☆ ☆ ☆
執務室を出た僕は、静まり返った長い廊下を規則正しい、寸分の狂いもない足音を立てて歩いていた。
冷たい壁に反射する自分の足音だけが、この広大な空間に響く。頭の中では兄上から与えられた任務と、その裏にある意図が静かに分析されていく。
「ブラッドを負かせ、ですか」
僕は小さくそう呟き、腰に携えた剣の柄に無意識に触れていた。
硬質な柄の冷たい感触が指先に伝わる。それと共に、遥か三百年前に剣を交えた彼の姿が、僕の白銀の瞳の中にまるで記録映像のように鮮明に再生される。
愛する者を目の前で失い、理不尽な運命に対して絶望と、煮えたぎるほどの怒り、そして憎しみに捕らわれた彼。 その無力感から脱するために、全てを覆す絶対的な力を求め続けた彼。 そしてその重すぎる運命の全てを、傲慢なまでに独りで背負う覚悟を決めた、あの愚かで滑稽な瞬間の彼。
僕は、フッと冷たい嘲笑に似た笑いを喉の奥で漏らした。それは彼と本気で剣を交え、僕が完膚なきまでに打ち破った遠い過去の記憶を呼び覚ましたからだ。
あれから三百年という悠久の月日が流れたが、君は一体どれほど強くなったというのか。僕の基準で測れるほど、君の未練は断ち切れているのか。
まだ、過去の亡霊という鎖に自身を繋ぎ止めて生き続けている君は、見ていて実に滑稽でならない。そんな無意味な努力をしたところで、君が背負っている運命が変わるはずがないというのに。運命とは、君のような脆弱な個人の意思で揺るがせるものではない。
兄上は「おふざけ」と言っていたが、僕はもう一度、彼を打ち負かそう。
そして彼が抱く『希望』という名の幻想を、真正面から容赦なく突き付けてやる。
君が今やっていることは、どれほど無駄で、真の価値が一つもないことなのか。その『運命を変える』という大義は、所詮、闇と虚無に魂を完全に捕らわれるのが怖いから築き上げた、脆い自己満足という防壁でしかない、と。その真実を彼の心に深く刻み込むのが、僕に与えられた役割だ。
(そして、兄上の『祭典の裏を探れ』という真の目的……)
僕は、兄上から投げ渡された大魔導院の紋章が入った招待状を見下ろした。
兄の思惑はともかく、この祭典がブラッドとの再戦の舞台となることは、僕にとって唯一、興味をそそられる要素だ。
僕は思考を完了させると、一瞬だけ止めていた足を再び動かし目的の場所へと迷いなく歩き出した。
執務室を出た僕は、静まり返った長い廊下を規則正しい、寸分の狂いもない足音を立てて歩いていた。
冷たい壁に反射する自分の足音だけが、この広大な空間に響く。頭の中では兄上から与えられた任務と、その裏にある意図が静かに分析されていく。
「ブラッドを負かせ、ですか」
僕は小さくそう呟き、腰に携えた剣の柄に無意識に触れていた。
硬質な柄の冷たい感触が指先に伝わる。それと共に、遥か三百年前に剣を交えた彼の姿が、僕の白銀の瞳の中にまるで記録映像のように鮮明に再生される。
愛する者を目の前で失い、理不尽な運命に対して絶望と、煮えたぎるほどの怒り、そして憎しみに捕らわれた彼。 その無力感から脱するために、全てを覆す絶対的な力を求め続けた彼。 そしてその重すぎる運命の全てを、傲慢なまでに独りで背負う覚悟を決めた、あの愚かで滑稽な瞬間の彼。
僕は、フッと冷たい嘲笑に似た笑いを喉の奥で漏らした。それは彼と本気で剣を交え、僕が完膚なきまでに打ち破った遠い過去の記憶を呼び覚ましたからだ。
あれから三百年という悠久の月日が流れたが、君は一体どれほど強くなったというのか。僕の基準で測れるほど、君の未練は断ち切れているのか。
まだ、過去の亡霊という鎖に自身を繋ぎ止めて生き続けている君は、見ていて実に滑稽でならない。そんな無意味な努力をしたところで、君が背負っている運命が変わるはずがないというのに。運命とは、君のような脆弱な個人の意思で揺るがせるものではない。
兄上は「おふざけ」と言っていたが、僕はもう一度、彼を打ち負かそう。
そして彼が抱く『希望』という名の幻想を、真正面から容赦なく突き付けてやる。
君が今やっていることは、どれほど無駄で、真の価値が一つもないことなのか。その『運命を変える』という大義は、所詮、闇と虚無に魂を完全に捕らわれるのが怖いから築き上げた、脆い自己満足という防壁でしかない、と。その真実を彼の心に深く刻み込むのが、僕に与えられた役割だ。
(そして、兄上の『祭典の裏を探れ』という真の目的……)
僕は、兄上から投げ渡された大魔導院の紋章が入った招待状を見下ろした。
兄の思惑はともかく、この祭典がブラッドとの再戦の舞台となることは、僕にとって唯一、興味をそそられる要素だ。
僕は思考を完了させると、一瞬だけ止めていた足を再び動かし目的の場所へと迷いなく歩き出した。



