夏空で、君と輝く



 ――夜二十一時過ぎ。
 間接照明の影が、私の暗い心を静かに浮かび上がらせている。
 静寂に包まれた部屋に、深いため息が一つ零れ、心の中が渦を巻いた。

 青空くんが、私に気がないことを知ってから、心に鉛が乗ったような気分になった。
 私はベッドに置いてあるスマホを取って、佐知に電話をかける。

「佐知……。ごめん。いま電話、いい?」
『大丈夫だよ。なにかあった?』

 暗い声だったせいか、佐知の心配そうな声がスピーカーから届く。

「青空くん、私のこと、怒ってないかなぁ」

 彼のことを考えていたら、自然と声が震えて、息が乱れた。
 今日も丸一日、彼のことばかり考えている。
 
『どうして?』
「俵さんとの会話を聞いて、勝手に怒って、酷い態度を取っちゃったし」

 映画のチケットを渡せば、「一緒に行こう」って快く言ってくれるような気がしていた。
 でも、それは自分の思い上がり。
 私のことを何とも思ってないなんて、聞きたくなかった。
 一瞬だけでも期待していた分だけ、虚しくなるばかり。

『そんなことないよ。美心がいなくなってから、青空くん動揺してたし。きっと、俵さんに本音を隠したかったんじゃない?』

 佐知はなだめようとしてくれているけど、あの時のことを思い出すだけで、胸がきゅっと締めつけられた。
 
「わからない。……でもね、間接的に聞かされて、余計にショックだった」

 窓の外から聞こえてきたクラクションが、暗い気持ちをより追い込んでくる。
 
「思い上がってたのかもしれない。青空くんは、いつも優しかったから」

 あの優しさが当たり前だと思っていた。
 だから、きっと甘えてたんだと思う。

『美心は青空くんのこと、本気で好きなんだね』

 その言葉を聞いた瞬間、目をハッと見開いた。
 想像以上に胸に響いている。
 
「最初はなんでつきまとうのか疑問だった。でも、気づいたら、好きになっていた……」

 一番近くで笑顔を見たいし、そのあたたかい手に触れたい。
 私だけを見ていてほしかった。
 
『じゃあ、もう少し頑張ってみようか』

 胸がドキッとした。
 ここ数日、諦めかかっていたせいかもしれない。
 
『この言葉、実は青空くんがあたしに言ってくれたの。美心とケンカしていた時にね』
「青空くんが、そんなことを……」

 安心する部屋の香りに包まれ、ため息とともに少し心が軽くなった。
 
『逃げちゃダメ。熱意を伝え続ければ、きっと届く。……あたしみたいにね。青空くんは美心に笑顔になって欲しいんだから』 

 ベッドから立ち上がり、チェストの上にあるクゥちゃん写真立ての前に立った。
 優しい瞳が、頑張れと言っているかのように、私を見つめている。 
 その瞬間、青空くんの笑顔がふっと浮かんだ。
 
 いつしか忘れていた。
 私が笑顔になることを、彼が一番に願っていた。
 なのにここ数日間、笑っていない。
 
 きっと、青空くんはこんな私を望んでいない。
 なのに、私は嫌な態度を取ってしまった。
 早く謝らなくちゃ……。
 
 明日、必ず笑顔で向き合う。
 絶対に仲直りしなくちゃ。

 電話を切ると、部屋は再び静寂に包まれた。
 間接照明の柔らかな光が、涙で曇った心をそっと照らしている。