――朝、僕と賢ちゃんは、校舎に繋がる通路で、バレー部勧誘のチラシを配っていた。
 焼き付く日差しと、蒸し暑い熱風。
 体にまとわる汗が気力を奪う。

「おい、大丈夫かよ。ちゃんと水分補給してる?」

 賢ちゃんの声にハッとして、額の汗をぬぐう。

「ありがとう。賢ちゃんも無理しないでね」

 その瞬間、美心が小走りで近づいてきた。

「おはよう! お二人さん! 朝から大変だね」
「あ、美心。おはよー」
「うっす! 今日は早いな」

 最近日焼けをしてきた僕たちとは対照的に、彼女は肌が白い。
 その笑顔に、少し心が軽くなる。
 
「部員、まだ集まらないの?」

 美心の目線はチラシへ向く。

「一人見学に来てくれたんだけど、呼びかけが足りないのかも」
「ほとんどの奴が素通り。興味ねぇんだろうな」

 賢ちゃんは、手元のチラシを見つめながら溜息をつく。
 
「そっかぁ。部員、早く集まるといいね。応援してる」

 そのひとことが、少しだけ救いになる。

 
 ――五分後。
 バレー部の堤先輩が、校門から駆け寄ってきた。

「おは! 何してんの?」
「あっ、堤先輩! おはよーっす」
「どうしても市の大会にエントリーしたいから、今月中にメンバーを集めたくて」

 堤先輩の目線がチラシに落ちる。

「どうして僕に声をかけてくれなかったの?」
「……切り出しにくいというか。先輩、朝自主練で疲れているだろうと思って」

 僕は先輩と同じメニューをこなしているから、声なんてかけれない。

「チラシ配りなら、僕に相談しろよ。こう見えても部長候補、だからさ」

 堤先輩の笑顔に、僕と賢ちゃんの緊張が少しほどける。

「堤先輩、マジっすか?」
「だって、せっかく大会に出るなら勝ちたいじゃん!」
「さっすが、次期部長! 俺も頑張るっす!」

 賢ちゃんはチラシを持って、生徒の前に向かった。
 僕は、胸の奥で、美心の「応援してる」がまだ響いていた。
 
 試合に出れなくても、ここに立つ意味がある。
 一分一秒が、部の未来の光になる。

 チラシを握り、僕は大きく息を吸った。

「今日も全力でいこう!」
「おう!」
「やったるで!」

 三人はそれぞれ分かれて、チラシ配りを始めた。
 校門を抜ける声が響き、チラシが風にはためいた。

 ――僕たちの声が、未来に届くように。