​向かう先は、協会の最下層にある僕の私的な控室だ。

​エテルナの審判は、魔法と剣技の頂点を競う祭典であり、公には競技である。

だが、兄の指示に『ブラッドを負かせ』『祭典の裏を探る』という戦闘と諜報の要素が含まれている以上、それに適した準備が必要だ。

ただし、今回は目立ちすぎないことも重要だろう。

​控室の扉を魔力認証で開ける。内部は精密に管理された、僕の私物が整然と並んでいた。

​まずは、身に纏うもの。

僕は、協会で支給された制服ではなく、白と銀を基調とした軽やかな装束を選び出した。それは、極めて薄い最高級の魔導繊維で作られた、一切の装飾を排したハイネックのシャツと同色のスラックスだ。

軽装でありながら、要所には極小の防御術式が織り込まれており、魔力耐性にも優れている。

動くたびに、銀色の生地が微かに光を反射した。

次に、魔導具。

兄からもらった指輪は既に左手に装着済みだ。それに加えて、情報収集用の小型魔石カメラ、非常用の転移術式が組み込まれたアンクレット、そして魔力供給が不要な自己補給型の魔力回復薬を数本などを、装束の内ポケットに収納する。

​最後に、剣。

腰に携えている銀剣は、兄の執務室から廊下に出るまでに、既に意識下で調整を終えていた。

だがこの審判では、ブラッドの魔剣とカレンの魔剣と相対する可能性がある。

​僕は棚の奥から、僕専用に開発された対魔剣用の特殊な刀身を取り出した。この刀身を現在の剣に換装すれば、準備は整う。

​「ヴァリス・エテルニタスへ向かう準備は、これで完了」

​僕は静かに呟いた。

​出発まで、残された時間はわずかだ。

この限られた時間で、兄から送られてくるであろう詳細な任務リストを分析し、兄の真意を読み解かなければならない。

僕の役割は、命令の実行、そしてブラッドを叩き潰すこと。

​僕は静かに控室の扉を閉め、その白銀の瞳には一切の迷いも感情の揺れもなかった。