お互いに感情を落ち着かせてから、私はずっと心に引っかかっていたことをエクレールさんに尋ねた。
「あの、エクレールさん。私のお母様のエレノアさんは、どんな方だったんですか?」
この質問は、私にとって母を知るための最初の一歩だった。
不安と期待が入り混じる私の問いかけに、エクレールさんは私の顔をじっと見つめた。その瞳には優しい光が宿り、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「ソフィアちゃんのお顔は、エレノアちゃんによく似ております。そうですね……エレノアちゃんは、魔人族たちの中で誰よりも、わたくしたち人間族のことを愛し、共に生きることを強く望んでいました」
「人間族と共に生きる……」
「ええ。それが、エレノアちゃんの幼い頃からの夢だったのです。そして、いつか必ず実現できると信じていた。リヴァイは、エレノアちゃんの願いを直接口にはされなかったけれど、ご自身が生きている間に、なんとかしてあげたいと思っていました」
「でも、魔人族は……」
私はその先の言葉を飲み込んだ。
魔法書に記されていた歴史では、魔人族は人間族に滅ぼされたとされている。
人間族を滅ぼそうとした魔人族たちを止めるために、人間族たちはやむなく彼らを滅ぼしたのだと。まるで悪を根絶やしにし、世界を平和に導いた英雄譚のように綴られている。
当時の私は、なんて身勝手で傲慢な種族だろうと思った。自分たちを特別な存在だと信じ、その力で他種族を滅ぼそうとし、この世界の王として君臨しようとした。
それが魔人族であり、その統率者である魔人王だと、魔法書はどこもかしこもそう語っていたから。
「……えぇ。魔人族は、人間族によって滅ぼされてしまいました。しかし……本当は……」
エクレールさんは静かにそう呟くと、ぎゅっと目を閉じてから、ゆっくりと大きな深呼吸をした。
そして、まるで深い悲しみを押し込めるように、口を開いた。
「今日のお話は、ここまでにしましょう」
「え?」
エクレールさんはそう言うと、座っていたソファーからゆっくりと立ち上がった。
「明日は、ソフィアちゃんが通っているという魔法学校へ行かれるのでしょう? 今日はもう遅いですし、このお話の続きはまた改めていたしましょう」
「は、はい……」
私もソファーから立ち上がって、エクレールさんに頭を下げた。
「あの! エクレールさん、魔人族やリヴァイバルさん、そして私のお母様のことを教えてくれて、本当にありがとうございました」
私がそう言うと、エクレールさんは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「いいえ。こちらこそ、ソフィアちゃんにお伝えすることができて良かったです」
それから私は、エクレールさんに『おやすみなさい』と告げてから、背後を振り返らずに部屋を出て自室へと向かった。
そして、夜が明けた。
「あの時のエクレールさんは……」
エクレールさんは私に母のことを話すのを、少し躊躇っているように感じた。
もしかしたら、何かを隠しているのかもしれない。そんな疑念が、私の心に小さな棘のように刺さっていた。
「どうしたの? そんな顔して」
すると、私の右肩に使い魔のテトがひょいと乗ってきた。
首元には赤いリボンが巻かれ、その中心には使い魔の証であるブローチが揺れている。テトは甘えるように、私の頬に柔らかく頭を擦り寄せた。
「早く行かないと、学校に遅刻するわよ」
「うん……ねぇ、テト。エクレールさんの話を聞いてどう思った?」
あの場にテトの姿はなかったが、彼女は絶対私たちの会話を聞いていたはずだ。
その小さな身体で、何を考えていたのだろう。
私の問いかけに、テトは大きく伸びをして見せた。
「あの、エクレールさん。私のお母様のエレノアさんは、どんな方だったんですか?」
この質問は、私にとって母を知るための最初の一歩だった。
不安と期待が入り混じる私の問いかけに、エクレールさんは私の顔をじっと見つめた。その瞳には優しい光が宿り、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「ソフィアちゃんのお顔は、エレノアちゃんによく似ております。そうですね……エレノアちゃんは、魔人族たちの中で誰よりも、わたくしたち人間族のことを愛し、共に生きることを強く望んでいました」
「人間族と共に生きる……」
「ええ。それが、エレノアちゃんの幼い頃からの夢だったのです。そして、いつか必ず実現できると信じていた。リヴァイは、エレノアちゃんの願いを直接口にはされなかったけれど、ご自身が生きている間に、なんとかしてあげたいと思っていました」
「でも、魔人族は……」
私はその先の言葉を飲み込んだ。
魔法書に記されていた歴史では、魔人族は人間族に滅ぼされたとされている。
人間族を滅ぼそうとした魔人族たちを止めるために、人間族たちはやむなく彼らを滅ぼしたのだと。まるで悪を根絶やしにし、世界を平和に導いた英雄譚のように綴られている。
当時の私は、なんて身勝手で傲慢な種族だろうと思った。自分たちを特別な存在だと信じ、その力で他種族を滅ぼそうとし、この世界の王として君臨しようとした。
それが魔人族であり、その統率者である魔人王だと、魔法書はどこもかしこもそう語っていたから。
「……えぇ。魔人族は、人間族によって滅ぼされてしまいました。しかし……本当は……」
エクレールさんは静かにそう呟くと、ぎゅっと目を閉じてから、ゆっくりと大きな深呼吸をした。
そして、まるで深い悲しみを押し込めるように、口を開いた。
「今日のお話は、ここまでにしましょう」
「え?」
エクレールさんはそう言うと、座っていたソファーからゆっくりと立ち上がった。
「明日は、ソフィアちゃんが通っているという魔法学校へ行かれるのでしょう? 今日はもう遅いですし、このお話の続きはまた改めていたしましょう」
「は、はい……」
私もソファーから立ち上がって、エクレールさんに頭を下げた。
「あの! エクレールさん、魔人族やリヴァイバルさん、そして私のお母様のことを教えてくれて、本当にありがとうございました」
私がそう言うと、エクレールさんは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「いいえ。こちらこそ、ソフィアちゃんにお伝えすることができて良かったです」
それから私は、エクレールさんに『おやすみなさい』と告げてから、背後を振り返らずに部屋を出て自室へと向かった。
そして、夜が明けた。
「あの時のエクレールさんは……」
エクレールさんは私に母のことを話すのを、少し躊躇っているように感じた。
もしかしたら、何かを隠しているのかもしれない。そんな疑念が、私の心に小さな棘のように刺さっていた。
「どうしたの? そんな顔して」
すると、私の右肩に使い魔のテトがひょいと乗ってきた。
首元には赤いリボンが巻かれ、その中心には使い魔の証であるブローチが揺れている。テトは甘えるように、私の頬に柔らかく頭を擦り寄せた。
「早く行かないと、学校に遅刻するわよ」
「うん……ねぇ、テト。エクレールさんの話を聞いてどう思った?」
あの場にテトの姿はなかったが、彼女は絶対私たちの会話を聞いていたはずだ。
その小さな身体で、何を考えていたのだろう。
私の問いかけに、テトは大きく伸びをして見せた。



