――三日後。私と青空くんと賢ちゃんは、学校の近くのボーリング場へ行った。
館内は、ボールがピンに当たる音が鳴り響いている。
受付後、専用シューズを持って、指定されたレーンへ向かった。
高齢者や子ども連れの家族。
視界の隅に、同じ制服を着ている学生がちらりと見えた。
私は初めて見るボーリングの光景に、胸をドキドキさせていた。
「……私、ボーリング初めてなんだ」
笑われる覚悟を決めて口を結んだ。
隣から「同じく!」と青空くんが言ったので、ほっとした。
「二人とも初心者かぁ」
「賢ちゃん、ボールの投げ方を教えてね」
キラキラとした期待の目が二つ並ぶと、賢ちゃんは腕を組んでフンッと鼻を鳴らした。
「よし! 三十分後におまえらをプロボウラーにしてみせるぜ」
「賢ちゃん、ボーリング得意なの?」
尊敬の眼差しで聞くと、賢ちゃんは笑顔で頭を下げた。
「さーせんっ! 四、五回目です!」
「あはは。もっとやってるかと思った」
賢ちゃんは、相変わらず人を和ませるのが上手だ。
第一投目は、賢ちゃん。
ボールを投げると、レーンの左側へ向かい、溝に滑っていった。
「最初からガーターかよ……」
賢ちゃんが残されたピンを見つめたまま悔しがる。
「ねぇ、賢ちゃん。それ、何点になるの?」
青空くんは真顔で言い、私はそれが可笑しくてプッとふいた。
ボケに加担するために、手を添えながら賢ちゃんに聞こえるように呟く。
「しっ……。あれは0点だよ」
「つまり、点数にならないやつ?」
私に目線を滑らせて言うと、賢ちゃんは足音を立てて青空くんの前へ来た。
「もう一投チャンスがある! 俺はそれに賭けるぜ」
「え、まだあるの?」
青空くんはきょとんとしながら答える。
「見てろよぉ〜〜。このプロボウラー賢を」
賢ちゃんは戻ってきたボールを磨いて、二投目を投げた。
ピンが三本倒れると、賢ちゃんはブツブツ言いながら戻ってくる。
最初は男友達なんて……と思っていたけど、思ったより楽しいかもしれない。
私は青空くんと賢ちゃんのやり取りに夢中で、笑い声を上げながらボールを投げていた。
ただ、視界の端に、何となく同じ制服の影がちらりとあった気がする程度。
でも、誰だかはよくわからない。
一ゲームが終わると、私たちは画面のスコアを見た。
賢ちゃんは画面に指を添える。
「えっと、ビリは美心か……。じゃあ、罰ゲームね」
「えぇ〜、そんなぁ」
残念な結果に、深い溜息をついた。
「青空は、初めての割に点数取れてるじゃん」
「え! 本当?! 褒めてくれてるの?」
「ま、まぁ、そういうことにしておくよ。しかし、美心はマジでヘタクソだなぁ。早く三人分ジュース買ってきて」
「も〜、しょうがない。次は絶対に勝つからね!」
私はムスッとし、みんなから小銭を回収し、自販機へ向かった。
三本のドリンクを胸に抱えると、ひんやりとした感触が楽しかった気持ちをそっと包んでくれる。
こんな風に笑い合える友達がいるって、少し信じられない気持ちだった。
席へ戻る途中、同じ制服を着ている女子生徒が視界に入った。
見上げると、その人は佐知。目を大きく見開いていて、私と目線が合う。
「み、美心。こんなところで、会うなんて……」
佐知は震えた声で口元に手を当てる。
私はさっと視線を反らして踵を返した。
心拍が上がる。
「ま、待って! あたしの話を聞いて欲しいの!」
佐知の必死な声に、胸の中のモヤが広がり、足が止まった。
「美心に伝えなきゃいけないことがあるの」
いまさら、なによ……。
「たった一度でいいから、耳を傾けて欲しい」
なぜか体に鉛が乗ったように、動けない。
「話したく、ない……。もう、二度と話しかけてこないで」
低く絞り出した声に、心臓が高鳴り、呼吸が荒くなる。
目線を落とし、拳を握りしめた。
「でも、あたしまだ……」
彼女は一歩前に出たが、私は言葉を振り切るかのように、止めていた足を進め、席に戻った。
テーブルの上にドリンクを置き、荷物を鷲掴みにする。
「先に帰るね」と言って、ボーリング場を出た。
楽しかった余韻と、胸のざわつきが同時に押し寄せて、足が止まりそうになった。
でも、振り返られない。



