「あら、そんなに何を深く考えているの?」

「っ!!」

​頭に響いた声に、俺は思わず息をのんだ。意識がぐらりと揺らぎ、深い闇に引きずり込まれそうになる。必死に意識を集中させ、固く目を閉じた。

「何の用だ。お前に声をかけた覚えはない」

冷たく言い放つと、脳裏でクスクスと楽しげな笑い声が聞こえる。

「いいじゃない。今はあなたとあたし、二人きりなんだから」

そう言って、赤黒い影が俺の体に跨るように姿を現した。

夜中に見れば、誰もが奇妙に思う光景だろう。だが、心配はいらない。こいつは俺にしか見えないからだ

「あたしなら、あなたのその悩みを解決してあげられるのに?」

影は細く長い指先で、俺の唇をゆっくりとなぞった。相変わらず嫌らしい手つきだ。

内心でそう毒づきながら、俺は何も答えず、ただ寝返りをうった。

こいつの言葉に、心当たりがないわけじゃない。だがそれを実行するには、あまにりも大きいな勇気がいる。

「どうするの? あなたがやらないから、あたしが代わりにやってあげようか?」

「余計なお世話だ。それに、やるかどうかは俺が決める」

​俺はそう言い返し、指をパチンと鳴らすと、小さなガラスのフラスコを出現させた。

その固く閉められた中には、先日ラスールを襲った暴食の悪魔の粒子が、数匹ゆらゆらと漂っている。

​俺はフラスコの中の粒子を見つめながら、その先の可能性を思い描く。

方法は単純だ。

この暴食の悪魔を、俺の右目に取り込む。そうすれば、右目がこいつらの情報を読み取り、似た魔力の流れを追うことができるようになるはずだ。

奴らの魔力回路が見えるようになれば、時空の裂け目がどこに現れるか、瞬時に察知できる。

しかし、リスクが大きい。

​俺の右目は、確かに他者の魔力を吸収し、情報を読み取る力を持つ。この三百年で身につけた能力だ。

だが、悪魔相手に試したことは一度もない。

これまで吸収してきたのは、せいぜいその土地の精霊たちの魔力程度だった。