「残念ですわぁ。お姉様を見捨てた後も、やっぱり私のことは見てくださらない。そんな人、もう要らないわ」
白百合の呟きとともに、部屋中に赤いしぶきが飛び散る。椿の顔もしぶきを浴びた。
(……血?)
目の前に立っていた母の姿はない。
「おかあ、様?」
椿には何が起きたのか分からなかった。
ただ、そこには赤く染まった白百合がいるだけだ。椿が助けを求めるように白百合を見つめると、彼女は眉を下げた。
「可哀想なお姉様。お母様からひどい仕打ちを受けていたでしょう? でも、もう大丈夫。私がお母様を消し去りましたから!」
「お母様、し、んだの?」
「えぇ。同族の魂は食べられませんから、魂ごと消えていただきました」
「どうして?」
椿の言葉に白百合は微笑んだ。その可憐な笑みは、椿の視線をくぎ付けにした。
「だってお母様、私のことを全然構ってくださらないもの。いつもいつもお姉様のことばかり。お父様が死んでから、ずっとそうだったでしょう? 『次期当主は椿だから』って。いつもそればかり。……私のことは愛してくれない」
地を這うような低い声に椿の身体が凍り付く。
白百合はゆっくりと椿に近づくと、目の前でしゃがみ込んだ。
そこに、かつての妹はいない。
人も鬼も残虐に殺す化け物がいるだけだった。
「ひぃっ……!」
「ねえお姉様。私はね、お姉様のことは好きよ。お母様がどんなに私を無視しても、お姉様だけは私をまっすぐに見てくれた。だから、助けてあげます」
「ど、どういうこと?」
椿の声は震えて、今にも泣き出してしまいそうな声だった。
白百合は椿をあやすように、そっと手を握る。そのまま手をさすられると、じわりと全身から汗が噴き出した。
「お姉様ったら、鬼なのに人を喰らえずに困っているでしょう? だから……この角、もう捨ててしまいましょうね」
白百合が椿の頭に手を伸ばす。
そして止める間もなくポキンという音が響き渡った。
「あぁ、お姉様。やっぱり角がない方がいいわ。とても人間らしいもの」
「し、白百合? 私の角を……」
白百合の手には椿の白く美しい角が握られている。
椿が震える手で頭に触れると、そこにあったはずの角がない。
白百合は角を椿に投げてよこした。
震える手でそれを掴むと、紛れもなく椿自身の角だった。
「そんなに驚かないで。鬼でいるのは苦しかったでしょう? 人を喰らうのが嫌なのでしょう? でも、もう大丈夫です。これで人として生きられますよ」
白百合が笑いながら椿に手をかざすと、椿の身体がふわりと浮いた。
鬼の力だ。
椿は身を固くした。
「このまま人里へ送ってあげる。お別れするのは悲しいですが……お姉様の幸せを願っていますわ。あぁ、お返しはいずれ受け取りに行きますから。待っててくださいね」
その声とともに椿はあっという間に竜巻に飲み込まれた。
「お姉様。願いを叶えた白百合のこと、愛してくれますよね? 困ったことがあったら白百合のこと、絶対に呼んでくださいね」
脳に白百合の甘い声が響き渡る。
ギュッと目を閉じて角を握りしめると、全身を打ち付けるような痛みが走った。
そうして気がつくと、椿は見知らぬ人里に倒れ込んでいた。
白百合の呟きとともに、部屋中に赤いしぶきが飛び散る。椿の顔もしぶきを浴びた。
(……血?)
目の前に立っていた母の姿はない。
「おかあ、様?」
椿には何が起きたのか分からなかった。
ただ、そこには赤く染まった白百合がいるだけだ。椿が助けを求めるように白百合を見つめると、彼女は眉を下げた。
「可哀想なお姉様。お母様からひどい仕打ちを受けていたでしょう? でも、もう大丈夫。私がお母様を消し去りましたから!」
「お母様、し、んだの?」
「えぇ。同族の魂は食べられませんから、魂ごと消えていただきました」
「どうして?」
椿の言葉に白百合は微笑んだ。その可憐な笑みは、椿の視線をくぎ付けにした。
「だってお母様、私のことを全然構ってくださらないもの。いつもいつもお姉様のことばかり。お父様が死んでから、ずっとそうだったでしょう? 『次期当主は椿だから』って。いつもそればかり。……私のことは愛してくれない」
地を這うような低い声に椿の身体が凍り付く。
白百合はゆっくりと椿に近づくと、目の前でしゃがみ込んだ。
そこに、かつての妹はいない。
人も鬼も残虐に殺す化け物がいるだけだった。
「ひぃっ……!」
「ねえお姉様。私はね、お姉様のことは好きよ。お母様がどんなに私を無視しても、お姉様だけは私をまっすぐに見てくれた。だから、助けてあげます」
「ど、どういうこと?」
椿の声は震えて、今にも泣き出してしまいそうな声だった。
白百合は椿をあやすように、そっと手を握る。そのまま手をさすられると、じわりと全身から汗が噴き出した。
「お姉様ったら、鬼なのに人を喰らえずに困っているでしょう? だから……この角、もう捨ててしまいましょうね」
白百合が椿の頭に手を伸ばす。
そして止める間もなくポキンという音が響き渡った。
「あぁ、お姉様。やっぱり角がない方がいいわ。とても人間らしいもの」
「し、白百合? 私の角を……」
白百合の手には椿の白く美しい角が握られている。
椿が震える手で頭に触れると、そこにあったはずの角がない。
白百合は角を椿に投げてよこした。
震える手でそれを掴むと、紛れもなく椿自身の角だった。
「そんなに驚かないで。鬼でいるのは苦しかったでしょう? 人を喰らうのが嫌なのでしょう? でも、もう大丈夫です。これで人として生きられますよ」
白百合が笑いながら椿に手をかざすと、椿の身体がふわりと浮いた。
鬼の力だ。
椿は身を固くした。
「このまま人里へ送ってあげる。お別れするのは悲しいですが……お姉様の幸せを願っていますわ。あぁ、お返しはいずれ受け取りに行きますから。待っててくださいね」
その声とともに椿はあっという間に竜巻に飲み込まれた。
「お姉様。願いを叶えた白百合のこと、愛してくれますよね? 困ったことがあったら白百合のこと、絶対に呼んでくださいね」
脳に白百合の甘い声が響き渡る。
ギュッと目を閉じて角を握りしめると、全身を打ち付けるような痛みが走った。
そうして気がつくと、椿は見知らぬ人里に倒れ込んでいた。



