​エクレールさんは辛そうに表情を歪めた。

ザハラからは、魔人王と光の巫女と呼ばれていたエクレールさんは、互いに手を取り合い助け合ったと聞いた。エクレールさんがリヴァイバルさんから信頼を勝ち取ることは、容易ではなかったはずだ。

「あのエクレールさんは、どうやってリヴァイバルさんからの信頼を勝ち取ったんですか?」

​エクレールさんは私の問いに、にっこり笑って見せた。そして、しなやかな手に力を入れて拳を作ると、その拳をそっと胸元に当て、

​「愛、ですわ」

​と答えた。

​「え、愛……?」

​私は目を点にしたまま、思わず同じ言葉を繰り返した。その瞬間、私の頭の中では、エクレールさんがその拳でリヴァイバルさんを殴り倒す想像が浮かんでいた。

「まさか、物理的な愛で?」

​「あら、ご冗談を」

​エクレールさんは、私の考えを見透かしたかのように、可笑しそうに笑った。

​「確かに、わたくしは少し力が強い方ですが、愛する人に暴力を振るうような野蛮な真似はしません。ただ……手当をするときに、言うことを聞かずに暴れていた彼の額を叩いた……程度です」

​それを『殴った』と言うのでは? と内心でそう疑問を抱いたけど、これは言わない方がいいだろうと思った私はその言葉を飲み込んだ。

​「では、どうやって……?」

​私が再び尋ねると、エクレールさんは少し遠い目をして、話を続けた。

​「わたくしは、ただひたすらに、彼が傷を負うたびに手当てをし、彼が休んでいる間は警戒を怠らず、彼の食事を準備し、魔人族の隠れ家が見つからないように周囲を探索しました。彼は何度も『帰れ』と言いましたし、『お前を信じない』と冷たい言葉を投げかけましたが、わたくしは彼のそばに居続けました」

​「……ただ、そばに居続けた、だけ」

​「そうです。やがて彼は、わたくしのその行動が、打算や策略からくるものではないと理解してくれるようになりました」

​エクレールさんの言葉は、優しく、そして力強かった。血も涙もなく冷徹で、無慈悲な王と言われた魔人王が、そんな純粋な愛によって心を開いたという話が、私の胸に深く響いた。

「しかし……」

エクレールさんはそう言うと、窓の外を見つめた。