「ブラッドと初めて出会った頃のお前は、剣なんて知らない、ただの普通のお嬢様だった。それが今や、『氷結の魔道士』や『氷の女神の加護を受けし少女』なんて呼ばれている。その称号が、お前の重荷になっているんじゃないかと思ったんだ」
「……っ」
サファイアの言葉は、私の心を正確に射抜いた。
それは、ラスールで魔剣を奪われ、牢獄にいたとき、テトが私に問いかけてきたこととまったく同じだった。
誰にも気づかれることはないと思っていた、私の心の奥に秘めた思い。それにテトは気づいてくれた。
そして、目の前にいるサファイアも。
それから、誰よりも早く気づいてくれていた人――ロキも。
「サファイアの言う通りです。以前の私は、与えられた使命を果たし、与えられた称号にふさわしくなり、目標とされた存在にならなければならないと思っていました」
私はそう言いながら、手に握ったタオルをさらに強く握りしめた。
「そうだな。じゃあ、それになれなかったらどうするつもりだったんだ?」
サファイアの問いに、私は言葉を詰まらせた。
「……なれなかったら、居場所なんてどこにもないと思っていました。誰にも認められなければ、それは、私が存在しないのと同じことだと。そう考えていたんです」
「馬鹿だな、お前は」
サファイアは、少し呆れたような、それでいてどこか優しい声でそう言った。
「カレン。お前の存在は、誰かに認められることで初めて成り立つものなのか?」
「……それは」
私は俯き、言葉を探した。けれど、何も見つからなかった。
そんな私に、サファイアは静かに続けた。
「誰かに与えられた称号や役目を果たすために、お前は生きているのか? お前はカレンだ。それだけで十分じゃないか」
その言葉を聞いて、私はロキに言われたことを思い出した。
『確かにお前は俺にとって目標であって、すごいやつなんだ! でも、それは魔剣サファイアに選ばれたからでも、氷結の魔道士だからでも、氷の女神の加護を受けし少女だからでもない。何者でもない、『ただのカレン』だからなんだよ!』
あのときのロキの言葉と、目の前のサファイアの言葉が重なった瞬間、私は泣きそうになり、苦笑した。
「……私の一族は、代々『能力ある者』であることを求められてきました。能力のない者は一族から追放され、その存在そのものがなかったことにされます。私も初めは、いない者として扱われていました。女だったから、子孫を残すための道具として、かろうじて存在を許されていたんです」
サファイアの瞳に、怒りの色が宿るのがはっきりと分かった。
けれど、そんな彼女に、私はかすかに微笑みかけた。
「いいんです、サファイア。今思えば、どうして私の一族には身内同士の婚姻が多かったのか、その理由も分かる気がするんです。王族の血を守るために必要なことだったのでしょう。今は、そう思えるようになりましたから」
「……だからといって、お前がそれに縛られる必要なんてないんだ。今のお前は自由だ。いや、最初から自由なんだ。何をしようと、お前の自由だ。誰にも止める権利なんてない」
その言葉に、私は軽く目を見張った。
けれど、すぐに優しく目を細めた。
「でも、サファイア。私は、そのおかげであなたに出会えました。それは私にとって、ただの出会いではなく、本当に嬉しい出会いだったんです。何も持っていなかった私が、初めて自分の存在を求め、認めてくれる人に出会えた。あの日、先生と出会って、私はそう思ったんです」
私の脳裏に、先生と出会った日の光景が鮮やかによみがえる。
それは、先生自身によって忘れ去られてしまった、私にとって大切な出会いの記憶だった。
「……っ」
サファイアの言葉は、私の心を正確に射抜いた。
それは、ラスールで魔剣を奪われ、牢獄にいたとき、テトが私に問いかけてきたこととまったく同じだった。
誰にも気づかれることはないと思っていた、私の心の奥に秘めた思い。それにテトは気づいてくれた。
そして、目の前にいるサファイアも。
それから、誰よりも早く気づいてくれていた人――ロキも。
「サファイアの言う通りです。以前の私は、与えられた使命を果たし、与えられた称号にふさわしくなり、目標とされた存在にならなければならないと思っていました」
私はそう言いながら、手に握ったタオルをさらに強く握りしめた。
「そうだな。じゃあ、それになれなかったらどうするつもりだったんだ?」
サファイアの問いに、私は言葉を詰まらせた。
「……なれなかったら、居場所なんてどこにもないと思っていました。誰にも認められなければ、それは、私が存在しないのと同じことだと。そう考えていたんです」
「馬鹿だな、お前は」
サファイアは、少し呆れたような、それでいてどこか優しい声でそう言った。
「カレン。お前の存在は、誰かに認められることで初めて成り立つものなのか?」
「……それは」
私は俯き、言葉を探した。けれど、何も見つからなかった。
そんな私に、サファイアは静かに続けた。
「誰かに与えられた称号や役目を果たすために、お前は生きているのか? お前はカレンだ。それだけで十分じゃないか」
その言葉を聞いて、私はロキに言われたことを思い出した。
『確かにお前は俺にとって目標であって、すごいやつなんだ! でも、それは魔剣サファイアに選ばれたからでも、氷結の魔道士だからでも、氷の女神の加護を受けし少女だからでもない。何者でもない、『ただのカレン』だからなんだよ!』
あのときのロキの言葉と、目の前のサファイアの言葉が重なった瞬間、私は泣きそうになり、苦笑した。
「……私の一族は、代々『能力ある者』であることを求められてきました。能力のない者は一族から追放され、その存在そのものがなかったことにされます。私も初めは、いない者として扱われていました。女だったから、子孫を残すための道具として、かろうじて存在を許されていたんです」
サファイアの瞳に、怒りの色が宿るのがはっきりと分かった。
けれど、そんな彼女に、私はかすかに微笑みかけた。
「いいんです、サファイア。今思えば、どうして私の一族には身内同士の婚姻が多かったのか、その理由も分かる気がするんです。王族の血を守るために必要なことだったのでしょう。今は、そう思えるようになりましたから」
「……だからといって、お前がそれに縛られる必要なんてないんだ。今のお前は自由だ。いや、最初から自由なんだ。何をしようと、お前の自由だ。誰にも止める権利なんてない」
その言葉に、私は軽く目を見張った。
けれど、すぐに優しく目を細めた。
「でも、サファイア。私は、そのおかげであなたに出会えました。それは私にとって、ただの出会いではなく、本当に嬉しい出会いだったんです。何も持っていなかった私が、初めて自分の存在を求め、認めてくれる人に出会えた。あの日、先生と出会って、私はそう思ったんです」
私の脳裏に、先生と出会った日の光景が鮮やかによみがえる。
それは、先生自身によって忘れ去られてしまった、私にとって大切な出会いの記憶だった。



