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お披露目会の数日後、出雲家は分家の者が継いでいくことに決まったと聞いた。両親と牡丹はそれぞれ隔離された施設で過ごしているという。牡丹に呼び笛を渡した役人については、恭介が行方を追っているところだ。
また、那智家が宗像家の傘下に入る、という話だったが、勝手がわからないということで、話し合いの結果、熊野家が預かることになった。壱与が、鍛え直してやるのじゃ、と張り切っている。
「昴様、あのときは止めてくださったのに、白い花を使ってしまって、申し訳ありませんでした」
六花は、改めて八咫烏に対抗したときのことを謝罪した。あの状況で牡丹を助けるためにはああするしかなかった。けれど、昴の想いを踏みにじったのも事実だ。
「いや、こちらこそ、守ると言ったくせに、間に合わなかった」
「間に合わせてくださいましたよ?」
「六花さんに白い花を攻撃に使わせてしまったことが、そもそも間に合っていないんだ。だが、あのときは俺たち護り人の刀が通らなくてどうしようもなかった。だから」
昴は一度言葉を切って、深々と頭を下げた。
「俺たちを守ってくれて、ありがとう。六花さん」
かつて無能と呼ばれた六花が、誰かを守ることができた。それはきっと誇っていい。
とはいえ、目の前の課題が一つ。
「治癒の神力のもう一つの力のこと、知られてしまった対策を考えないといけませんよね」
「そのことなんだが、恭介に確認したところ、朝廷側はその情報を掴んでいないらしいんだ」
「え、でも、あのとき」
「急に現れた白い花に気を取られた、八咫烏の隙をついて、俺が足を『三本とも』落としたことになっているらしい」
そもそも、結界が壊れた混乱で八咫烏の足のことなんて、はっきり見えていた者はいないのだという。目の前にいた牡丹以外は。だが、牡丹は六花に助けられたことを話しはしないだろうし、重罪人の言葉を信じる朝廷の者はいない。
「ということは」
「一旦、この件は問題ないということで片付けていいだろう」
「良かったです……」
思わず顔が緩んだ六花の頬を、昴の手がすっぽりと包み込む。
「もう、危険な真似はしないでくれ。頼む」
「はい。申し訳ありませんでした」
昴は六花の頬から手を離すと、こちらに手のひらを向けてきた。六花はどうしたのだろうと思いつつ、自分の手を重ねてみた。
「そうではなくて、いや、躊躇いなく触れてくれるのは嬉しいが、扇を一度俺に渡してくれないか」
「あっ、はい……!」
勘違いをしていたことが恥ずかしくて、それに加えてお披露目会が終わったら言葉にする、と言われていたことも思い出して、二重で恥ずかしい。六花は無言のまま、昴に扇を渡した。
「六花さん、手を出して」
言われるがまま、六花は手を差し出した。てっきり扇がぽんと置かれると思っていたのに、手を掬い取られて、手の甲に昴の唇が落とされた。
「す、昴様!?」
「こういう伝え方もあると聞いてな。嫌だったか」
「嫌じゃ、ないですけど……驚いてしまって」
絶対に今の六花の顔は赤くなっているのに、片手を昴に取られているから顔が隠しきれなくて恥ずかしい。
「では、改めて」
昴は六花の手にあの扇をそっと置いた。
「俺は、六花さんに婚約者候補ではなく、正式に婚約者なってほしいと思っている。この先も、俺の隣にいてほしい」
まっすぐで飾らない昴の想いが、六花の心にそのまま届く。隣にいたいと願ったのは、六花も同じことだ。それを望んでいいと。なんて、幸せなことだろうか。
「わたしも、一緒にいたいです。よろしくお願いします……!」
笑顔で答えた六花を、昴は力強く抱きしめてくれた。六花も、その大きな背中に手を回して、絶対に離れないとぎゅっと力を込めた。
六花の白い花は、特別な幸せを運んできてくれた。
お披露目会の数日後、出雲家は分家の者が継いでいくことに決まったと聞いた。両親と牡丹はそれぞれ隔離された施設で過ごしているという。牡丹に呼び笛を渡した役人については、恭介が行方を追っているところだ。
また、那智家が宗像家の傘下に入る、という話だったが、勝手がわからないということで、話し合いの結果、熊野家が預かることになった。壱与が、鍛え直してやるのじゃ、と張り切っている。
「昴様、あのときは止めてくださったのに、白い花を使ってしまって、申し訳ありませんでした」
六花は、改めて八咫烏に対抗したときのことを謝罪した。あの状況で牡丹を助けるためにはああするしかなかった。けれど、昴の想いを踏みにじったのも事実だ。
「いや、こちらこそ、守ると言ったくせに、間に合わなかった」
「間に合わせてくださいましたよ?」
「六花さんに白い花を攻撃に使わせてしまったことが、そもそも間に合っていないんだ。だが、あのときは俺たち護り人の刀が通らなくてどうしようもなかった。だから」
昴は一度言葉を切って、深々と頭を下げた。
「俺たちを守ってくれて、ありがとう。六花さん」
かつて無能と呼ばれた六花が、誰かを守ることができた。それはきっと誇っていい。
とはいえ、目の前の課題が一つ。
「治癒の神力のもう一つの力のこと、知られてしまった対策を考えないといけませんよね」
「そのことなんだが、恭介に確認したところ、朝廷側はその情報を掴んでいないらしいんだ」
「え、でも、あのとき」
「急に現れた白い花に気を取られた、八咫烏の隙をついて、俺が足を『三本とも』落としたことになっているらしい」
そもそも、結界が壊れた混乱で八咫烏の足のことなんて、はっきり見えていた者はいないのだという。目の前にいた牡丹以外は。だが、牡丹は六花に助けられたことを話しはしないだろうし、重罪人の言葉を信じる朝廷の者はいない。
「ということは」
「一旦、この件は問題ないということで片付けていいだろう」
「良かったです……」
思わず顔が緩んだ六花の頬を、昴の手がすっぽりと包み込む。
「もう、危険な真似はしないでくれ。頼む」
「はい。申し訳ありませんでした」
昴は六花の頬から手を離すと、こちらに手のひらを向けてきた。六花はどうしたのだろうと思いつつ、自分の手を重ねてみた。
「そうではなくて、いや、躊躇いなく触れてくれるのは嬉しいが、扇を一度俺に渡してくれないか」
「あっ、はい……!」
勘違いをしていたことが恥ずかしくて、それに加えてお披露目会が終わったら言葉にする、と言われていたことも思い出して、二重で恥ずかしい。六花は無言のまま、昴に扇を渡した。
「六花さん、手を出して」
言われるがまま、六花は手を差し出した。てっきり扇がぽんと置かれると思っていたのに、手を掬い取られて、手の甲に昴の唇が落とされた。
「す、昴様!?」
「こういう伝え方もあると聞いてな。嫌だったか」
「嫌じゃ、ないですけど……驚いてしまって」
絶対に今の六花の顔は赤くなっているのに、片手を昴に取られているから顔が隠しきれなくて恥ずかしい。
「では、改めて」
昴は六花の手にあの扇をそっと置いた。
「俺は、六花さんに婚約者候補ではなく、正式に婚約者なってほしいと思っている。この先も、俺の隣にいてほしい」
まっすぐで飾らない昴の想いが、六花の心にそのまま届く。隣にいたいと願ったのは、六花も同じことだ。それを望んでいいと。なんて、幸せなことだろうか。
「わたしも、一緒にいたいです。よろしくお願いします……!」
笑顔で答えた六花を、昴は力強く抱きしめてくれた。六花も、その大きな背中に手を回して、絶対に離れないとぎゅっと力を込めた。
六花の白い花は、特別な幸せを運んできてくれた。
