白き角を持つ少女は、鬼祓いに死を乞う

 母はそんな椿を諦めきれなかったのだろう。
 修行と称して崖下に突き落としたり、池に沈めたり。なんとか鬼の力だけでも取り戻そうと躍起になっていた。

 その一環で今日も鞭で散々叩かれて、椿は気絶していたのだ。
 しかし、今日は母の様子が少し違っていた。いつもなら修行が失敗に終わると小言を吐いて椿を放置するのに、今日は気を失たった後も、そばにいたのだ。
 母は静かに椿を見つめていたが、小さくため息をついた。

「人も喰らわぬ。鬼の力も弱い。今のお前は何の価値もない。お前には天ヶ谷家当主の器がない。……縁を切るわ。もうどこへでも行きなさい」
「お母様……?」

 母は本気の目をしている。本当に縁を切るつもりだろう。
 椿がその事実を静かに受け入れようとした瞬間、部屋の襖が開かれた。


「お母様、お姉様をどうするおつもりですか?」

 甘ったるい声が部屋に響く。椿の妹、白百合(しらゆり)が微笑みを浮かべて立っていた。
 白百合はどこかで人を喰らったばかりなのだろう。月の光のように白い肌に、鮮やかな血が頬紅のようについている。まつ毛の奥からのぞく銀色の瞳は、夜空の星のように煌めいていた。

 彼女の名である『百合』は、人にとっては毒らしい。少女のように可憐な姿で人々を惹きつけ、毒で制する。白百合は、まさにその名にふさわしい容姿をしていた。

「縁を切る、とか聞こえましたけど?」

 白百合は、こてんと首を傾げながら椿と母を交互に眺める。
 母は面倒くさそうに彼女へ視線を向けた。

「白百合には関係ないことよ。椿と縁を切る。それだけのこと」
「あらぁ。では、私が次期当主になるのですか?」
「どうかしら」

 母の素っ気ない言葉に白百合の笑みが深くなる。

(白百合は、私なんかより当主に向いているものね。たくさん人を喰らうし、力も強い)

 妹の白百合は、椿と正反対の性格をしていた。
 角が生えたその日には、若い男を三人も喰らったのだという。可愛らしく他人の庇護欲を掻き立てる容姿を存分に使い、近づいた者を惑わして喰らう。まさに理想の鬼だ。

 けれども母は白百合のことを見向きもしなかった。
 彼女を次期当主に据えれば丸く収まるのに、代々長子が後を継ぐという伝統を崩したくなかったのかもしれない。

(でも私が天ヶ谷でなくなれば、白百合が次期当主になれる。彼女ならきっとここ一帯の鬼を統べることが出来るわ)

 自分なんかより天ヶ谷家のためになるはずだ。母もいずれ白百合を認めるだろう。
 椿は自分が天ヶ谷家から離縁されるのが理想的に思えた。

(最初から、私が家を出れば良かったわね)

 椿がぼんやりとそう考えていた、その時。