六花が試着を終えて、仕立て直しの調整を待っている間。昴はそちらの部屋には聞こえないようにして、恭介に話しかけた。
「少し前、六花さんの妹に会ったんだが、想像よりも悪質だった。早く引き剝がしたい。出雲家のことを調べると言っていた件はどうだ」
「ひどい話はごろごろと。ただ、全部家の中での出来事だからね。証言に期待はできない」

 昴はぐっと奥歯を噛みしめる。確かに妹は六花にひどい言葉を浴びせたときも、周囲には悟らせないように振る舞っていた。憎らしいほどに。

「六花さんが焼かれた髪についても調べると言っていただろう」
「解析中だよ。糾弾の材料の一つにはなると思う、けど」
「それだけでは難しい、か」
「そういうこと」
 六花への侮辱、昴への侮辱を取り上げてもいいが、夜叉なんてあちこちで言われていることだ。材料にすらならない。

「今のところは宗像家には関わってきていないだろう? しばらくは放っておけばいいよ」
「いや、それでは六花さんが安心できない」
 恭介がぽかんとした顔をしてこちらを見ていた。今の流れでどこに驚く要素があったのか、見当がつかないのだが。

「昴、お前ここまでの会話、宗像家のためじゃなくて、六花さんのため、で話していたのか」
 恭介にそう言われて、確かにそうだと頷いた。するとさらに驚かれた。

「そうか。申し訳なさで連れ出したと思っていたけど、いや、実際はじまりはそうだけど。でも、ちゃんと大切な人になっているんだね。感心感心」
「いや、これは恩人として、当然のことだろう」
「本当に?」
 間髪入れずにそう聞かれて、昴は思わず言葉に詰まった。

「恩人なら、誰にでもここまでするか? ――いや、言い方を変える。もしも彼女を迎え入れたいという誰かが出てきたら、送り出すか?」
「それは……」

「情報官としては治癒の神力は興味深い、僕の婚約者候補にスライドしてもいい」
「は?」
 恭介の予想外の言葉に、思わず低い声が出た。無意識に足を前に踏み込んでいた。

「顔が怖いって。もしも、の話だって前提を忘れていないか」
「すまない」
 さすがに申し訳なくなり、素直に頭を下げた。恭介は、昴の肩にぽんぽんと手を置き、真剣な表情になって言った。

「大切にしたいなら、絶対に手を離すなよ。実家でのことがあって、彼女は危うい」
「ああ」
「調べは進めているから、待っていてくれ。独断で動くなよ」

 店員から、こちらの方も試着を、と声をかけられて、二人は話を切り上げてカーテンの奥に進む。この後、恭介の笑い声が店内に響くことになる。