ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

セレスは、僕の冷徹な眼差しと、その言葉の裏に込められた『対価』の要求を理解したようだった。

彼はごくりと唾を飲み込み、緊張で全身を強張らせた。

「……私の知っていることでしたら、すべてお話しします」

震える声には、それでも確かな決意が込められていた。

「行方不明になった教え子たちの専門分野や魔力特性、彼らが最後に残したメッセージ。それに、嘆きの岩壁付近の地理的な詳細も……。私が知り得ることなら、すべてお伝えします」

僕は提示された情報の価値を頭の中で素早く見積もり、口元にかすかな笑みを浮かべた。

「よろしい。だが、一つ確認しておきたいことがある」

僕はセレスの目を見据えた。

「君は先ほど、僕が『家族の安否を心配しているだけの旅人』ではないと判断した。その根拠は何だ?」

セレスは一瞬ひるんだものの、意を決したように口を開いた。

「貴方様の身なりです。その装束の仕立てや、内側に縫い込まれた魔力抑制の術式は、王都でも最高級の職人が手掛けたものに見受けられます」

彼はそこで一度言葉を切り、慎重に僕の反応を窺った。

「それに、先ほどの受け答えです。貴方様は周囲の状況を冷静に観察し、必要な情報だけを選び取っておられました。ご家族を心配しているというお話も、嘘だと断じるつもりはありません。ですが、それだけが貴方様の行動の理由だとは思えなかったのです」

セレスは覚悟を決めたように、さらに言葉を続けた。

「失礼を承知で申し上げます。貴方様は、ただ妹様の安否を尋ねて回る『心配性の兄』ではない。何らかの明確な目的を持ち、この辺境の地を訪れた方なのだと、私は判断しました」

僕の顔から笑みが消え、セレスを見定めるような眼差しだけが残った。

(装束に施された術式に気づき、会話から僕の行動の不自然さを読み取ったか。少なくとも、目の前の男は感情に流されるだけの人間ではないらしい)

「……ふっ、面白い。君の観察眼は、魔導師としての実力とは別の意味で評価に値する」

僕はわずかに口角を上げた。

「その通り、僕はただの旅人ではない。だが、僕の目的は君の教え子を捜すこととは異なる」

「承知しております」

セレスは迷いなく答えた。

「ですが、貴方様の目的と私たちの捜索は、『嘆きの岩壁』で交差する可能性があると考えています。私が持つ情報が貴方様の目的を果たす助けになるのなら、それで十分です。どうか、私たちの捜索に力を貸してください!」

僕はセレスの制服の襟元に視線を落とし、それから再び彼の顔を見た。

「よろしい。君の情報を受け入れよう。その代わり、君には僕の案内役を務めてもらう。行動の判断は僕に任せてもらうが、必要な情報は包み隠さず提供してもらう。余計な感情で判断を誤らないことだ。君の安全も、任務を遂行するうえで考慮すべき要素の一つだからな」

「はい! 命に代えても、お役に立ちます!」

「命を粗末にする必要はない。僕が求めているのは、君の命ではなく、君の持つ情報だ」

僕は踵を返し、出口へと歩き出した。

「では、決まりだ。次の馬車を待って二日間も無駄に過ごすつもりはない。今から嘆きの岩壁へ向かう。君の知っていることは、移動しながらすべて聞かせてもらおう」

「い、今からですか!?」

セレスは驚き、ずれかけた丸眼鏡を慌てて押し上げた。

「何か問題でも?」

僕が振り返って尋ねると、彼は一瞬口をつぐんだ。

僕の態度に気圧されたのか、それとも、ようやく手にした協力者を失いたくないのか。セレスは逡巡した末、覚悟を決めたように頷いた。

「い、いえ! 分かりました。すぐに出発できるよう準備します!」

「それでいい。案内を頼む、セレス殿」

僕は再び歩き出した。

――これ以上、時間を浪費するつもりはなかった。