新生活の準備で忙しい日々を送っていたら、あっという間に3月のカレンダーも一番下の段に突入した。入学準備のため、私は駒場キャンパスを訪れている。今日は新入生諸手続きの日だ。
井の頭線の駒場東大駅を降りると、すぐに正門が見える。左手にはもう桜が七分咲きくらいになっていて、記念に写真を撮っておく。東京はやっぱり暖かいみたいだ。桜前線がたどり着くのも早い。
安田講堂ほど大きくはない左右対称の建物は、1号館という名前がついているらしい。その入り口に新入生の長蛇の列ができている。学部生たちは案内に忙しそうだ。いかにも新年度が始まるという忙しなさ、騒がしさ。
「桜咲いてたよ」と写真と共にお母さんにメッセージを送る。「やっぱ東京はあったかいよ」
少し前に始まった一人暮らしは結構寂しい。でも、憧れの大学生感が満載で意外と楽しんでいたりもする。
——ああ、私、東大生になるんだ。
ブーッとスマホが振動する。めずらしく、翠ちゃんからのメッセージのようだ。
『今日、諸手続きだったよね? こっちは浪人でめちゃくちゃきついけど、絶対負けないから。あんたは絶対に進振りで医進しなさいよ』
相変わらず、偉そうだな。
「わかってるって。早く来なよ、待ってんだから——」
苦笑しながら、こう呟く。小さな声は、スカイブルーに溶けて消えていった。地元まで届くだろうか。
私も頑張るよ。絶対医進したいから。
緑が映える銀杏並木を歩き、これからの大学生活に思いを馳せる。東大の学食は高くてあまり美味しくないらしい。クラス制度があって、高校生のときと同じようにクラスメイトと授業を受けたり、行動を共にしたりするらしい。——なんだそれ。
一年ズレた私たちは、同じクラスになることはないけど。それでも、来年はきっと隣で、一緒に。
振り返ってみると私の青春は、やっぱり間違いなく青くて、それでいてどこまでも熱かった。
【完】
井の頭線の駒場東大駅を降りると、すぐに正門が見える。左手にはもう桜が七分咲きくらいになっていて、記念に写真を撮っておく。東京はやっぱり暖かいみたいだ。桜前線がたどり着くのも早い。
安田講堂ほど大きくはない左右対称の建物は、1号館という名前がついているらしい。その入り口に新入生の長蛇の列ができている。学部生たちは案内に忙しそうだ。いかにも新年度が始まるという忙しなさ、騒がしさ。
「桜咲いてたよ」と写真と共にお母さんにメッセージを送る。「やっぱ東京はあったかいよ」
少し前に始まった一人暮らしは結構寂しい。でも、憧れの大学生感が満載で意外と楽しんでいたりもする。
——ああ、私、東大生になるんだ。
ブーッとスマホが振動する。めずらしく、翠ちゃんからのメッセージのようだ。
『今日、諸手続きだったよね? こっちは浪人でめちゃくちゃきついけど、絶対負けないから。あんたは絶対に進振りで医進しなさいよ』
相変わらず、偉そうだな。
「わかってるって。早く来なよ、待ってんだから——」
苦笑しながら、こう呟く。小さな声は、スカイブルーに溶けて消えていった。地元まで届くだろうか。
私も頑張るよ。絶対医進したいから。
緑が映える銀杏並木を歩き、これからの大学生活に思いを馳せる。東大の学食は高くてあまり美味しくないらしい。クラス制度があって、高校生のときと同じようにクラスメイトと授業を受けたり、行動を共にしたりするらしい。——なんだそれ。
一年ズレた私たちは、同じクラスになることはないけど。それでも、来年はきっと隣で、一緒に。
振り返ってみると私の青春は、やっぱり間違いなく青くて、それでいてどこまでも熱かった。
【完】



