私の覚悟を聞いていたサファイアは、感心したような、それでいてどこか切なさを秘めた表情を浮かべた。
「カレン、お前の決意と覚悟を、あいつは求めていない。きっとそれは払いのけられるだろう。それでも、お前はあいつに追いつくことを望むのか?」
「はい」
私は迷うことなく断言した。
サファイアの言う通りだ。先生は誰の助けも必要としていないだろう。でも、だからと言って、私は諦める気なんて微塵もない。
「だから、サファイア。私は迷うことなく、あなたの氷結の力を使います。先生のためにこの命を使えるのなら、私はそれでもかまわないのですから」
「……それが、お前の覚悟なんだな」
サファイアは最後の確認を取るように尋ねた。私はその言葉に、もう一度大きく頷いて見せた。
「……分かった、カレン。だったら私は、それを精一杯サポートしよう」
「サファイア……」
サファイアは腰につけていた耳飾りを外すと、それを私の手の中に握らせた。耳飾りに触れた瞬間、ひんやりとした冷気が掌から伝わってきた。
彼女は深呼吸を一つすると、私の手を見つめ、静かに言葉を紡ぎ始めた。それは、私が聞いたことのない、美しくもどこか哀愁を帯びた、氷の国に伝わる古い言葉だった。
「我が誓い、凍てつく魂の故郷よ。汝の魂に宿る青き輝きを、この指輪へと託し給え」
詠唱が響くと、私の手の中の耳飾りが青白く光り始めた。光は次第に強まり、形を変えていく。それはリングとなり、まるで吸い込まれるように、私の左手の人差し指にぴったりと嵌められた。
「これは私がいた氷国にあったアメジストの宝石で作られた『制御石』だ。この制御石には、氷結の力を抑え込む力が備わっている。身につける数によって、氷結の力をうまく抑え込み、コントロールすることもできる。今のこの世界では、制御石がどこにあるのかは分からない。だから、私が身につけているものしかない。だけど、これは必ずお前の力になってくれると信じている」
「サファイア……そんな貴重なものを」
サファイアは優しく微笑むと、私の手を取った。
「ブラッドも言っていたように、カレン、私にとってお前は唯一無二の存在であり、パートナーでもあるんだ。お前が望んでいることを、私は叶えてやりたいと思っている。それに、ブラッドが一人で何もかも抱え込もうとしている行動には、私も悩んでいたところだったしな」
「先生は、昔からあんな感じだったのですか?」
「レーツェルが言うにはそうみたいだな。あいつは、目的のためなら自分の命すら賭けようとしている馬鹿な奴だ。ある意味、ギャンブラーとしての素質があるかもしれないが、あいつが犠牲になることを、私たちは誰も望んでいない」
サファイアはそう言うと、忘却の山がある方角へと目を向け、小さく呟いた。
「きっと、彼女だってそうだ」
サファイアは深く深呼吸すると、私の手を力強く握りしめた。
「カレン、明日からは今日以上に厳しい特訓を始める。覚悟は本当にできているんだな」
「はい!」
私の力強い返事に、サファイアは優しく微笑んで見せた。
「カレン様」
静謐な空気が流れる中庭で、背後から執事のヴァルトが静かに声をかけてきた。
「ヴァルト? どうかしましたか?」
「カレン様宛に、お手紙を頂戴いたしました。至急お届けすべきものかと存じます」
ヴァルトは姿勢正しく、丁寧にトレイに乗せられた一通の封書を差し出した。私は彼の言葉に促され、それを受け取る。上質な紙の冷たい感触が指先に伝わってきた。
「なんだ、その手紙は?」
隣でじっとこちらを見ていたサファイアが、好奇心に満ちた目で覗き込んできた。
「さあ……差出人の名前は見当たらないわ」
そう答えながら、ふと手紙の表、左下の隅に目をやった。そこには、精緻に彫られたような見覚えのある紋章があった。
「これって……」
記憶を探る。確かこの紋章は、ヴァリス・エテルニタスの神剣学院(しんけんがくいん)のものではなかったかしら?
私は無造作に扱わないよう、指先に力を込めずに丁寧に封を切った。中から取り出したのは、二つ折りになった格式高い招待状と、添えられた短い手紙。
広げた招待状には、私をヴァリス・エテルニタスで開催される『エテルナの審判』に招待する旨が、厳かな筆致で記されていた。
私は続けて、添えられていた手紙を広げた。
『拝啓
時下、カレン様におかれましては、さらなる武術の探求に励まれておられることと拝察いたします。
さて、この度、五年に一度の祭典『エテルナの審判』を、大魔導院と神剣学院の共同主催にて開催する運びとなりました。
神剣学院は、カレン様が示された卓越した剣技と、若き世代を牽引する類稀なる才能に深く感銘を受けております。
つきましては、是非ともカレン様に大会へご参加いただき、その実力を世界の強豪たちの前で示していただきたく、この招待状をお送りいたしました。
あなた様の参戦は、この祭典に、そして未来の剣士たちに、最高の輝きと刺激を与えるものと確信しております。
敬具
ヴァリス・エテルニタス 大魔導院・神剣学院共同主催事務局』
手紙を読み終えた私の指先には、確かな熱がこもっていた。
「エテルナの審判……?」
隣にいたサファイアは、何か深い思案に沈んだように、ぽつりとその名を呟き目を細めた。
(きっと、私のところに来たということは、ロキのところにも届いているはず)
ロキの顔が脳裏を過る。きっと彼は今頃、師匠と共に訓練場で、子供のように喜んで飛び回っているに違いない。その光景が目に浮かび、私の唇には自然と穏やかな微笑が浮かんだ。
私は招待状をそっと、大切に胸元に押さえつけた。
「ヴァルト」
「はい、カレン様」
すぐにヴァルトが控えめに、しかし確かな声で応答する。
「この招待、受諾いたします。ヴァリス・エテルニタスへ向かう準備をしてください」
指示を受け取ったヴァルトは「承知いたしました」と一言述べ、音もなくその場を去った。
「参加するのか、カレン」
サファイアの問いかけに、私は迷いなく大きく頷いた。
「ええ、もちろんです。これは、今までの修行の成果を試す、最高の機会ですから」
そう言って、私は遥か遠い、今どこに居るかも分からない先生の姿を心に浮かべて、中庭の上空を見上げた。
先生が直接見ていなくても構わない。
でも、この『エテルナの審判』という祭典の頂点で優勝すれば、きっと――きっと、先生も私の力を、その研鑽を認めてくれるはずだ。
淡く、しかし切実な願いを胸に抱きながら、私は手の中にある格式高い招待状を、そっとくしゃりと握りしめたのだった。
「カレン、お前の決意と覚悟を、あいつは求めていない。きっとそれは払いのけられるだろう。それでも、お前はあいつに追いつくことを望むのか?」
「はい」
私は迷うことなく断言した。
サファイアの言う通りだ。先生は誰の助けも必要としていないだろう。でも、だからと言って、私は諦める気なんて微塵もない。
「だから、サファイア。私は迷うことなく、あなたの氷結の力を使います。先生のためにこの命を使えるのなら、私はそれでもかまわないのですから」
「……それが、お前の覚悟なんだな」
サファイアは最後の確認を取るように尋ねた。私はその言葉に、もう一度大きく頷いて見せた。
「……分かった、カレン。だったら私は、それを精一杯サポートしよう」
「サファイア……」
サファイアは腰につけていた耳飾りを外すと、それを私の手の中に握らせた。耳飾りに触れた瞬間、ひんやりとした冷気が掌から伝わってきた。
彼女は深呼吸を一つすると、私の手を見つめ、静かに言葉を紡ぎ始めた。それは、私が聞いたことのない、美しくもどこか哀愁を帯びた、氷の国に伝わる古い言葉だった。
「我が誓い、凍てつく魂の故郷よ。汝の魂に宿る青き輝きを、この指輪へと託し給え」
詠唱が響くと、私の手の中の耳飾りが青白く光り始めた。光は次第に強まり、形を変えていく。それはリングとなり、まるで吸い込まれるように、私の左手の人差し指にぴったりと嵌められた。
「これは私がいた氷国にあったアメジストの宝石で作られた『制御石』だ。この制御石には、氷結の力を抑え込む力が備わっている。身につける数によって、氷結の力をうまく抑え込み、コントロールすることもできる。今のこの世界では、制御石がどこにあるのかは分からない。だから、私が身につけているものしかない。だけど、これは必ずお前の力になってくれると信じている」
「サファイア……そんな貴重なものを」
サファイアは優しく微笑むと、私の手を取った。
「ブラッドも言っていたように、カレン、私にとってお前は唯一無二の存在であり、パートナーでもあるんだ。お前が望んでいることを、私は叶えてやりたいと思っている。それに、ブラッドが一人で何もかも抱え込もうとしている行動には、私も悩んでいたところだったしな」
「先生は、昔からあんな感じだったのですか?」
「レーツェルが言うにはそうみたいだな。あいつは、目的のためなら自分の命すら賭けようとしている馬鹿な奴だ。ある意味、ギャンブラーとしての素質があるかもしれないが、あいつが犠牲になることを、私たちは誰も望んでいない」
サファイアはそう言うと、忘却の山がある方角へと目を向け、小さく呟いた。
「きっと、彼女だってそうだ」
サファイアは深く深呼吸すると、私の手を力強く握りしめた。
「カレン、明日からは今日以上に厳しい特訓を始める。覚悟は本当にできているんだな」
「はい!」
私の力強い返事に、サファイアは優しく微笑んで見せた。
「カレン様」
静謐な空気が流れる中庭で、背後から執事のヴァルトが静かに声をかけてきた。
「ヴァルト? どうかしましたか?」
「カレン様宛に、お手紙を頂戴いたしました。至急お届けすべきものかと存じます」
ヴァルトは姿勢正しく、丁寧にトレイに乗せられた一通の封書を差し出した。私は彼の言葉に促され、それを受け取る。上質な紙の冷たい感触が指先に伝わってきた。
「なんだ、その手紙は?」
隣でじっとこちらを見ていたサファイアが、好奇心に満ちた目で覗き込んできた。
「さあ……差出人の名前は見当たらないわ」
そう答えながら、ふと手紙の表、左下の隅に目をやった。そこには、精緻に彫られたような見覚えのある紋章があった。
「これって……」
記憶を探る。確かこの紋章は、ヴァリス・エテルニタスの神剣学院(しんけんがくいん)のものではなかったかしら?
私は無造作に扱わないよう、指先に力を込めずに丁寧に封を切った。中から取り出したのは、二つ折りになった格式高い招待状と、添えられた短い手紙。
広げた招待状には、私をヴァリス・エテルニタスで開催される『エテルナの審判』に招待する旨が、厳かな筆致で記されていた。
私は続けて、添えられていた手紙を広げた。
『拝啓
時下、カレン様におかれましては、さらなる武術の探求に励まれておられることと拝察いたします。
さて、この度、五年に一度の祭典『エテルナの審判』を、大魔導院と神剣学院の共同主催にて開催する運びとなりました。
神剣学院は、カレン様が示された卓越した剣技と、若き世代を牽引する類稀なる才能に深く感銘を受けております。
つきましては、是非ともカレン様に大会へご参加いただき、その実力を世界の強豪たちの前で示していただきたく、この招待状をお送りいたしました。
あなた様の参戦は、この祭典に、そして未来の剣士たちに、最高の輝きと刺激を与えるものと確信しております。
敬具
ヴァリス・エテルニタス 大魔導院・神剣学院共同主催事務局』
手紙を読み終えた私の指先には、確かな熱がこもっていた。
「エテルナの審判……?」
隣にいたサファイアは、何か深い思案に沈んだように、ぽつりとその名を呟き目を細めた。
(きっと、私のところに来たということは、ロキのところにも届いているはず)
ロキの顔が脳裏を過る。きっと彼は今頃、師匠と共に訓練場で、子供のように喜んで飛び回っているに違いない。その光景が目に浮かび、私の唇には自然と穏やかな微笑が浮かんだ。
私は招待状をそっと、大切に胸元に押さえつけた。
「ヴァルト」
「はい、カレン様」
すぐにヴァルトが控えめに、しかし確かな声で応答する。
「この招待、受諾いたします。ヴァリス・エテルニタスへ向かう準備をしてください」
指示を受け取ったヴァルトは「承知いたしました」と一言述べ、音もなくその場を去った。
「参加するのか、カレン」
サファイアの問いかけに、私は迷いなく大きく頷いた。
「ええ、もちろんです。これは、今までの修行の成果を試す、最高の機会ですから」
そう言って、私は遥か遠い、今どこに居るかも分からない先生の姿を心に浮かべて、中庭の上空を見上げた。
先生が直接見ていなくても構わない。
でも、この『エテルナの審判』という祭典の頂点で優勝すれば、きっと――きっと、先生も私の力を、その研鑽を認めてくれるはずだ。
淡く、しかし切実な願いを胸に抱きながら、私は手の中にある格式高い招待状を、そっとくしゃりと握りしめたのだった。



