学校へは宮道の運転で二人揃って出勤する。
担当科目はバラバラだから、顔を合わすのは昼休みに化学準備室で会う時くらいだ。勤務先の高校は女子高で、教員の男女比も圧倒的に女性が多い。男性の教員もちらほらいるが、ほとんどが既婚者で、年齢も高め。自然と話が合う年齢は三善に絞られた。
宮道が作った弁当を二人で同じものを食べるのは何かと勘違いされそうなので、めんどくささ回避は否めない。
「そう言えば、さっきメール来とったな」
化学準備室に来る前にスマホに術者協会からの調査依頼が入っていた。今日の夜に駅近くの裏路地で頻発している妖に関する調査だった。場合によっては排除するようにとも書かれていた。
「めんどくせぇ。じじぃ共、こき使いすぎだろ」
弁当に入っていたブロッコリーを放り込んだ三善の目が死んでいた。中華味で炒めたが、気に入らなかったのだろうか。食に興味がない奴の弁当を作るのは、ある意味仕事よりも難しい。
「三善、今日仕事終わりは何時の予定や?」
「定時の予定だ」
「ほな、駅前でメシ食おうや。買い物してへんし、たまには良いやろ」
「……わかった」
「なんや、乗り気じゃなさそうやな?」
「別に」
難しい顔をして弁当を食べている三善を見て、首を傾げていると、化学準備室の扉をノックする音が聞こえた。
一瞬で雰囲気を変えた三善が返事を返すと、扉から顔をのぞかせたのは結菜だった。化学の教科書とノートを持っている。何か質問だろうか。
「先生たち、本当に仲が良いんですね」
扉を閉めてから結菜がそう言うと、三善も宮道も苦虫を嚙み潰したような顔で互いを見合った。
「冗談でも言うたらあかんで、それは。俺はコイツと仲良くないし」
「そうですか? クラスの子が言っていたんですけど、朝も一緒だし、帰りも一緒に変えることが多いって言ってたんで」
何やら女子高特有の情報網により、変な方に話が広がっていそうだ。
「それで、結菜ちゃんは授業の質問? すぐ、どくわ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「ん?」
「先生たちがどうして術者を目指したのか、訊きたくて」
想定していなかった方向からの質問に、宮道はじっと結菜を見た。
術者家系でありながら、能力としては素人と言われていてもおかしくない。ただ、呪力量と言う才能はけた違いだった。きちんと使えるようになれば、並みの術者を圧倒できるだろうし、本人が望めば術者協会でもトップクラスのスキルを手にすることができるだろう。
今までどうして術者を目指さなかったのかが不思議なくらいだ。
「んー、俺は術者の家やったし、それ以外の選択肢がなかったんや。自分の性格にもあってたし、ええかなって感じで選んで」
「そっか、最初から術者を意識してたから」
うんうんと、何度も頷いた結菜は納得した顔をしていた。
「ええと、三善先生はどうして?」
「……コイツとあんまり変わらない」
嘘だ。
宮道は知っている。どうして三善が術者になったのか。
だが、三善は結菜に話そうとはしない。
結菜も何かを感じ取ったのか、困ったように眉を下げた笑った。
「ですよねぇ。やっぱり術者の家なのに選択肢に入ってないのが、嘘っぽいですよね」
「まぁな」
そっけなく言っているが、気にしていないわけではない。
三善にとって、誰にも触れられたくない話に繋がるから、話したくないだけなのだ。
「せや、結菜ちゃんは進路に悩んでんの?」
「え、ええ。家からは修行のために京都の国立大に行くように言われてますけど、どうにもしっくりこなくて」
「自分が納得するまで悩んだら、ええよ。相談したかったら、いつでもおいで」
「ありがとうございます」
頭を下げて、結菜は化学準備室を出て行った。どこか不安そうな顔をして去っていくのが、妙に気になった。椅子から立ち上がって、追いかけようとしたところで三善に声をかけられた。
「辞めておけ。あいつの問題だろ。お前がそこまでする必要はない」
視線は弁当に戻っていた。横顔から何を考えているかはわからないが、少なくとも今三善が言ったことは本心ではないに違いない。
「……必要、ね。そうやな。教師はかりそめの姿やしな」
宮道もまた本心とは違う言葉を初めて口にした。
担当科目はバラバラだから、顔を合わすのは昼休みに化学準備室で会う時くらいだ。勤務先の高校は女子高で、教員の男女比も圧倒的に女性が多い。男性の教員もちらほらいるが、ほとんどが既婚者で、年齢も高め。自然と話が合う年齢は三善に絞られた。
宮道が作った弁当を二人で同じものを食べるのは何かと勘違いされそうなので、めんどくささ回避は否めない。
「そう言えば、さっきメール来とったな」
化学準備室に来る前にスマホに術者協会からの調査依頼が入っていた。今日の夜に駅近くの裏路地で頻発している妖に関する調査だった。場合によっては排除するようにとも書かれていた。
「めんどくせぇ。じじぃ共、こき使いすぎだろ」
弁当に入っていたブロッコリーを放り込んだ三善の目が死んでいた。中華味で炒めたが、気に入らなかったのだろうか。食に興味がない奴の弁当を作るのは、ある意味仕事よりも難しい。
「三善、今日仕事終わりは何時の予定や?」
「定時の予定だ」
「ほな、駅前でメシ食おうや。買い物してへんし、たまには良いやろ」
「……わかった」
「なんや、乗り気じゃなさそうやな?」
「別に」
難しい顔をして弁当を食べている三善を見て、首を傾げていると、化学準備室の扉をノックする音が聞こえた。
一瞬で雰囲気を変えた三善が返事を返すと、扉から顔をのぞかせたのは結菜だった。化学の教科書とノートを持っている。何か質問だろうか。
「先生たち、本当に仲が良いんですね」
扉を閉めてから結菜がそう言うと、三善も宮道も苦虫を嚙み潰したような顔で互いを見合った。
「冗談でも言うたらあかんで、それは。俺はコイツと仲良くないし」
「そうですか? クラスの子が言っていたんですけど、朝も一緒だし、帰りも一緒に変えることが多いって言ってたんで」
何やら女子高特有の情報網により、変な方に話が広がっていそうだ。
「それで、結菜ちゃんは授業の質問? すぐ、どくわ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「ん?」
「先生たちがどうして術者を目指したのか、訊きたくて」
想定していなかった方向からの質問に、宮道はじっと結菜を見た。
術者家系でありながら、能力としては素人と言われていてもおかしくない。ただ、呪力量と言う才能はけた違いだった。きちんと使えるようになれば、並みの術者を圧倒できるだろうし、本人が望めば術者協会でもトップクラスのスキルを手にすることができるだろう。
今までどうして術者を目指さなかったのかが不思議なくらいだ。
「んー、俺は術者の家やったし、それ以外の選択肢がなかったんや。自分の性格にもあってたし、ええかなって感じで選んで」
「そっか、最初から術者を意識してたから」
うんうんと、何度も頷いた結菜は納得した顔をしていた。
「ええと、三善先生はどうして?」
「……コイツとあんまり変わらない」
嘘だ。
宮道は知っている。どうして三善が術者になったのか。
だが、三善は結菜に話そうとはしない。
結菜も何かを感じ取ったのか、困ったように眉を下げた笑った。
「ですよねぇ。やっぱり術者の家なのに選択肢に入ってないのが、嘘っぽいですよね」
「まぁな」
そっけなく言っているが、気にしていないわけではない。
三善にとって、誰にも触れられたくない話に繋がるから、話したくないだけなのだ。
「せや、結菜ちゃんは進路に悩んでんの?」
「え、ええ。家からは修行のために京都の国立大に行くように言われてますけど、どうにもしっくりこなくて」
「自分が納得するまで悩んだら、ええよ。相談したかったら、いつでもおいで」
「ありがとうございます」
頭を下げて、結菜は化学準備室を出て行った。どこか不安そうな顔をして去っていくのが、妙に気になった。椅子から立ち上がって、追いかけようとしたところで三善に声をかけられた。
「辞めておけ。あいつの問題だろ。お前がそこまでする必要はない」
視線は弁当に戻っていた。横顔から何を考えているかはわからないが、少なくとも今三善が言ったことは本心ではないに違いない。
「……必要、ね。そうやな。教師はかりそめの姿やしな」
宮道もまた本心とは違う言葉を初めて口にした。


