壱与は、舞を終えた六花に最初の講義室に行っているようにと伝えた。

「これは……いかがなものかのう」

 見つめる先には、黒い靄が消えている疑似物の怪。六花が舞う音楽を流す際に、他の生徒と同じように疑似物の怪のスイッチを入れていた。武器での攻撃はしないのだから、作動させる必要はなかったのだが、流れでつい入れてしまっていた。攻撃をしかけてきたりはしないものだから、と放っておいていた。

 そう、放っておいたはずなのだ。それがこうして黒い靄が消えている。六花は武器に神力を宿していないし、疑似物の怪への攻撃ももちろんしていない。

「まさか」

 壱与は六花の舞の最中、その膨大な白い花のいくつかが、疑似物の怪のほうまで飛んでいくのを、目の端で捉えていた。白い花が乗った後、疑似物の怪が霧散したように見えた。その時は、見間違いだと思って気にしていなかったのだ。

「言わぬべきかのう。いや、知らせぬままのほうが危険か……。ひとまず、坊やには報告しておくかのう」
 壱与は結局、恭介にだけ報告して様子を見ることとした。

 六花の白い花は人の怪我の治癒だけでなく、『白い花が直接的に物の怪に対しての攻撃』になり得るかもしれない、と。