――同日の夜。私は自宅の部屋で、チェスト上のクゥちゃんの写真を眺めていた。
 灯り一つの部屋は、沈む心を静かに映していた。

 佐知と話さなきゃいけないことくらい、わかってる。
 でも、絶対に言い訳をされる。
 
 けれど、今日の瞳の奥には、何か強い思いが宿っていた。
 訴えたい何かが、焼き付いたように離れない。
 楽しい時間も、なぜか色褪せる。

「私が落ち込んでたら、クゥちゃんも悲しくなっちゃうよね」

 代わり映えしない写真に、ふぅとため息をつく。
 クゥちゃんがいた頃は、丸一日の出来事を話していたのに、いまは話しかけることも、思い出すことも減っている。

 私が思い続けなければ、クゥちゃんは消えてしまう。
 クゥちゃんをなくしたのは私なのに、私って酷いよね。

「ねぇ、クゥちゃん……。これは強くなれる飴なんだって。青空くんが教えてくれたものなんだよ」
 
 私は学校帰りに買ってきたブドウ飴を、クゥちゃんの写真の横に添えた。一日でも早く戻ってきますように。
 まずは、私が強くならなければいけない。

 カーテンの隙間から、車のライトの光が差し込んだ。
 それを軽く浴び、ブドウ飴をもう一つ手にとって、ベッドに転がって楽しい時間の思い出に浸る。
 光を宿したブドウ飴が、青空くんの笑顔と重なって見えた。

 最近、学校がすごく楽しい。
 青空くんが友達になってから、賢ちゃんとも友達になった。
 明日が待ちきれないと思うようになったのは、きっと初めての青春をしているから。
 
 でも、佐知の姿が、みんなの笑い声をかき消す。
 
 ……私はこのままで、いいのかな。
 佐知が声をかけてくる回数が増えた。
 仲直りしたいって。

 ううん。私が引く要素なんて一つもない。
 ノートの切れ端を捨てた時点で、関係は終わった。
 佐知が何度話しかけても、受け入れられない。

 ブドウ飴を握りしめ、枕に顔を埋めた。
 こんなに冷たく反発しているのに、佐知が諦めようとしてくれないから、胸が押しつぶされそう。
 息苦しく感じるのは、あの日がまたここに戻ってきたみたいで。