――翌日。青い空に浮かんでいる太陽が、僕の心をより輝かせていた。
 美心との約束の一時間前。
 人の流れに乗り、街の騒音に包まれていた。

「美心の誕生日プレゼント、なににしようかなぁ」

 目先に雑貨店があったので、店内に入った。
 中央の陳列棚に見えたのは、ネックレスコーナー。
 服の中から取り出したネックレスを、じっと見つめる。

「似たようなネックレスにしようかな。女の子だからハート形がいいよね」

 僕の鈴に似たようなものはない。
 神社近くの雑貨屋で売ってた気がするから、行ってみようかな。
 美心が喜ぶ顔を思うと嬉しかった。

 約束場所に近い、いつもの神社方面へ向かった。
 雑貨屋に到着。個性的な鈴がぎっしり並んでいた。

「お兄ちゃん、鈴を探してるの?」

 ひげが生えたいかつい中年男性が、僕の前に立つ。
 
「ハート型の赤い鈴を探していて」
「あるよ。うちは同じ模様が一つもないから、よく見てから決めるといい」

 僕は大量の鈴の中から、ハート型の赤い鈴を拾い上げて、レジへ向かった。
 腕時計を見ると、約束の時間まであと十分。 
 少し早いかな、と思いながら店外へ。
 

 信号の前で足を止めると、向こう側に美心の姿が見えた。
 彼女も楽しみにしてくれていると思ったら、胸が弾んだ。
 
 信号で彼女が気づき、手を振りながら渡ってくる。 
 だが、その瞬間、トラックが迫る。

 僕の心臓はドクンと響いた。
 「美心!!」と叫ぶ。
 彼女は気づく様子もなく、こっちへ向かってくる。
 

 すかさず彼女の体を押して、歩道へ飛び出した。
 だが、急ブレーキの音ともに体が車体にぶつかり、地面に叩きつけられ、思わず息が止まった。
 

 辺りは騒然としていた。
 僕の鼓動が頭に響くほど。

 生ぬるい風が、撫でるように体を痛めつけている。
 クラクションや、叫び声も、次々と耳に入ってくるようになった。
  
「う、そ…………」

 彼女はかすれた声で呟く。 
 僕へ駆け寄り、太陽の日差しを遮りながら、ゆっくりと顔を覗かせた。

「青空くん……。私の声、聞こえる」

 声に反応して、僕はお腹から声を振り絞った。
 タイヤの焦げる香りが漂ってくる。
 
「うぅっ……うん、聞こえるよ……。美心は、大丈夫だった? ケガ、してない……?」

 見る限り平気そうだ。
 ほっとして、目を細めた。
 車の扉が開く音が、耳に届く。
 
「わ、私は……大丈夫……。そ、それより、いいい……いま、救急車……呼んでくる」

 彼女の顔は真っ青だった。 
 動揺しているせいか、全身が震えている。
 手を握ってあげたかったけど……できない。
 
 トラックの男性運転手が駆け寄ってきた。
 彼女は「はっ、早く救急車を!」と涙ながら訴えている。

 男性は電話をかけ、彼女は揺れたままの手で、僕の手を握りしめた。
 冷たく震えている手。
 でも、温めてあげることができない。

 美心の瞳は、涙で埋め尽くされていた。
 もう二度と、泣かせないと思っていたのに。
 こんなはずじゃ、なかった。
 
 僕は呼吸が乱れ、目が霞んでいく。

「美心が、無事で……よか……った」

 呟き終えると同時に、意識が遠退いた。
 震えていた指先は、地面に落ちる。
 
「青空くんっ! いやぁぁああ!!」

 美心の声が、騒然としている現場に響き渡った。

 でも、僕はホッとしていた。
 美心の体が無事だったから。

 映画の約束、守れなくて、ごめん。
 目一杯おしゃれしてくれていたのにね。

「お願い……。誰か、青空くんを助けて……」
 
 美心の温もりだけがかすかに残っていた。
 指先に残る感触を、忘れたくない……。