ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

☆ ☆ ☆

「ふむ……これはまた厄介な」

魔法協会の総長執務室。私は目の前に置かれた二通の招待状を見下ろし、小さく溜め息をついた。

招待状の左下には、大魔導院と神剣学院、二つの最高権威を示す紋章が誇らしげに並んでいる。どちらの組織も、私を『エテルナの審判』の賓客、あるいは主要な参加者として望んでいるのだろう。

どちらか一方を選び、もう一方を無視するなど、外交上あり得ない。

「まったく、困ったものだね」

私がそう小さく呟いたまさにその時、部屋の扉が静かに開いた。

後ろで細く束ねられた薄紫色の髪が、歩調に合わせて静かに揺れる。深い溜め息すら許さないような、一切の感情を排した白銀の瞳が、真っ直ぐこちらを捉えていた。

妹のウリエルだ。

彼女は両手いっぱいの書類を運んで来て、無言でドサッと音を立てて私の机の、すでに小山のようになっている書類の隣に置いた。

「兄上、こちら追加の申請書になります」

「え……えぇ~……ウリエル。まだあるのかい?」

私が心底うんざりした声を出すと、ウリエルは深く諦念に満ちた溜め息をついた。

「仕方ありません、兄上。あなたが長い間、こちらの職務を放棄していたのですから」

「そうは言っても、私だって疲れたよ。今はこんな紙の山に目を通すよりも、これをどうしようかと考えているところさ」

私はそう言って、目の前にある招待状の一つを摘まみ上げ、ウリエルに見えるように掲げる。

「兄上、それは一体?」

「ん? これはヴァリス・エテルニタスからの『エテルナの審判』への招待状だよ。もちろん、()宛に来たものだ」

「……僕に、ですか」

「うん、そうだよ」

そう言って私は()をつく。

私は封を切って中の招待状と同封の手紙をさっと見る。差出人は予想通り、『大魔導院院長アウグストゥス』からだった。手紙の内容を無視し、招待状だけをウリエルに見せた。

「どうする、ウリエル。行ってみる?」

「いいえ、そんなものに興味はありません」

うん、予想通りの即答だ。

確かに、ウリエルは名誉や祭典のような派手な催しには一切興味を示さないし、何より自分の力を人にみせたがらない。

しかし、今回の祭典にはウリエルに行ってもらう必要(・・・・・・・・・・・・・)がある。

「ウリエル。二カ月休暇を与えるから、私の代理として行って来てほしいんだ」

私の言葉にウリエルは一瞬だけ驚いた顔を浮かべたが、直ぐに感情を閉ざしいつもの鋭い目つきに戻った。

「それは、ご命令でしょうか?」

その言葉に、私は数秒黙り込んでから口角を少し上げて答えた。

「そうだね。そう思ってくれてもいいし、仕事の一つだと思ってくれても構わない。本当は私が行ければ一番いいのだけど、君も知っての通り、仕事がこの通り山積みだからね」

私は嫌そうな顔を浮かべて、天井まで届きそうな書類の山を見上げた。

ウリエルは心底嫌そうな顔を浮かべたが、それを仕事だと割り切ったのか微かに頷いた。

「分かりました、兄上の言う通りにします。それで、僕は何をすればいいのでしょうか?」

「う~ん、そうだね。今回の任務は至ってシンプルだ」

私はウリエルに招待状を投げて渡す。彼女はそれを見事な反射で受け取った。

「もし……ブラッド君が出場しているようだったら、彼を負かして来てほしい。それと祭典の真の狙いについて探ってくれ」

「兄上は、エテルナの審判に裏があると思っているのですか?」

「いや、まだ深く疑っているわけではないよ。ただ、ちょっと気がかりな事が少しあってね」

「気がかりなこと、とは?」

「まぁ、それについての調査もウリエルに任せるよ」

私がそう言うと、ウリエルは「もう少し具体的に説明を」とでも言いたげな、氷のような視線を投げかけてくる。

「それで、ブラッドを負かす理由とは?」

「あ、それはただのおふざけだよ」

私はそう言って「ははは」と声を上げて笑った。どうせ彼が出場するのは分かりきっている。

それに、きっと彼らも。

私は笑みを深めながら窓の外に目を向け、鋭く目を細めた。

(今回の事件で、彼が死んでくれれば……それで全部助かるんだけどね)

そんな不穏な独白を心の中で呟きながらも、私はウリエルに指輪を一つ投げて渡す。

「それを身に付けているといい。きっとウリエルを守ってくれるよ」

ウリエルは投げ渡された指輪を無感動に受け取ると、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます、兄上。それでは、ヴァリス・エテルニタスに行ってまいります」

「うん、気を付けてね。あ、あとで仕事についての詳細なリストを送るから、それにも目を通しておくように」

「分かりました。兄上も、くれぐれも仕事を投げ出して地下の研究室にこもらないでください」

「わ、分かってるよ!」

妹に弱みを握られたような釘を刺され、私は顔を引きつらせた。