「顔、上げろよ」
 強く閉じていた目を開き、顔を上げる。すると目の前に、小さな光が舞っていた。

「……ホタル、飛んでる」
「仲間であるお前に見せつけているんだよ。次はお前の番だって」
「飛べないよ……。私なんか」
 他責思考の、私なんか。

「こうゆう仕事してると、会うんだよ。お前のような女。そして口を揃えて言う。自分が悪かった……って。そんなわけ、ねーだろ! いいか? 自制の効かない男なんて、ただのノミだ。そんなのに噛まれて、痛いと泣くのか? 自分のせいだと嘆くのか? さっさと薬塗って治しちまえよ!」
 ぶっきらぼうで、優しさなんて見えないのに。私に手を差し伸べてくれる、温かなものだった。

「……飛べるかな?」
「飛べるに決まってんだろ? 蛍は強いから、飛べる」
 私の瞳を真っ直ぐに見つめ、力強く返してくれる。


『え? 付き合ってたんだよね?』
『アパート行ったんでしょ?』
『っていうか、二十歳だよね? 未成年じゃあるまいし』
 普段関わりがなかった写真サークルの女性先輩達が、彼を避ける理由を聞いてきた。彼に頼まれたと。
 付き合いのことを勝手に言ってはいけない。
 分かっていたけど、あの時の私は抑えられなくて。その気持ちを、辛さを、ただ感情のまま話して。
 その時、返された言葉だった。

 ──私が、悪かったんだ。
 五年間、心に氷の刃となって刺さっていた。
 だから、髪を伸ばせなくなった。女性らしい服を着れなくなった。
「隙のあるお前が悪い」と、否定されるのが怖くて。

 あの日のことは勿論苦しいけど、その後に告げられたことの方が苦しかったのかもしれない。
 味方だと信じていた同性に思い切って打ち明けて、笑って否定されたことの方が。

 だけど今、ようやく消え去ってくれた。彼の温もりによって。