その日以降、街から毎夜のように若い男が消えていった。そして男が消えた場所には、必ず血に濡れた百合の花が落ちていた。
街の人々は恐怖で震えあがり、刹那は何日も明け方まで鬼を捜索している。
刹那が持ち帰ってくる百合の花を見るたびに、白百合の声が聞こえてくるかのようだった。
『お姉様』
『白百合は寂しいわ』
『私は妹よ。忘れてないわよね?』
百合の花がそう訴えてくる。
椿は毎夜頭を抱えながら、いなくなった人たちの無事を祈ることしか出来なかった。
(一人喰らえば、しばらく力は持続する。そんなに何人も一気に喰らったりしない……はず。まだ生きているかもしれない。どうか……)
その上、椿は別の問題も抱えていた。
角が少しずつ伸び続けいていたのだ。ただ不思議なことに、角が伸びても刹那を喰らいたいという衝動は全くない。
人を喰らわなくても平気になったのは角を失ったせいだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
(だからといって、人々にはそんなこと関係ないわよね。角があれば鬼なのだから……)
髪の毛で隠すにも限界が近い。
それに最近、刹那に頭をじっと見られている気がする。
「せ、刹那様、どうかしましたか?」
「うん? いいや、何でもない」
このやりとりを何度しただろう。
椿は刹那と話すたびに心臓が張り裂けそうだった。
(こんな生活は、長くは続かないわ……)
そしてある晩、夢を見た。
川を挟んだ向こう岸に、白百合が立って微笑んでいる夢だ。
『お姉様、贈り物は気に入ってくれたかしら? 黒い百合って、とっても素敵でしょう?』
『でもお姉様ったら、白百合のこと全然呼んでくれないのね』
『寂しいわ。呼ばれたらすぐに駆けつけるつもりでしたのに……』
『だから、私から会いに来てあげたのよ。うふふっ』
「うぅ……。はぁっ! 夢……?」
とてつもない息苦しさに目を覚ますと、首に違和感を覚えた。
恐る恐る鏡で確認してみると、縄で締め付けられたかのような痕がついている。
それに、角がもう一目で分かるほど伸びていた。
(もう駄目。隠しきれない……)
翌日。
椿は刹那が出かけた晩、京極の屋敷を去ることにした。
『ここで暮らすことが出来なくなりました。いただいたご恩は決して忘れません。お礼とお詫びに鬼を連れて去ります』
感謝と謝罪の置き手紙を残し、椿はそっと屋敷を後にした。
街の人々は恐怖で震えあがり、刹那は何日も明け方まで鬼を捜索している。
刹那が持ち帰ってくる百合の花を見るたびに、白百合の声が聞こえてくるかのようだった。
『お姉様』
『白百合は寂しいわ』
『私は妹よ。忘れてないわよね?』
百合の花がそう訴えてくる。
椿は毎夜頭を抱えながら、いなくなった人たちの無事を祈ることしか出来なかった。
(一人喰らえば、しばらく力は持続する。そんなに何人も一気に喰らったりしない……はず。まだ生きているかもしれない。どうか……)
その上、椿は別の問題も抱えていた。
角が少しずつ伸び続けいていたのだ。ただ不思議なことに、角が伸びても刹那を喰らいたいという衝動は全くない。
人を喰らわなくても平気になったのは角を失ったせいだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
(だからといって、人々にはそんなこと関係ないわよね。角があれば鬼なのだから……)
髪の毛で隠すにも限界が近い。
それに最近、刹那に頭をじっと見られている気がする。
「せ、刹那様、どうかしましたか?」
「うん? いいや、何でもない」
このやりとりを何度しただろう。
椿は刹那と話すたびに心臓が張り裂けそうだった。
(こんな生活は、長くは続かないわ……)
そしてある晩、夢を見た。
川を挟んだ向こう岸に、白百合が立って微笑んでいる夢だ。
『お姉様、贈り物は気に入ってくれたかしら? 黒い百合って、とっても素敵でしょう?』
『でもお姉様ったら、白百合のこと全然呼んでくれないのね』
『寂しいわ。呼ばれたらすぐに駆けつけるつもりでしたのに……』
『だから、私から会いに来てあげたのよ。うふふっ』
「うぅ……。はぁっ! 夢……?」
とてつもない息苦しさに目を覚ますと、首に違和感を覚えた。
恐る恐る鏡で確認してみると、縄で締め付けられたかのような痕がついている。
それに、角がもう一目で分かるほど伸びていた。
(もう駄目。隠しきれない……)
翌日。
椿は刹那が出かけた晩、京極の屋敷を去ることにした。
『ここで暮らすことが出来なくなりました。いただいたご恩は決して忘れません。お礼とお詫びに鬼を連れて去ります』
感謝と謝罪の置き手紙を残し、椿はそっと屋敷を後にした。



