ヴェルト・マギーア ソフィアと魔道と剣戟の勝利者

☆ ☆ ☆

「お〜い……アレス、そろそろ休憩にしようぜ。さすがの俺でも……もう限界だわ」

ロキはそう言うと、背中から地面にばったりと倒れ込んだ。その拍子に、土埃がふわりと舞い上がる。

「ああ、そうだな。いったん休憩しよう」

俺はそう答え、ロキに飲み物を投げて渡した。

地面に寝転がったままのロキは、片手で器用にそれを受け取ると、ゆっくりと上半身を起こした。

「それで、アレス。魔人の力の引き出し方は分かったのか?」

その一言に、ドリンクのキャップを回していた俺の手がぴたりと止まった。

数秒の沈黙の後、俺は小さく息を吐き、顔を伏せて正直に答えた。

「いや、まだだ……」

今、俺は自分の中に流れる魔人の血から、その力を引き出そうと試みていた。

ラスールでの戦い。

あのとき、俺は自分の中に流れる魔人の血に呼びかけた。すると、今までにないほどの力が、体の奥底から込み上げてくるのを感じた。

おそらく、あれがエクレールさんの言っていた、魔人族だけが使えるという『共振(レゾナンス)』だったのだろう。

しかし、あのときはただ必死だった。どうやって力を引き出したのか、正直なところ、ほとんど覚えていない。

あれから一ヶ月。俺は何度もロキに手合わせを頼み、試行錯誤を繰り返してきた。それでも、いまだに何の成果も得られていない。

ソフィアやエクレールさんに聞けば、何か突破口が見つかるかもしれない。けれど、できることなら二人には頼りたくなかった。これ以上、余計な心配をかけたくないという思いがあったからだ。

ラスールでの戦いで、俺は自分の力不足を痛感した。

このままでは、ソフィアを守れない。

そう強く思った。

それに、俺はブラッドさんから魔剣エクレールを託された。今の俺では、その力を使いこなすことなどできない。あのときだって、ブラッドさんがいてくれたからこそ、どうにか乗り切ることができたんだ。

「おいおい、そんな小難しい顔すんなよ。訓練で疲れてるっていうより、なんか深刻すぎるぞ」

「はは……そうだな」

乾いた笑いが喉から漏れた。

けれど、その笑いでは、自分の焦りを誤魔化すことすらできなかった。

俺の顔を見たロキは、何か言いたげに一瞬だけ口をつぐんだ。

だが、すぐにいつもの調子を取り戻すと、沈んだ空気を吹き飛ばすように、ぱっと声を弾ませた。

「そうだ! アレス、こいつを見てくれよ!」

そう言ってロキは、ズボンのポケットから、丁寧に折りたたまれた厚手の紙を取り出した。

それを大切そうに掲げて見せる。上質な紙で作られた、格式高い招待状のようだった。

俺はロキからそれを受け取り、左下に刻まれた印に目を留めた。

精緻な紋章には、見覚えがあった。

「これって……確か、大魔道院の紋章じゃなかったか?」

そう口にした途端、ロキはまるで自分が偉大な魔法使いにでもなったかのように胸を張り、得意げに笑った。

「ふっふ〜ん! それはな、『エテルナの審判』への参加が正式に認められた、栄誉ある招待状だ!」

「エテルナの審判?」

「お前だって知ってるだろ? ほら、ヴァリス・エテルニタスで五年に一度開催される、世界最高峰の魔道剣戟大会だよ!」

ヴァリス・エテルニタス――。

『永遠の力』を意味する名を持つ、魔道と剣技の探求が盛んな国だ。世界各地から優れた魔道士や剣士が集い、国全体が巨大な研究都市であり、修行場でもあるという。

街の至るところに訓練施設や魔術図書館が点在し、人々は生涯をかけて力の探求に励んでいると聞く。

その発展を支えてきたのが、大魔道院と神剣学院だ。

そして、両者が共同で主催する、五年に一度の祭典『エテルナの審判』。

魔道と剣技、それぞれの頂点を決めるこの大会には、世界各国から次世代の英雄候補や、腕に覚えのある強者たちが集う。

その名誉と実力を懸けて競い合い、各分野の頂点に立つ者を決めるのだ。

ロキは魔法教会から直々に『業火の魔道士』の称号を授けられた実力者だ。その実力が認められ、今回の招待状が届いたのだろう。

「まさか、カレンも招待されたのか?」

「ああ、おそらくそうだと思うぜ。俺は師匠から直接受け取ったからな。それに、大会は来月だって!」

ロキは、今からその舞台に立つのが楽しみで仕方ないのだろう。

招待状を見下ろす瞳は、まさに星を宿したかのようにキラキラと輝いていた。

(……この喜びよう。やっぱり、ロキは凄いな)

焦燥に駆られる俺とは違い、ロキは目の前の目標に向かって、迷いなく進んでいる。

その姿を見つめながら、俺は静かにそう思った。