を放ち始める。

「ちょうど『器』も揃った。貴方様の尊い血は、この儀式を完成させるための最高の供物となるだろう」

黒い波紋がさらに広がる。

広間を満たす闇の魔力は、僕の銀剣から放たれる光さえも呑み込もうとするかのようだった。

術者は両腕をゆっくりと広げる。もはや、戦闘を避けるつもりはないらしい。

僕は、その圧倒的な悪魔の波動を前に、ほんのわずかな動揺を覚えた。

だが、それも一瞬のことだった。

未知の敵を前にして、感情に判断を委ねる理由はない。僕はすぐさま思考を切り替え、敵の魔力と周囲の状況を分析する。

「戯言を」

白銀の瞳が、術者のローブの奥に潜む魔力の核心を捉えた。

この異質な波動。黒焔の太陽に連なる、禍々しい魔力の気配。

「その言葉と魔力の波動……やはり、七つの悪魔の一人か」

僕は銀剣を低く構えた。

広間を侵食する闇に抗うように、全身から高密度の光の魔力を噴出させる。白銀の光が周囲を照らし、黒い波紋と正面からぶつかり合った。

「その程度で、僕を止められると思うな」

長期戦は避けるべきだ。

敵の正体も、儀式の全容も、まだ不明。だが、敵が僕を『器』として必要としているのなら、少なくとも、僕をただ殺すことだけが目的ではないはずだ。

ならば、その思惑を逆手に取る余地はある。

もっとも――

「一撃で仕留める」