今年の桜は例年よりも遅く開花したせいか、入学式の時も始業式の時も満開だった。もう数日もすれば散り始めるだろう。
久しぶりの制服に袖を通した結菜は、クラス分けの掲示板を見た。
クラスは三つ。
国立大進学コース、私立理系コース、私立文系コース。
結菜が自分の名前を見つけるのにあまり時間はかからなかった。自分の名前を見つけると誰かに肩を叩かれた。
「結菜、久しぶりっ。今年もよろしくねっ」
嬉しそうに顔をほころばせると、茉優もどうやら国立大学進学コースを選択したらしく、同じクラスになった。
「担任と副担任、誰だろうね?」
「うちの学校、妙なサプライズ感だすからねぇ」
クラス分けの掲示板には担任も副担任も掲載されない。教室に着くと、既にいるというサプライズ発表をされるのだ。
三年生のクラスは比較的校舎の上層階にある。階段を毎日三階まで上がるのは、受験に向けた体力づくりという噂だ。受験に体力がどのくらい必要なのかわからないけど、とりあえず上るしかないのは変わらない。
賑やかな一階と二階を通り過ぎると、比較的静かな階に辿り着いた。三年生の教室は化学準備室、数学準備室を通り過ぎた先にある。おかげで、寝坊しようものなら昇降口から教室までのダッシュは欠かせない。
茉優と並んで教室に向かうと、化学準備室の前でふと足を止めた。
何も物音がしない。中に誰もいなさそうだ。まだ、三善先生は休んでいるのだろうか。せっかく報告したいこともあるのに。
「ねぇ、クラス、騒がしくない?」
茉優に声をかけられて、一番奥のクラスを見ると、他のクラスとは違い黄色い声が溢れていた。そのせいか、他クラスの生徒も教室の外から中を伺っていた。
これだけはしゃぐ理由は、もしかして。
結菜は教室に駆け寄って、人垣をかき分けて、中を覗いた。
「そろそろ予鈴なるでー」
陽気な声で生徒たちに声をかけたのは、表裏がなさそうな先生だった。始業式の日だからか、ジャケットを羽織っている。でも、スーツが似合っていない気がした。
もう一人の先生はいつも通りの白衣姿。こちらは着慣れているのか違和感はない。
その先生は、黒板に今日から数日のスケジュールを丁寧に書いていた。見たことがある字の形に結菜は目を瞬かせた。
黒板に字を書き終えた先生は手についたチョークを払うと、振り返った。タイミングよく予鈴がなり、結菜と茉優は慌てて席に座った。教室内はまだ落ち着かない。無理もない、この二人がクラス担当なのだから。
窓際の一番後ろに座った結菜は、机の下で両手をギュッと握った。
「お久しぶりですね、皆さん。このクラスの担任の三善です」
「副担することになった宮道やでぇ。よろしゅうなー」
相変わらず大層分厚い猫を被った三善先生と、人好きするような顔で朗らかな挨拶をした宮道先生がそこにいた。
待ってた。会えるのを。また会えるとは思っていなかった。
ぐっと手を強く握って、前を向いた。
なんてことない顔をしたいのに、今にも顔がくしゃっと歪みそうだ。
学校で若手男性教師が二人もいることに動揺を隠せないクラスの空気の中、大変愛想が良い顔で三善先生がクラスを見渡した。
「受験生という大変な一年ですが、精一杯サポートします。遠慮なく相談してくださいね」
最後の一言は結菜をじっと見て言った。ように見えた。
「それでは、この後のスケジュールですけど」
淡々と説明が終わり、始業式も終えると解散となった。明日から三年生だけは実力テストが二日間に渡ってある。早速受験生らしい生活になったと実感させられた。
クラスで茉優と別れると、結菜の足は自然と化学準備室に向かっていた。手には化学の教科書とノートを持っているから、変には見られないはず。軽く深呼吸をしてから、結菜がノックするとすぐに返事がした。
さっと中に入ると、机の上に向かってパソコンで作業中の三善先生がいた。その背中に声をかけようとしたところで、後ろの扉が勢いよく開いた。
「三善、明日の……って結菜ちゃん?」
久しぶりの制服に袖を通した結菜は、クラス分けの掲示板を見た。
クラスは三つ。
国立大進学コース、私立理系コース、私立文系コース。
結菜が自分の名前を見つけるのにあまり時間はかからなかった。自分の名前を見つけると誰かに肩を叩かれた。
「結菜、久しぶりっ。今年もよろしくねっ」
嬉しそうに顔をほころばせると、茉優もどうやら国立大学進学コースを選択したらしく、同じクラスになった。
「担任と副担任、誰だろうね?」
「うちの学校、妙なサプライズ感だすからねぇ」
クラス分けの掲示板には担任も副担任も掲載されない。教室に着くと、既にいるというサプライズ発表をされるのだ。
三年生のクラスは比較的校舎の上層階にある。階段を毎日三階まで上がるのは、受験に向けた体力づくりという噂だ。受験に体力がどのくらい必要なのかわからないけど、とりあえず上るしかないのは変わらない。
賑やかな一階と二階を通り過ぎると、比較的静かな階に辿り着いた。三年生の教室は化学準備室、数学準備室を通り過ぎた先にある。おかげで、寝坊しようものなら昇降口から教室までのダッシュは欠かせない。
茉優と並んで教室に向かうと、化学準備室の前でふと足を止めた。
何も物音がしない。中に誰もいなさそうだ。まだ、三善先生は休んでいるのだろうか。せっかく報告したいこともあるのに。
「ねぇ、クラス、騒がしくない?」
茉優に声をかけられて、一番奥のクラスを見ると、他のクラスとは違い黄色い声が溢れていた。そのせいか、他クラスの生徒も教室の外から中を伺っていた。
これだけはしゃぐ理由は、もしかして。
結菜は教室に駆け寄って、人垣をかき分けて、中を覗いた。
「そろそろ予鈴なるでー」
陽気な声で生徒たちに声をかけたのは、表裏がなさそうな先生だった。始業式の日だからか、ジャケットを羽織っている。でも、スーツが似合っていない気がした。
もう一人の先生はいつも通りの白衣姿。こちらは着慣れているのか違和感はない。
その先生は、黒板に今日から数日のスケジュールを丁寧に書いていた。見たことがある字の形に結菜は目を瞬かせた。
黒板に字を書き終えた先生は手についたチョークを払うと、振り返った。タイミングよく予鈴がなり、結菜と茉優は慌てて席に座った。教室内はまだ落ち着かない。無理もない、この二人がクラス担当なのだから。
窓際の一番後ろに座った結菜は、机の下で両手をギュッと握った。
「お久しぶりですね、皆さん。このクラスの担任の三善です」
「副担することになった宮道やでぇ。よろしゅうなー」
相変わらず大層分厚い猫を被った三善先生と、人好きするような顔で朗らかな挨拶をした宮道先生がそこにいた。
待ってた。会えるのを。また会えるとは思っていなかった。
ぐっと手を強く握って、前を向いた。
なんてことない顔をしたいのに、今にも顔がくしゃっと歪みそうだ。
学校で若手男性教師が二人もいることに動揺を隠せないクラスの空気の中、大変愛想が良い顔で三善先生がクラスを見渡した。
「受験生という大変な一年ですが、精一杯サポートします。遠慮なく相談してくださいね」
最後の一言は結菜をじっと見て言った。ように見えた。
「それでは、この後のスケジュールですけど」
淡々と説明が終わり、始業式も終えると解散となった。明日から三年生だけは実力テストが二日間に渡ってある。早速受験生らしい生活になったと実感させられた。
クラスで茉優と別れると、結菜の足は自然と化学準備室に向かっていた。手には化学の教科書とノートを持っているから、変には見られないはず。軽く深呼吸をしてから、結菜がノックするとすぐに返事がした。
さっと中に入ると、机の上に向かってパソコンで作業中の三善先生がいた。その背中に声をかけようとしたところで、後ろの扉が勢いよく開いた。
「三善、明日の……って結菜ちゃん?」



