――三日後。私と青空くんと賢ちゃんは、学校の近くのボーリング場へ行った。
館内は、ボールがピンに当たる衝撃音が鳴り響いている。
受付後、私たちは専用シューズを持って、指定されたレーンへ向かった。
高齢者や子ども連れの家族。
視界の隅に、同じ制服を着ている学生がちらりと見えた。
私は初めて見るボーリングの光景に、胸がドキドキする。
「……私、ボーリング初めてなんだ」
笑われる覚悟を決めて言った。
隣から「同じく!」と青空くんが言ったので、ほっとする。
「二人とも初心者かぁ」
「賢ちゃん、ボールの投げ方を教えてね」
キラキラとした期待の目が二つ並ぶと、賢ちゃんは腕を組んでフンッと鼻を鳴らした。
「よし! 俺がおまえらをプロボウラーにしてみせるぜ」
「賢ちゃん、ボーリング得意なの?」
尊敬の眼差しで聞くと、賢ちゃんは笑顔で頭を下げた。
「さーせんっ! 四、五回目です!」
「あはは。もっとやってるかと思った」
賢ちゃんは、相変わらず人を和ませるのが上手だ。
第一投目は、賢ちゃん。
ボールを投げると、レーンの左側へ向かい、溝に滑っていった。
「最初からガーターかよ……」
賢ちゃんが残されたピンを見つめたまま、顔をしかめる。
「ねぇ、賢ちゃん。それ、何点になるの?」
青空くんは真顔で聞いた。
私はそれが可笑しくて、プッとふいた。
ボケに加担するために、手を添えながら賢ちゃんに聞こえるように呟く。
「しっ……。あれは0点だよ」
「つまり、点数にならないやつ?」
ヒソヒソ話していると、賢ちゃんは足音を立てて青空くんの前へ来た。
「もう一投チャンスがある! 俺はそれに賭けるぜ」
「え、まだあるの?」
青空くんの目はきょとんとしている。
私はこの温度差に我慢できなくて、お腹を抱えて笑った。
「見てろよぉ〜〜。このプロボウラー賢を……!」
賢ちゃんは戻ってきたボールを磨いて、二投目を投げた。
ピンが三本倒れると、賢ちゃんはブツブツ言いながら戻ってくる。
最初は男友達なんて……と思っていたけど、考えていたより全然楽しい。
二人が盛り上げてくれるから、度々笑い声を上げながらボールを投げていた。
視界の端に、何となく同じ制服の影がちらりと見える。
でも、確認するほどでもない。
一ゲームが終わると、私たちは食い入るように画面のスコアを見た。
賢ちゃんは画面に指をさす。
「ビリは美心、か……。じゃあ、罰ゲームね」
「えぇ〜、そんなぁ」
残念な結果に、ガクッと肩を落とす。
「青空は、初めての割に点数取れてるじゃん」
「え! 本当?! 褒めてくれてるの?」
「ま、まぁ……、そういうことにしておくよ。しっかし、美心はマジでヘタクソだなぁ」
賢ちゃんはスコアを見つめたままケタケタと笑う。
私はムスッと口を尖らせた。
「これでも一生懸命やったのに」
「女子にはボールがちょっと重いのかもしれないね」
青空くんは、そう言ってふっと微笑んだ。
賢ちゃんとは大違い。
「青空は優しいね。ほら、美心は早く三人分ジュース買ってきて」
「しょうがない。次は絶対に勝つからね!」
ムスッとしながら小銭を回収し、一人で自販機に向かった。
三本のドリンクを胸に抱えると、ひんやりとした感触に、興奮の熱が少しずつ溶けていく。
友達って、楽しい。
こんな風に笑い合える友達ができるなんて、信じられない。
席へ戻る途中、同じ制服を着ている女子生徒が視界に入った――佐知だ。
佐知は目を大きく見開いた。
「み、美心。こんなところで、会うなんて……」
震えた声で、口元に手を当てる。
私は激しい心拍が上がり、息苦しくなった。
さっと視線を反らし、踵を返す。
「ま、待って! あたしの話を聞いて欲しいの!」
佐知の必死な声が、稲妻のように背中に刺さった。
胸の中のモヤが体中に広がり、足が止まる。
「美心に伝えなきゃいけないことがあるの!」
いまさら、なによ……。
私たちは、もう他人なのに。
ドリンクの冷たさで指先が冷たくなっていき、わずかに震えた。
「たった一度でいいから、耳を傾けて欲しい。あの日のこと、ちゃんと話し合わないと」
早く離れたい。
でも、なぜか鉛が乗ったようで、体が動けない。
「話したく、ない……。もう、二度と話しかけてこないで」
声を低く絞り出した。
あの時、廊下に落ちていた紙のざらついた感触が、今でも忘れられない。
心臓が高鳴り、呼吸が荒くなっていく。
「でも、あたしまだ……」
彼女は一歩前に出た。
なによ……、裏切ったくせに。
佐知だから、本音を伝えていこうって決めたのに。
私は拳を握り、言葉を振り切るかのように席に戻った。
小さなテーブルに、三本のドリンクをドンッと置く。
「ごめん。急用ができたから、先に帰るね」
青空くんと賢ちゃんの顔を見る余裕がない。
荷物を鷲掴みして、ボーリング場を出た。
通行人がちらほらと歩いている歩道に、私の足音は吸い込まれていった。
途中、足が止まりそうになった。
でも、振り返ったら佐知がいる。
関わってしまったら、また傷つく。
もう、二度とあんな事件には巻き込まれたくない。



