夏空で、君と輝く



 ――四時間目の体育の授業中。
 僕のクラスは、男女それぞれ別のコートに分かれて、練習試合をしていた。
 ボールが響く音に加えて、それぞれの声援が体育館内を賑やかせている。
 
 僕がサーブの番に。
 息を吸い込み、ボールを頭上に投げ、狙いを定め、スパイクを打ち込んだ。
 スパイクが相手コートへ飛ぶと、体育館は静まり返り、拍手が湧き起こった。
 
 選手交代になり、ステージ前に置いていたタオルを取りに行く。
 女子二人組が僕の前にやって来た。

「高槻くんって、バレー部なの?」
「すっごい上手だったよ!」

 黄色い声を浴びると、急に照れ臭くなって、頭をかいた。
 仲間からの褒め言葉とは違うから。
 
「ありがとう。部活を始めてから二週間くらいだけどね」

 笑顔で答えていると、後ろから賢ちゃんが肩を組んできた。

「こいつさ、飲み込みが早いんだよな〜」
「大げさだって。みんなが丁寧に教えてくれるおかげだよ」

 初日はボールすら取れなかったのに、いまはみんなから喜んでもらえるほど成長していた。
  
「高槻くん、バシッってレシーブ決めた時は、最高にかっこよかったよ!」

 女子たちがきゃあきゃあ騒いでると、賢ちゃんは目を輝かせ、周りを見渡した。
 その足で、コート中央に向かっていく。
  
「よかったら、みんなバレー部に入ってー!! 部員大募集中! 男子も女子も大歓迎!」

 手を叩きながら、ここぞとばかりに大きな声で宣伝した。
 体育教師が気づき、眉山を尖らせながら賢ちゃんの元へ。

「足利ぁ〜!! 授業中に部活の宣伝するんじゃない。授業が終わってからやりなさい」
「はぁ〜い」

 賢ちゃんはふてくされながら返事をすると、体育館はドッと笑いに包まれた。
 一緒に笑っていると、視界の外から誰かがこっちに走ってくる。
 「青空くん!」とかけてきた声は、僕の前で止まった。――柳井くんだ。

「青空くん、さっきのスパイク、マジで最高だったよ! 相手の選手もビビってたし」
「ありがとう」

 僕は照れくさい気持ちになる。

「俺さ、授業でしかバレーをやったことないんだけど、一度練習を見に行ってもいいかな」

 驚いた目で、柳井くんを見た。
 彼の瞳の奥は、薄い光が帯びている。
 
「えっ! 来てくれるの?」
「うん……。運動系って興味がなかったんだけど、青空くんのすごいスパイクを見たら、興味が湧いたよ」

 チラシの手応えは薄かったけれど、柳井くんの言葉に、努力が報われた気がした。

「ありがとう。もしよければ、午後の練習見に来ない?」

 期待を込めた瞳を向けると、柳井くんは目をぱっと輝かせた。
  
「えっ! いいの?」
「うん! 体操着を持ってきてくれれば、練習も参加できるからね」

 ほっとしていると、賢ちゃんが「柳井、待ってたよ〜」と言い、彼の肩を組んで、バレー部勧誘の話をしながら離れていった。

 その背中を見て、今日までの努力が実を結んだことを知り、ほっと一息ついた。
 視界の隅から、美心がボールを持ったまま、こっちへやって来た。
 僕は穏やかな目を向ける。
 
「良かったね。部員が増えそうで」
「うん。まさか授業中に興味を持ってもらえるなんて思わなかったよ」
「たしかに! でも青空くん、本当にかっこよかった。スパイクを決めた時は、特にね」

 美心は照れくさそうに口を結ぶと、僕は思わず頬が緩んだ。
 努力が伝わったように見えたから。

「青空くんの頑張りが、みんなに届いたね」
「だと、いいな。美心も気にかけてくれてありがとう」
「そっ、そんな……。私なんて、なにもできてないし」

 美心は頬を赤くし、目線を落とした。
 そんなところが、僕の胸の奥を刺激してくる。――恋、なのかな。
 
「美心が、『頑張ってね!』って言ってくれたでしょ。それだけで十分力になったよ」
 
 コート内から「青空ー!」と手招きで呼ばれた。
 目を向けると、みんながコート内でスタンバイしている。
 
 「いま行くー」と答え、彼女の頭をポンポンと叩き、彼女の笑顔を胸に刻んだまま、コートへ向かった。
 手のひらに残る温もりが、僕を穏やかな気持ちにさせてくる。
 振り向きざまにニコリと微笑み、拳に力を込め、コートに飛び込んだ。