僕は再びホログラムディスプレイで現在地を確認する。ディスプレイにもこの町『フォルトゥナ』以外の集落は表示されていなかった。本当にここは、世界から切り離された辺境の町であることを証明しているようだった。
僕はホログラムに映る地図を縮小させ、ヴァリス・エテルニタスのある方角を確認する。ヴァリス・エテルニタスは僕のいる位置から南東だ。ここからさらに遠く離れた先に、中継点となりそうな街がありそうだ。
よし、一先ずはそこへ向かおう。
行先を決めた僕は、周囲に人影がないことを確認すると深く息を吸い込んだ。
次の瞬間、静寂を破って灼熱のような魔力の奔流が僕の内部から解き放たれる。それを合図に、僕の白銀の瞳は太陽そのものを宿したかのような激しい金色へと一気に強く発光した。呼応するように薄紫色の髪は一瞬で色が抜け、神々しい黄金の輝きを放ちながら波打つ。
直後、背中の装束を突き破り、光の粒子を纏った巨大な六枚の翼が、轟音と共に生え出した。その翼は、根元が燃えるような黄金、中央は眩い白、そして先端にかけては半透明の炎のような赤やオレンジへと、息をのむグラデーションを描く。羽毛ではなく、純粋な光の粒子やエネルギーの奔流が固まって形作られたその翼は、わずかに羽ばたくたびに黄金の光の粉を周囲に惜しみなく撒き散らした。
着ていた白銀の装束の袖も、魔力によって再構築され翼の羽の形へとシャープに変化し、同時に頭上には、太陽の権威を模した光の天冠が顕現し、その中央には太陽の形をした宝石が、静かに強烈な輝きを放ちながら浮遊した。
周囲の空気が灼熱に歪む中、僕はそこに立っていた。この姿こそが、神罰を下す熾天使を思わせる僕の真の姿の一つだ。
僕は軽く地を蹴った。その衝撃は、大地に微細な亀裂を走らせるどころか、周囲の地面をクレーター状に抉り取るほどの凄まじい力だった。その推進力に乗せ、白銀の翼が起こす衝撃波を置き去りにしながら、僕は光速にも近い速度で空へと高く飛翔した。
眼下を猛烈な速さで流れる空を自由に翔ける。風を切る轟音は、僕の黄金の瞳には届かない。僕が通り過ぎた大気の層は、金と赤が混じったような生命の奔流によって、炎の残光のようにキラキラと煌めく。
その祝福の光の粒子は、まるで選別の雨のように、生命力を失った荒れ地へと惜しみなく降り注がれた。
するとどうだろうか。光を受けた地は瞬く間に命を吹き返し、数時間前まで乾ききった灰色の荒地だった場所が、今や鮮烈な色彩の爆発のように色とりどりの花々で満たされ、芳醇な香りを放ち始めたのだった。
☆ ☆ ☆
数時間後、遠方の街の人目のつかない裏路地へ降り立った僕は、変身を解除し、元の白銀の装束の姿に戻って、街の大通りへと出た。
街に着くころにはすっかり夜になっていた。時刻と到着地を確認し、僕は最低限の休息を確保する必要があると判断した。
「今日はどこかで宿を取った方がよさそうだ。静かに情報を得られる場所が望ましいが……」
そう思いながら、僕はひっそりと目立たない宿を探して歩き出す。
「よぉよぉ、兄ちゃん! 随分といい身なりしてんなぁ!」
すると僕とすれ違った酔っぱらいの男が三人、顔を真っ赤にさせながら、獣のような下卑た笑いを浮かべて僕にダル絡みしてきた。酒と汗とタバコが混じった不快な臭いが鼻を突く。
僕は内心で深く溜め息をついた。「転移陣さえ正常なら、こんな低俗なトラブルに時間を割く必要はない」と、「これも全て兄上のせいだ」と苛立ちを込めて毒づく。その怒りを鎮めるように、白銀の瞳を鋭く細めて酔っぱらいたちを睨みつけた。
視線の先に、酔っぱらいたちの背後で震えるように身を寄せ合う二人の女の子たちが目に入った。着用しているのは、上等なシルクのワンピース。間違いなく、裕福な家のご令嬢方だ。
(こんな夜中に、護衛もつけずに不用意に出歩いたのが運の尽きか。そしてその結果、僕の貴重な時間を奪う存在に成り下がった、と)
「あぁ~ん、なんだよぉ兄ちゃん! そんな睨みつけて。お前、面も良い顔してるじゃねぇか!」
「……初対面で酩酊した状態の人間が、他人の容姿についてとやかく論評するのは社会規範における最大の失礼だと思うが?」
僕は羽織っているコートの下で、剣柄に指先を触れさせた。その微かな仕草だけで、酔っ払いの体温が一瞬下がったのを感じる。
こんな奴ら、片付けることは簡単だ。僕の魔力操作を使えば一瞬で意識を刈り取れる。しかし、この人通りのある大通りで騒ぎを起こせば、無用の注目を集める。そして、このご令嬢たちを巻き込むのは、任務の効率から見ても最悪だ。
「んあぁ? お前こそ、俺たちが王都でも名の知れた大貴族様だと知っての口かぁ? あ?」
その威嚇に、僕は鼻で笑った。
「ふん。君たちが大貴様だって? 笑わせるな。貴族の血統という名の脆弱な権威など、僕の目にはその辺の泥濘に沈んだ石ころと同等に見える」
僕はさらに言葉を継いだ。
「いい年した者がこうも酔っぱらって、怯える庇護対象を捕まえて、自分たちは偉大であるとのたまう姿は、その辺に転がっている価値も重みもない石ころと違わないだろう?」
僕は冷酷な嘲笑を浮かべて、酔っぱらいどもを見下ろした。その瞳には、彼らの存在そのものへの深い軽蔑が宿っていた。
僕はホログラムに映る地図を縮小させ、ヴァリス・エテルニタスのある方角を確認する。ヴァリス・エテルニタスは僕のいる位置から南東だ。ここからさらに遠く離れた先に、中継点となりそうな街がありそうだ。
よし、一先ずはそこへ向かおう。
行先を決めた僕は、周囲に人影がないことを確認すると深く息を吸い込んだ。
次の瞬間、静寂を破って灼熱のような魔力の奔流が僕の内部から解き放たれる。それを合図に、僕の白銀の瞳は太陽そのものを宿したかのような激しい金色へと一気に強く発光した。呼応するように薄紫色の髪は一瞬で色が抜け、神々しい黄金の輝きを放ちながら波打つ。
直後、背中の装束を突き破り、光の粒子を纏った巨大な六枚の翼が、轟音と共に生え出した。その翼は、根元が燃えるような黄金、中央は眩い白、そして先端にかけては半透明の炎のような赤やオレンジへと、息をのむグラデーションを描く。羽毛ではなく、純粋な光の粒子やエネルギーの奔流が固まって形作られたその翼は、わずかに羽ばたくたびに黄金の光の粉を周囲に惜しみなく撒き散らした。
着ていた白銀の装束の袖も、魔力によって再構築され翼の羽の形へとシャープに変化し、同時に頭上には、太陽の権威を模した光の天冠が顕現し、その中央には太陽の形をした宝石が、静かに強烈な輝きを放ちながら浮遊した。
周囲の空気が灼熱に歪む中、僕はそこに立っていた。この姿こそが、神罰を下す熾天使を思わせる僕の真の姿の一つだ。
僕は軽く地を蹴った。その衝撃は、大地に微細な亀裂を走らせるどころか、周囲の地面をクレーター状に抉り取るほどの凄まじい力だった。その推進力に乗せ、白銀の翼が起こす衝撃波を置き去りにしながら、僕は光速にも近い速度で空へと高く飛翔した。
眼下を猛烈な速さで流れる空を自由に翔ける。風を切る轟音は、僕の黄金の瞳には届かない。僕が通り過ぎた大気の層は、金と赤が混じったような生命の奔流によって、炎の残光のようにキラキラと煌めく。
その祝福の光の粒子は、まるで選別の雨のように、生命力を失った荒れ地へと惜しみなく降り注がれた。
するとどうだろうか。光を受けた地は瞬く間に命を吹き返し、数時間前まで乾ききった灰色の荒地だった場所が、今や鮮烈な色彩の爆発のように色とりどりの花々で満たされ、芳醇な香りを放ち始めたのだった。
☆ ☆ ☆
数時間後、遠方の街の人目のつかない裏路地へ降り立った僕は、変身を解除し、元の白銀の装束の姿に戻って、街の大通りへと出た。
街に着くころにはすっかり夜になっていた。時刻と到着地を確認し、僕は最低限の休息を確保する必要があると判断した。
「今日はどこかで宿を取った方がよさそうだ。静かに情報を得られる場所が望ましいが……」
そう思いながら、僕はひっそりと目立たない宿を探して歩き出す。
「よぉよぉ、兄ちゃん! 随分といい身なりしてんなぁ!」
すると僕とすれ違った酔っぱらいの男が三人、顔を真っ赤にさせながら、獣のような下卑た笑いを浮かべて僕にダル絡みしてきた。酒と汗とタバコが混じった不快な臭いが鼻を突く。
僕は内心で深く溜め息をついた。「転移陣さえ正常なら、こんな低俗なトラブルに時間を割く必要はない」と、「これも全て兄上のせいだ」と苛立ちを込めて毒づく。その怒りを鎮めるように、白銀の瞳を鋭く細めて酔っぱらいたちを睨みつけた。
視線の先に、酔っぱらいたちの背後で震えるように身を寄せ合う二人の女の子たちが目に入った。着用しているのは、上等なシルクのワンピース。間違いなく、裕福な家のご令嬢方だ。
(こんな夜中に、護衛もつけずに不用意に出歩いたのが運の尽きか。そしてその結果、僕の貴重な時間を奪う存在に成り下がった、と)
「あぁ~ん、なんだよぉ兄ちゃん! そんな睨みつけて。お前、面も良い顔してるじゃねぇか!」
「……初対面で酩酊した状態の人間が、他人の容姿についてとやかく論評するのは社会規範における最大の失礼だと思うが?」
僕は羽織っているコートの下で、剣柄に指先を触れさせた。その微かな仕草だけで、酔っ払いの体温が一瞬下がったのを感じる。
こんな奴ら、片付けることは簡単だ。僕の魔力操作を使えば一瞬で意識を刈り取れる。しかし、この人通りのある大通りで騒ぎを起こせば、無用の注目を集める。そして、このご令嬢たちを巻き込むのは、任務の効率から見ても最悪だ。
「んあぁ? お前こそ、俺たちが王都でも名の知れた大貴族様だと知っての口かぁ? あ?」
その威嚇に、僕は鼻で笑った。
「ふん。君たちが大貴様だって? 笑わせるな。貴族の血統という名の脆弱な権威など、僕の目にはその辺の泥濘に沈んだ石ころと同等に見える」
僕はさらに言葉を継いだ。
「いい年した者がこうも酔っぱらって、怯える庇護対象を捕まえて、自分たちは偉大であるとのたまう姿は、その辺に転がっている価値も重みもない石ころと違わないだろう?」
僕は冷酷な嘲笑を浮かべて、酔っぱらいどもを見下ろした。その瞳には、彼らの存在そのものへの深い軽蔑が宿っていた。



