僕に馬鹿にされ恥をかかされた酔っぱらいの三人は、顔を怒りで真っ赤に染め、怒号とともに腰にある剣をそれぞれ抜いた。するとその中の一人が、後ろで震えていた一人のご令嬢を乱暴に引っ張り出し、そのか細い喉元に剣先を突きつけた。
「ひっ!」
ご令嬢の身体はガタガタと震え、恐怖で涙が頬を伝う。その光景に僕は白銀の瞳を氷のように鋭く細めた。
自分よりも弱い人間を人質にとることで、状況を優位に立たせようとするその浅ましい姿勢に、僕の中で言葉に出来ない程の純粋な嫌悪感が湧き上がる。
(人間はどいつもこいつも、己の無力を補うために、この種の卑劣な手段を必ず使う)
残りの酔っぱらい二人組も、剣を構えると獣のような声を上げて僕に襲いかかる。その瞬間、僕はゆっくりと瞳を閉じた。
自身の魔力を極限まで制御し、外部からの気配を遮断する。世界から音が一つも聞こえない、無の領域へと入る。
キーンと、脳内で魔力が圧縮される音が聞こえた刹那、僕はカッと目を見開いた。
純粋な『覇気』と化した魔力が、白銀の瞳から無音の衝撃波として放たれ、襲い掛かってきていた二人組の理性中枢を正確に打ち抜いた。気を失った二人は剣を落とし、そのまま無様に地面に倒れ込む。
「なっ……何だ……お、お前は、こいつらになにした!」
僕は冷淡なほくそ笑みを浮かべながら、ゆっくりと人質を取った男に向かって歩く。男の顔は、酔いと恐怖で痙攣していた。
僕は鞘から剣を抜くと、音速に近い速度で男との距離を縮める。
「なっ……!」
男が瞬きをしようとする一瞬の隙に、僕は剣の柄頭を正確に男の横っ腹の急所に打ち込んだ。
「かはっ……」
男は短く苦悶の声を上げ、脱力した腕の中からご令嬢が滑り落ちるのを、僕は迷いなく抱き上げ、もう一人のご令嬢の隣へとそっと降ろした。
僕は地面に無様に倒れこんでいる男たちに手をかざし、不可視の魔力で彼らの体を拘束する。そして、そのまま彼らを魔法警察署がある方角へと一塊の物体のようにすっ飛ばした。
「大丈夫だ、命を奪うようなことはしないさ。僕の時間を奪った無駄な代償としては、あれで十分だ」
これで、周囲の危険は去っただろうと思い僕はそっと息を吐く。
「あ、あの……! 本当にありがとうございました!」
「ん?」
するとさっきまで恐怖で震えていたご令嬢二人が、連れ立って深々と頭を下げてきた。この状況下で、自ら感謝を示すことができるのは、単なる貴族の教育ではない。
(ということは彼女たちは、無理矢理あの男たちに連れ回されていた、と)
その答えで納得し、僕は旅の貴族らしい紳士的な仮面を被りご令嬢たちに手を差し出す。
「お怪我がないようで、ご安心いたしました。よろしければ、このままお屋敷までお送りしましょう」
「そ、そんな……助けていただいた上に、恐縮ですわ」
「もう夜も遅いです。ご家族もきっと心配されていることでしょう。僕のことは気になさらず、たまたまここを通りかかった旅人なので」
そう言って僕はそれ以上の深入りを許さず、二人を無事にお屋敷へと送り届けた。最後に別れ際、僕はふと思い出したように言葉を挟む。
「あ、そう言えば一つお聞きしたい事があります」
「はい、なんでしょう?」
「ヴァリス・エテルニタスへ行くには、どのようにしたらいいでしょうか?」
「ヴァリス・エテルニタスにですか? もしかしてエテルナの審判にご参加されるのですか?」
「えぇ……そんなところですね」
僕は内心で「早く行き方だけでも教えてくれ」と思いながら、ぎこちない不慣れな笑顔を浮かべた。
「ヴァリス・エテルニタスでしたら、三日後に出る王都行の馬車に乗る事をおすすめいたします。しかし……ヴァリス・エテルニタスへ行く際にはどうぞお気をつけください」
「えっ?」
するとご令嬢は顔を青くすると、不安げな声で言葉をつづけた。
「ひっ!」
ご令嬢の身体はガタガタと震え、恐怖で涙が頬を伝う。その光景に僕は白銀の瞳を氷のように鋭く細めた。
自分よりも弱い人間を人質にとることで、状況を優位に立たせようとするその浅ましい姿勢に、僕の中で言葉に出来ない程の純粋な嫌悪感が湧き上がる。
(人間はどいつもこいつも、己の無力を補うために、この種の卑劣な手段を必ず使う)
残りの酔っぱらい二人組も、剣を構えると獣のような声を上げて僕に襲いかかる。その瞬間、僕はゆっくりと瞳を閉じた。
自身の魔力を極限まで制御し、外部からの気配を遮断する。世界から音が一つも聞こえない、無の領域へと入る。
キーンと、脳内で魔力が圧縮される音が聞こえた刹那、僕はカッと目を見開いた。
純粋な『覇気』と化した魔力が、白銀の瞳から無音の衝撃波として放たれ、襲い掛かってきていた二人組の理性中枢を正確に打ち抜いた。気を失った二人は剣を落とし、そのまま無様に地面に倒れ込む。
「なっ……何だ……お、お前は、こいつらになにした!」
僕は冷淡なほくそ笑みを浮かべながら、ゆっくりと人質を取った男に向かって歩く。男の顔は、酔いと恐怖で痙攣していた。
僕は鞘から剣を抜くと、音速に近い速度で男との距離を縮める。
「なっ……!」
男が瞬きをしようとする一瞬の隙に、僕は剣の柄頭を正確に男の横っ腹の急所に打ち込んだ。
「かはっ……」
男は短く苦悶の声を上げ、脱力した腕の中からご令嬢が滑り落ちるのを、僕は迷いなく抱き上げ、もう一人のご令嬢の隣へとそっと降ろした。
僕は地面に無様に倒れこんでいる男たちに手をかざし、不可視の魔力で彼らの体を拘束する。そして、そのまま彼らを魔法警察署がある方角へと一塊の物体のようにすっ飛ばした。
「大丈夫だ、命を奪うようなことはしないさ。僕の時間を奪った無駄な代償としては、あれで十分だ」
これで、周囲の危険は去っただろうと思い僕はそっと息を吐く。
「あ、あの……! 本当にありがとうございました!」
「ん?」
するとさっきまで恐怖で震えていたご令嬢二人が、連れ立って深々と頭を下げてきた。この状況下で、自ら感謝を示すことができるのは、単なる貴族の教育ではない。
(ということは彼女たちは、無理矢理あの男たちに連れ回されていた、と)
その答えで納得し、僕は旅の貴族らしい紳士的な仮面を被りご令嬢たちに手を差し出す。
「お怪我がないようで、ご安心いたしました。よろしければ、このままお屋敷までお送りしましょう」
「そ、そんな……助けていただいた上に、恐縮ですわ」
「もう夜も遅いです。ご家族もきっと心配されていることでしょう。僕のことは気になさらず、たまたまここを通りかかった旅人なので」
そう言って僕はそれ以上の深入りを許さず、二人を無事にお屋敷へと送り届けた。最後に別れ際、僕はふと思い出したように言葉を挟む。
「あ、そう言えば一つお聞きしたい事があります」
「はい、なんでしょう?」
「ヴァリス・エテルニタスへ行くには、どのようにしたらいいでしょうか?」
「ヴァリス・エテルニタスにですか? もしかしてエテルナの審判にご参加されるのですか?」
「えぇ……そんなところですね」
僕は内心で「早く行き方だけでも教えてくれ」と思いながら、ぎこちない不慣れな笑顔を浮かべた。
「ヴァリス・エテルニタスでしたら、三日後に出る王都行の馬車に乗る事をおすすめいたします。しかし……ヴァリス・エテルニタスへ行く際にはどうぞお気をつけください」
「えっ?」
するとご令嬢は顔を青くすると、不安げな声で言葉をつづけた。



