☆ ☆ ☆
ソフィアちゃんが部屋を出ていくのを見送ったわたくしは、静かに息を吐き、窓の外へと視線を向けた。
「ごめんなさい……ソフィアちゃん」
小さく呟き、両の拳を固く握りしめる。
心の奥で疼く後悔と罪悪感が、息が詰まるほど重くのしかかっていた。
『話さなくてよかったのか?』
その声が耳に届いた瞬間、わたくしの胸が小さく跳ねた。
懐かしい声。そして、覚えのある気配。
こみ上げる涙をぐっとこらえ、わたくしは振り返った。
「そこに、いらしたのですね……リヴァイ」
名を呼ぶと、ふわりと小さな風が巻き起こった。
次の瞬間、わたくしの目の前に姿を現したのは、半透明の身体を持つ彼――かつて魔人族を率いた王、リヴァイバルだった。
ソフィアちゃんと同じ、瑞々しい新緑を思わせる翡翠色の髪。ゆっくりと見開かれた赤い瞳が、わたくしをじっと見つめている。
首元を覆うスカーフに口元は隠されていたけれど、彼が何を思っているのかは分かった。
その瞳には、深い悲しみと、それでもなお、わたくしを案じる温かさが宿っていた。
わたくしは彼のもとへ、一歩、また一歩とゆっくり歩み寄った。
そして、震える右手をそっと差し出す。
すると、リヴァイもまた右手を上げ、静かにわたくしの手に重ねてくれた。
温もりはない。
実体を持たない彼の手に、わたくしの手は触れることさえできない。固く握りしめることも、その存在を確かめることもできない。
それでも――わたくしは、確かにそこにリヴァイがいるのだと感じていた。
「リヴァイ……あなたに、会いたかった」
そう呟いた途端、堰を切ったように涙があふれ、頬を伝い落ちていった。
魔人族が滅びたこと。
エレノアちゃんが亡くなってしまったこと。
そして、一人取り残されてしまったソフィアちゃんのこと。
伝えたいことは山ほどある。それなのに、何ひとつ言葉にならなかった。
悲しみと悔しさに耐えきれず、わたくしはぎゅっと両目を閉じた。
『エル……泣くな。お前のせいじゃない』
「リヴァイ……でも、わたくしはあなたとの約束を……守ることができませんでした」
『……そんなことない、エル』
リヴァイはそう言うと、わずかに目元を細めた。
そして、半透明の腕をわたくしへと伸ばし、優しく抱きしめてくれた。
『俺たちがこうなることを望んだんだ。他の誰でもない、俺たち自身が。そのことは、エレノアだって分かっている』
「それは……」
リヴァイの言う通りだった。
魔人族が滅びることを選んだのは、他の誰でもない、彼ら自身だった。
あの時――彼らは、もはや正気を保ってはいなかった。
黒い粒子によって自我を支配された彼らは、人間族に滅ぼされる道を選んだのだ。
けれど、その真実をソフィアちゃんに伝えることは、わたくしにはできなかった。
そして、彼らが選んだ道は本当に正しかったのか。
今のわたくしには、その答えさえ分からなかった。
「リヴァイ……わたくしたちが選んだ道は、正しかったのでしょうか?」
答えを求めるように、わたくしは彼に尋ねた。
『……エル。エレノアは、自分が選んだ道に迷ったりはしなかったぞ』
その言葉に、わたくしはハッと息を呑んだ。
伏せていた顔を上げ、リヴァイの赤い瞳を見つめる。
ソフィアちゃんが部屋を出ていくのを見送ったわたくしは、静かに息を吐き、窓の外へと視線を向けた。
「ごめんなさい……ソフィアちゃん」
小さく呟き、両の拳を固く握りしめる。
心の奥で疼く後悔と罪悪感が、息が詰まるほど重くのしかかっていた。
『話さなくてよかったのか?』
その声が耳に届いた瞬間、わたくしの胸が小さく跳ねた。
懐かしい声。そして、覚えのある気配。
こみ上げる涙をぐっとこらえ、わたくしは振り返った。
「そこに、いらしたのですね……リヴァイ」
名を呼ぶと、ふわりと小さな風が巻き起こった。
次の瞬間、わたくしの目の前に姿を現したのは、半透明の身体を持つ彼――かつて魔人族を率いた王、リヴァイバルだった。
ソフィアちゃんと同じ、瑞々しい新緑を思わせる翡翠色の髪。ゆっくりと見開かれた赤い瞳が、わたくしをじっと見つめている。
首元を覆うスカーフに口元は隠されていたけれど、彼が何を思っているのかは分かった。
その瞳には、深い悲しみと、それでもなお、わたくしを案じる温かさが宿っていた。
わたくしは彼のもとへ、一歩、また一歩とゆっくり歩み寄った。
そして、震える右手をそっと差し出す。
すると、リヴァイもまた右手を上げ、静かにわたくしの手に重ねてくれた。
温もりはない。
実体を持たない彼の手に、わたくしの手は触れることさえできない。固く握りしめることも、その存在を確かめることもできない。
それでも――わたくしは、確かにそこにリヴァイがいるのだと感じていた。
「リヴァイ……あなたに、会いたかった」
そう呟いた途端、堰を切ったように涙があふれ、頬を伝い落ちていった。
魔人族が滅びたこと。
エレノアちゃんが亡くなってしまったこと。
そして、一人取り残されてしまったソフィアちゃんのこと。
伝えたいことは山ほどある。それなのに、何ひとつ言葉にならなかった。
悲しみと悔しさに耐えきれず、わたくしはぎゅっと両目を閉じた。
『エル……泣くな。お前のせいじゃない』
「リヴァイ……でも、わたくしはあなたとの約束を……守ることができませんでした」
『……そんなことない、エル』
リヴァイはそう言うと、わずかに目元を細めた。
そして、半透明の腕をわたくしへと伸ばし、優しく抱きしめてくれた。
『俺たちがこうなることを望んだんだ。他の誰でもない、俺たち自身が。そのことは、エレノアだって分かっている』
「それは……」
リヴァイの言う通りだった。
魔人族が滅びることを選んだのは、他の誰でもない、彼ら自身だった。
あの時――彼らは、もはや正気を保ってはいなかった。
黒い粒子によって自我を支配された彼らは、人間族に滅ぼされる道を選んだのだ。
けれど、その真実をソフィアちゃんに伝えることは、わたくしにはできなかった。
そして、彼らが選んだ道は本当に正しかったのか。
今のわたくしには、その答えさえ分からなかった。
「リヴァイ……わたくしたちが選んだ道は、正しかったのでしょうか?」
答えを求めるように、わたくしは彼に尋ねた。
『……エル。エレノアは、自分が選んだ道に迷ったりはしなかったぞ』
その言葉に、わたくしはハッと息を呑んだ。
伏せていた顔を上げ、リヴァイの赤い瞳を見つめる。



