三善先生のヒミツにご注意を【2】

 宮道先生が結菜を見つけると、ポケットから素早く白い札を出し、結界を張った。人払い用なのかもしれない。

「久しぶりやんな。元気やった?」
「は、はい。先生たちもお元気そうで」
「大変やったで、あの後。本部でガッツリ報告させられるし、怪我は痛いし。三善なんか寝込むしな」
「うるせぇ。過ぎたことを言うな」

 はい、相変わらず、大変怖いですね。この人、猫被らない姿は相変わらず教師に見えない。
 ぐるっと椅子を回して振り返った三善先生は丸眼鏡をはずしていた。眉間に皺が寄っている以外は、元気そうに見えた。

「なんやねん。人に世話させておいて。まぁ、そんな感じで俺ら結菜ちゃんのクラス担当になったから、よろしゅうな」
「先生たちって、講師じゃなかったでしたっけ? 講師って担任になれるんですか?」
「そこは本部の力でちょちょっとやってもろて、めでたく本年度より正式採用枠に入ったんや」
「そう、なんですか」

 正規の教員になるのは大変だって聞いたことがあるのに、こんなに簡単になって大丈夫なモノだろうか。主に三善先生に関しては。

「それで、何の用だ?」
「冷たいなぁ、三善。もう少し結菜ちゃんに優しくしたりや。自分がごねたんやろ、続けさせろって」

 宮道先生が言い終わる前に、三善先生は宮道先生の口を手で塞いだ。もがもがと何か言っているが、悲しいかな口を塞がれた宮道先生の言っていることが分からない。三善先生を見ると、うっすらと耳が赤くなっていたのに気が付いた。
 三善先生のわき腹に宮道先生のケリが入ったところで、宮道先生はニヤニヤ笑ったまま立っていた。

「脇が甘いんじゃ」

 わき腹を押さえていた三善先生が怒気を放ち、人を殺めそうな目で宮道先生を見ていた。一触即発。その言葉が浮かび、慌てて結菜は二人の間に入った。

「報告がありますっ」

 結菜の言葉にようやく二人は戦闘態勢を止めて、結菜を見た。

「私、こっちで術者を目指します」

 京都での修行は確かに質も良いだろうし、修行の種類も豊富かもしれない。
 だけど、それでは遅く始めた結菜には術者に必ずなれるほどの力がつけられるとは思えない。
 邪道かもしれないけど、三善先生のようになりたいから選んだ進路を二人に伝えると、二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
 しばらく黙っていると、宮道先生が先に顔を綻ばせた。その顔は人が良いとか、表裏がないとかではなく、純粋に喜んでくれていた。

「ええやん。なぁ、三善」

 恐る恐る三善先生の方を見ると、片手で顔の下半分を隠して俯いていた。なに、それ。どんな顔なの。結菜が伺うように顔を覗き込もうとすると、三善先生は顔を反らした。もしかして、嫌がられただろうか。
 不安そうに三善先生を見ていると、宮道先生がケラケラと笑った。

「なに照れてるん、三善」
「え、照れてる?」

 宮道先生の指摘でもう一度三善先生を見ると、確かに耳が真っ赤に染まっていた。

「こいつ、ほんまに嬉しい時は耳赤くしてん。かわいい奴やな」
「うるせぇ」

 なじるような言い方なのに、今は何故だか照れ隠しにしか聞こえない。
 初めてだったかもしれない、三善先生の素直な感情を見たのは。
 ぼんやりと三善先生を見ていると、深く眉間に皺を寄せた顔にすぐに戻った。もう少し見ていたかったなと思いつつ、この顔の時はそんなことを言ってはいけないと結菜はこの数分で学んだ。背筋を伸ばし、結菜は三善先生と宮道先生に向かって頭を下げた。

「また、稽古をつけてください。お願いします」
「当たり前やん」
「その前に受験勉強だろ。手ぇ抜くなよ」

 励ましなのか、注意なのかわからないが、結菜は頷いた。

「よし、じゃあこれからやるぞ」
「え? これから、ですか?」

 明日は実力テスト。今日は帰って勉強をしないといけない。なのに、今から修行ですか。

「お前が言ったんだろ、稽古をつけろって」

 言いました。言いましたけど、何も今日からではなくてもっ。
 ちょっと涙目になりかけた結菜だったが、それすらも久しぶりな感じがして、ようやくいつもの日常が戻ってきた気がした。
 先生たちとの待ち合わせ時間と場所を決めると、結菜は化学準備室を出ようと扉に手をかけた。

「日下部、これ持ってろ」

 三善先生から渡されたのは、ガチャガチャで見かけるようなキーホルダー。しかも、かわいいキャラもの。この人、どんな顔でこれを買ったんだろうか。
 不思議そうにキーホルダーを見ていると、宮道先生が解説してくれた。

「簡単な結界が組み込まれてるんや、それ。発動すれば俺らに自動通知してくれるから、何かあってもすぐに駆け付けたるわ」
「だから、必ず持ち歩け」

 二人の優しさに感謝をして、結菜は鞄につけた。なんだか、こそばゆい。きらりと光ったキーホルダーを人差し指で撫でてから、結菜は化学準備室を出た。

 さあ、まずは勉強と修行だ。