春休みは、部活もない結菜にとっては平穏な日々だった。
学年末テストの成績もまずまず。希望通り国立進学コースを選べることになった。
自室で予備校の課題をやりながら、窓越しに外を見た。寒さは緩み、温かな日差しが部屋の中に差し込んでいる。
術者の修業はあの日から全くやっていない。
師匠としての三善先生も、一緒にいてくれた宮道先生も交戦後からずっと仕事を体調不良で休んでいた。幸いなのか、授業もテストの返却だけだったので、他の先生が返すだけで終わった。
テストが返却されれば、残ったのは終業式だけ。だけど、結局終業式になっても二人は戻って来なかった。
一度だけ家に行ったことがあるから、訪ねることもできた。
でも、行かなかった。
今後のことを何も決めていない結菜が訪れて良い場所には思えなくて、今も足を向けることを躊躇ってしまっている。
心配性の勇人のせいもあるが、外出の時もついてくるし、行く先は買い物か予備校くらいに絞られてしまっていた。正直、勇人が四六時中一緒というのは、ウザい。変なストレスだけが溜まって、思うように受験勉強に身が入りづらい。
レースカーテンを開けて、外を見ると、何もないほど平和に見えた。
あの事件以降、妖はぴったりとなりを潜めたかのようだった。
今までは近くのコンビニに出かけても超低級妖でも見えたのに、まるであの幽霊列車が全ての妖を連れてどこかに雲隠れしているみたいに思えた。
「進路、どうしよう」
外を見ながら、ぽつりと独り言がこぼれた。机の上に辞書と一緒に置かれた極太の大学案内を手に取った。
関西の国立大。
決められた進路を取るべきだろうか。
そもそも、術者に本当になりたいのか、というのが頭にこびりついて離れない。大学案内を捲っても、就職先に術者協会の文字はない。出版社、鉄鋼業、鉄道会社エトセトラエトセトラ。世の中にはいろいろな仕事があるのは知っていた。
だけど、結菜の中にはなかった。
一度、術者と関係がないところで勉強もしたらどうだろうか。否、ちょっと前の自分と何も変わらない気がする。
何者になりたいか。
小さい頃から問われてきたことに、答えられたことが無い。
なんとなく、お菓子屋さん。
なんとなく、看護師さん。
なんとなく、なんとなく、なんとなく。
妖が視えるという奇妙な能力があったせいか、周りに合わせてばかりいた。自分の意見をきちんと言うこともなく、流されて、行きついた先が今な気がする。
化学で使っているノートの一番後ろのページを徐に開いた。
術者。
文字にしても、しっくりこないけど、今までよりは『なんとなく』で選んではいないのだけは、理解できた。
じゃあ、ここからどうする?
自分の中に疑問は浮かんだけど、なりたいものは少しだけ見つけられた。
もう揺るがない。
ようやく決断をしたのは始業式の前日だった。
学年末テストの成績もまずまず。希望通り国立進学コースを選べることになった。
自室で予備校の課題をやりながら、窓越しに外を見た。寒さは緩み、温かな日差しが部屋の中に差し込んでいる。
術者の修業はあの日から全くやっていない。
師匠としての三善先生も、一緒にいてくれた宮道先生も交戦後からずっと仕事を体調不良で休んでいた。幸いなのか、授業もテストの返却だけだったので、他の先生が返すだけで終わった。
テストが返却されれば、残ったのは終業式だけ。だけど、結局終業式になっても二人は戻って来なかった。
一度だけ家に行ったことがあるから、訪ねることもできた。
でも、行かなかった。
今後のことを何も決めていない結菜が訪れて良い場所には思えなくて、今も足を向けることを躊躇ってしまっている。
心配性の勇人のせいもあるが、外出の時もついてくるし、行く先は買い物か予備校くらいに絞られてしまっていた。正直、勇人が四六時中一緒というのは、ウザい。変なストレスだけが溜まって、思うように受験勉強に身が入りづらい。
レースカーテンを開けて、外を見ると、何もないほど平和に見えた。
あの事件以降、妖はぴったりとなりを潜めたかのようだった。
今までは近くのコンビニに出かけても超低級妖でも見えたのに、まるであの幽霊列車が全ての妖を連れてどこかに雲隠れしているみたいに思えた。
「進路、どうしよう」
外を見ながら、ぽつりと独り言がこぼれた。机の上に辞書と一緒に置かれた極太の大学案内を手に取った。
関西の国立大。
決められた進路を取るべきだろうか。
そもそも、術者に本当になりたいのか、というのが頭にこびりついて離れない。大学案内を捲っても、就職先に術者協会の文字はない。出版社、鉄鋼業、鉄道会社エトセトラエトセトラ。世の中にはいろいろな仕事があるのは知っていた。
だけど、結菜の中にはなかった。
一度、術者と関係がないところで勉強もしたらどうだろうか。否、ちょっと前の自分と何も変わらない気がする。
何者になりたいか。
小さい頃から問われてきたことに、答えられたことが無い。
なんとなく、お菓子屋さん。
なんとなく、看護師さん。
なんとなく、なんとなく、なんとなく。
妖が視えるという奇妙な能力があったせいか、周りに合わせてばかりいた。自分の意見をきちんと言うこともなく、流されて、行きついた先が今な気がする。
化学で使っているノートの一番後ろのページを徐に開いた。
術者。
文字にしても、しっくりこないけど、今までよりは『なんとなく』で選んではいないのだけは、理解できた。
じゃあ、ここからどうする?
自分の中に疑問は浮かんだけど、なりたいものは少しだけ見つけられた。
もう揺るがない。
ようやく決断をしたのは始業式の前日だった。



