――人間になった理由を、青空くんに尋ねた。
 それは、私たちが一年間、揺るぎなく神様に気持ちを伝え続けたご褒美。
 誕生日という節目に、この世に戻された、ということらしい。

 私たちは、神社のベンチに座り、静寂に包まれている夜空を見上げていた。

「ねぇ、青空くん」
「ん?」
「どうして再会の日が今日なの? 一年前は、花火大会より少し前だったよね」

 人差し指を顎に当て、記憶を絞り出す。
 けれど、戻ってきたのは、花火大会の今日?

 だとしたら、少しだけタイムラグがある。
 もし早く戻ってきたなら、もっと早く会いに来てくれてもいいくらい。
 
 頭の中は曇り空に覆われ、自然と口が閉じた。

「うん、そうだよ」

 青空くんは月光を浴びて、平然とした目で答えた。
 私の複雑な気持ちなど、計算に入れていない様子だ。
 ふわりと夜風が通り、草木の香りを運んでくる。
  
「じゃあ、どうして今日なの?」

 首を傾げる私に、青空くんは少し照れたように、ふっと笑った。
 
「だって、美心の顔を、この目でゆっくり見たかったから」
「え……。たった、それだけ……」

 思わず息が止まる。
 胸の奥が高鳴り、膝に置いていた花柄巾着が床に滑り落ちた。 
 
「うん。ダメだった?」
 
 ――青空くんは、優しい仮面をかぶった小悪魔だ。

 どこで覚えてきたかわからない意地悪さに、くすっと笑った。
 最初はスマホすら知らなかったくせに。

「ダメだったよ」
「じゃあ、これからはずっと美心の傍にいる。約束するよ」

 彼はそう言い、そっと唇を重ねた。
  
 これからは、人間として自分の気持ちを一番に大事にしてほしいと思う。
 もう、一人じゃない。
 
 私は彼の肩にそっと頭を乗せて、一緒に月光を浴びた。
 虫の音が小さなファンファーレのように響き、夜風が二人の頬を撫でていく。