ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

僕はセレスの返答に満足し、彼を伴って馬車組合から最も目立たない裏通りへと移動した。

「セレス殿。僕は君に情報を移動中にすべて吐き出してもらうと言った。その『移動』は、馬車ではない」

そう言いながら、僕は装束の懐から手のひらサイズの転移用魔導具を取り出した。それは、精密な座標調整能力は欠くものの、短距離であれば確実に物体を移動させるための簡易転移装置だ。

「この街から嘆きの岩壁まで、馬車で半日。この転移用魔導具を使えば、数十分で到着する」

セレスは、僕が取り出した魔道具を見て目を丸くした。

「短距離とはいえ、この辺境で稼働する転移具を……! しかし、どこへ……?」

「問題ない」

僕はセレスの言葉を遮り、ホログラムディスプレイを起動させた。ディスプレイにはスターシスの地理情報と、目標である嘆きの岩壁までの複雑な地形が表示されている。

「君は話せ。僕はその間、魔導具を投げ込む座標を正確に計算する」

僕はディスプレイの座標を高速で調整しながら、セレスへ質問を浴びせ始めた。

「まず、君はなぜこんな辺境の町スターシスへと飛ばされたんだ? 飛ばされる前はどこにいた?」

セレスは、僕の多重タスク処理とその切迫感に圧倒されながらも、必死に頭を整理して話し始めた。

「ぼ、僕は、王都近くにある学校に、課外授業の講師として呼ばれていました。その学校の先生方から、『エテルナの審判』に向かって出発したはずの生徒たちから連絡がこないと聞かされまして……」

セレスの声が震えた。

「そこでまさかと思い、僕も自分の教え子たちに連絡を取るために魔導具でアクセスを試みたんです。そうしたら……酷いノイズ音が流れ、その直後に教え子たちの悲鳴が聞こえ、『助けて』という言葉を最後に連絡が完全に途絶えました」

彼の目には、その時の悲劇的な状況がありありと浮かぶ。

「僕はすぐに、最後に教え子たちと通信できた座標を解析し、そのデータを持って大魔導院に戻り、魔導士団に緊急の捜索願を出そうと考えていました。しかし、大魔導院内の長距離転移陣へ向かう直前、激しい座標ズレに巻き込まれ……気が付いたら、この『スターシス』付近の外縁へと飛ばされていました」

転移システムの広範囲な機能不全と、生徒たちが襲われた具体的な状況、セレスの報告は僕の予想していたものと近いものだった。

「なるほど。君の教え子たちは、襲撃の直接の被害者であり、君はそれを生で聞いている。そして君自身も、捜索の妨害のように転移障害に巻き込まれた」

僕はモニター上の計算を完了させ、嘆きの岩壁から最も近く、かつ人目につかない場所の座標を確定させた。

「続けて、君の教え子たちだ。彼らの中で最も魔力が強力で、犯人が狙う可能性が高い者は誰だ? その者の魔力特性を詳細に説明するように」

セレスは、僕の質問に眼鏡を押し上げながら必死に記憶を辿った。

「一番狙われる可能性があるのは、ロゼッタです。彼女は四大貴族のご令嬢で、まだ若年ながら『時空間魔術』の才能に目覚めかけています」

「時空間魔術……」

僕は口の中でその言葉を転がした。最も希少で、最も高度な魔術系統の一つだ。魔力の総量よりも、その『特異性』が狙われる理由になる。

「他には?」

「はい。次はガゼル。彼は平民出身ですが、魔力の総量が尋常ではありません。一度、彼の最大魔力量を計測した際、上級魔導師団員の平均値を僅かに超えていました。特に『炎の精霊魔術』への適性が高く、爆発的な火力を発揮できます」

「魔力の『量』と魔術の『質』。……なるほど」

僕は冷徹に分析した。大量の魔力が必要な儀式であればガゼル、特異な魔術の使い手が必要であればロゼッタが狙われる。どちらも、僕の任務の目的と結びつく可能性が高い。

セレスがガゼルの炎の特性を語った瞬間、僕の脳裏にかつて『業火の魔導士』として認められたロキの姿が一瞬よぎった。ロキの炎もまた、通常の赤熱を超えた青を帯びる瞬間があった。

(青色の炎……まぁ、実力は彼よりも下か)

僕はガゼルの潜在能力をロキと比較し、その優劣を瞬時に判断した。それでも、このレベルの魔力を持つ者が犯人に狙われるのは、極めて合理的な事態だった。

「ロゼッタは時空間魔術のどの段階にある? 完全に制御できているのか?」

「いえ、まだ不安定です。しかし、短距離の瞬間移動や、時間の流れを極短時間操作する片鱗を見せていました。ただ、魔力消費が激しく、戦闘で使えるほどの安定性はありません」

「ガゼルは?」

「彼の炎は、通常の熱量を超え、青色を帯びることがあります。制御はまだ荒削りですが、その瞬間火力は、彼の魔力総量を考えれば、局地的な破壊力を持つ危険なものです」

セレスは話し終えると、肩で息を吐いた。

「感謝する、セレス殿。これで僕の行動は確定した」

僕はモニター上の計算を完了させ、嘆きの岩壁から五キロ手前、そして人目につかない山側の隘路の座標を確定させた。

僕は、手に持った転移用魔導具――精密な調整が施された小型の金属球――を、確定させた座標に向けて静かな力で投げ込んだ。

一筋の青白い閃光が弾け、魔導具は空間に吸い込まれるように音もなく消滅した。それは、ターゲット地点に展開した小型の転移魔方陣が、魔導具を吸い込んだ瞬間を示している。

「あの魔導具が嘆きの岩壁から五キロ手前、そして人目につかない山側の隘路で、僕たちの次の『足場』を準備している」

僕はセレスへと向き直った。

「ここからは僕の速度についてきてもらいます。セレス殿、僕のコートの肘に強く捕まってください。決して離さないように。僕の魔力で君の体を覆いますが、もし途中で魔力障壁が乱れた場合、君の体は空間の歪みに引き裂かれるので」

セレスは恐怖で丸眼鏡をさらに押し上げたが、躊躇はしなかった。

「は、はい!」

彼は震える手を伸ばし、僕のコートの肘を強く必死に掴んだ。

僕はセレスがしっかりと掴まったのを確認すると、一瞬で全身の魔力を解放した。

僕たちの足元に、白銀の複雑な魔法陣が閃光とともに展開する。それは、周囲の景色を歪ませるほどの短距離瞬間転移の術式だった。

ゴオッ、という空気が圧縮されるような重い音と共に、僕たちの姿はスターシスの裏通りから一瞬で掻き消えた。